Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

アダムとエバをめぐる福音派の討論から学ばれなかった教訓

This is the Japanese translation of this site.

 

ケイシー・ラスキン
2021/11/23 14:42

 

編集部注: ケイシー・ラスキンが、哲学者ウィリアム・レーン・クレイグの新刊を複数回に分けてレビューしていきます。以下はその最終回です。レビュー全体はこちらをご覧ください。

 

前回、ウィリアム・レーン・クレイグの『In Quest of the Historical Adam: A Biblical and Scientific Exploration』のレビューで、福音派の知識人の多くが、アダムとエバは存在し得なかったという主張を受け入れてきたことを見ました。これらの論議、特に人間の遺伝的多様性は一組の夫婦に還元するにはあまりにも大きいという主張は、『BioLogos』の関係者の有神論的進化論者、別名進化的創造論者 (TE/EC) によって協力に推進されました。これらの批評家の中で目立っていたのは、トリニティ・ウエスタン大学の生物学者デニス・ヴェネマで、現代のアダムとエバの信条を、否定されて久しい太陽系の天動説モデルに固執することになぞらえました。しかし、『BioLogos』やヴェネマも今では認めているように、この論議は間違っていることが判明しました。

 

彼の名誉のために言うと、ウィリアム・レーン・クレイグは、歴史上のアダムとエバに反対する論議に進んで疑問を呈してきた福音派の一人です。クレイグはその著書の中で、人類が少なくとも50万年前に一組の夫婦に起源を持つ可能性を示す分析を行ったアン・ゲイジャー、ウーラ・ヘスフェルジョシュア・スワミダスの研究を引用しています。ゲイジャーとヘスフェルは、もし付加的な進化論的な仮定を疑うなら、アダムとエバはもっと最近に生きていた可能性があると指摘しました

 

歴史上のアダムとエバを放棄することを唱道する福音派のエリートたちが使うレトリックを読んだとき、私はその多くが恐怖に駆られているように見えたことに衝撃を受けました。進化論に挑戦し、間違っていることを示され、世間の前で愚かに見えてしまうことへの恐れです。私が議論したとおり、この話から得られる教訓は、福音派が進化の論議に挑戦することをタブー視するべきではないということです。一部の福音派エリートが論じているように、そうすることが「反科学」であるとか、「クリスチャンの信仰に悪評をもたらす」、「イエス・キリストのお名前に恥をもたらす」、などと恐れて暮らす必要はないのです。

 

私のレビューの最後となる今回は、著名なクリスチャンの中に、残念ながらこの教訓を十分に理解していない人がいることを見ていきましょう。彼らは、説得力のある証拠がないにもかかわらず、進化論のコンセンサスに固執し、過去の間違いを繰り返し、ある種の進化的考えを受け入れることに没頭しているようです。具体的に言うと、

  1. 現在、『BioLogos』、ジョシュア・スワミダス、そして (時には) ウィリアム・レーン・クレイグは、人類の起源について、人類はすべて類人猿と共通の先祖から標準的な進化メカニズムで進化したヒト科の集団に由来する、という特定のモデルを唱道しています — まさしく進化論が提唱する通りです。この「系図上のアダムとエバ」モデルでは、アダムとエバは歴史上の人物で、特別に創造されたのかもしれませんが、その子孫は十分に進化したヒト科と交雑し、最終的に私たちにつながりました。このモデルは根本的に進化論的ですが、証拠はこれと矛盾しているか、あるいはこれを必要としていません。
  2. クレイグはその著書の中で、上記のモデルが「ヒトではないヒト族との獣的関係」を示唆するために嫌っているように見えることがあります。それよりも彼は、「アダムとエバが、チンパンジーや他の大型類人猿と共通の先祖を持つヒト族の集団から出現したと思い描けば、そのような交雑に訴える必要はない」と言うことを好んでいます (p.378ページ)。このモデルも、証拠から挑戦を受けています。
  3. クレイグが、アダムとエバが類人猿と共通の先祖から直接進化したという標準的な進化モデル (上記2のモデル) と、アダムとエバの子孫が類人猿と共通の先祖から進化したヒト科と交雑・混血したという新しいモデル (上記1のモデル) のどちらを支持していても、クレイグはヒトが類人猿と共通の先祖を共有しているという考えに動かされています。どちらの場合でも、彼は「壊れた」偽遺伝子をヒトと類人猿の共通の先祖の証拠として引用しており、一次資料としてデニス・ヴェネマに頼っています。利用可能な最善の科学は、このモデルが真実であることも要求していません。

上記のモデルにおいて、アダムとエバをめぐる福音派の討論から学べる教訓を十分に理解していないクリスチャンがいるように思われます。進化的モデルに挑戦することは必然的に良い科学に反対することだと恐れる必要はありません。恐れるよりもむしろ、真実を見いだしたいという願望に駆られるようにしましょう。それでは、掘り下げていきましょう。

系図上のアダムとエバのモデルに関する教訓を学んでいない

2021年7月の『BioLogos』の記事では、歴史上のアダムとエバのあるバージョンの可能性を今や認めています。彼らは次のように述べています。

 

選択肢に含まれるのは・・・アダムとエバが特別な、歴史上の夫婦であり、現在生きているすべての人の先祖であるが、その子孫が交配できるような大きな集団の一部であったという仮定である1

 

この見解では、アダムとエバは、その子孫が類人猿に似た先祖から進化したヒト科の集団と交雑した歴史上の人物だったとします。注意すべき点として、BioLogosはこの見解を、私たちの「唯一の祖先」として「アダムとエバが新たに創造され、彼らだけが他のすべての人間を生じさせた」とする「ありふれた伝統的な」見解と区別しています2。『BioLogos』はこの伝統的な見解をやはり嫌っており、代わりにアダムとエバはまさしく存在したけれども、その子孫は類人猿に似た生物から自然に進化したヒトの集団と交雑していたとする方を好んでいるようです。このように、今日の『BioLogos』は、私たちがアダムとエバに由来するのと同時に、進化したヒト科の子孫であり、現存する類人猿と共通の先祖を持つと提唱しているように見えます。この「系図上のアダムとエバ」(GAE) モデルは、間違いなく「ありふれた伝統的な」見解ではありません。

 

GAEモデルは、ジョシュア・スワミダスが2019年に『The Genealogical Adam and Eve: The Surprising Science of Universal Ancestry (English Edition)』という本で精緻化しました3このレビューの第4回で見たように、ウィリアム・レーン・クレイグはこの提案がアダムとエバの子孫とヒトではないヒト族との「獣的」関係を示唆するためにこれとは距離を置くことがあります。しかし、最終的な分析ではGAEモデルを容認しているように見えます。

 

私はクリスチャンとして、GAEモデルには神学的、聖書的に重大な問題があると信じていますが、ここはそのような論議のための場所ではありません。いずれにせよ、私の主な反論は科学的なものです。科学的には、GAEモデルは人類の起源に関する標準的な進化的見解を採用し、もしアダムとエバが特別に創造されたなら、その子孫は十分に進化したヒト科の集団と交雑し、完全に混ざり合ったと述べています。私たちはこの大きな集団の子孫なのです。GAEは人類の起源について標準的な進化論説明を採用しているので、そのような説明の科学的問題はすべてGAEモデルでも継承されます。その科学的証拠は、私たちがこの見解を受け入れなければならないほど説得力があるのでしょうか?

 

このレビューの第3回で見たように、類人猿に似た生物から人類が進化したという化石の証拠は弱く、ネオダーウィニズムのメカニズムは私たちの認知能力のような複雑な人類の特徴の起源を説明するに際し圧倒的な数学的障害に直面しています。これらの理由から、GAEモデルの多くの側面には科学的な問題があります。もし人類が標準的な進化メカニズムによって類人猿に似た生物から進化したのではないのであれば、GAE仮説を採用する説得力のある理由は見当たりません。

 

さらに、このレビューの第5部では、ゲイジャーとヘスフェルの研究、およびスワミダス自身のモデル化が、アダムとエバが十分遠い過去に住んでいた場合、現生人類の遺伝的多様性は、私たちの唯一の先祖である最初の夫婦と矛盾しないことを示していることを見てきました。これによって、GAEモデルの主要な特徴である、何千もの進化上の先祖を持ち出す必要がなくなりました。

 

では、もし人類の進化に関する科学的証拠が弱く、GAEモデルが必ずしも証拠から必要とされていないとしたら、なぜ『BioLogos』やスワミダス、そして (結局のところ) ウィリアム・レーン・クレイグによって支持されているのでしょうか?これらは複雑な問題で、おそらく多くの理由があるのでしょう。しかし、推測するなら、そのうちのいくつかは、そもそも人々に歴史的なアダムとエバを誤って却下させたのと同じ理由ということになりそうです。

 

GAEモデルでは、歴史上のアダムとエバのあるバージョン (非伝統的なものではありますが) についての信条を維持しながら、人間の起源について完全に進化的なモデルを採用することを可能にします。このことは、このレビューの第5部で見たように、進化論に挑戦することが「クリスチャンの信仰に不評をもたらす」、「イエス・キリストのお名前に不必要な恥をもたらす」と誤って信じている人々に訴えるものです。ポール・ネルソンは、GAEモデルの背後にある原動力となる哲学は方法論的自然主義4、つまり科学を研究するとき、自然主義的な力とメカニズムだけが持ち出すことを許されるという考えへの事前のコミットメントであると説得力を持って論じています。GAE支持者のすべてが方法論的自然主義を強く意識しているわけではないかもしれませんが、どのような理由であれ、進化モデルを維持することを強く意識していることは確かなようです。

 

とはいえ、もし私たちが進化や方法論的自然主義や世間体よりも科学や真実を重視するならば、おそらくGAEモデルこそが「不要」です。多くのGAE支持者が反対し、これは科学によって要求されていることだと言うであろうことは確信しています。しかし、科学は本当に、私たちが類人猿と共通の先祖を持たなければならないのかについて明確なのでしょうか?その証拠については、まもなく分かるでしょう。

 

系図上のアダムとエバのモデルを採用した理由が何であれ、『BioLogos』が認めているように、それは「ありふれた伝統的な」アダムとエバではありません。GAEのシナリオでは、アダムとエバは人類の唯一の祖先ではなく、私たちは彼らのみに由来しているのではなく、類人猿に似た先祖から十分に進化したヒトの大集団の子孫でもあります。したがって、伝統的なアダムとエバを信奉するクリスチャンは、GAEモデルには難色を示すでしょう。

偽遺伝子の教訓を学んでいない

クレイグは、アダムとエバに反対する『BioLogos』の主張の終焉を語っていますが、共通先祖を支持するために彼らの論議を今も使用しています。クレイグはデニス・ヴェネマを引き合いに出して、ヒトと類人猿の共通先祖の証拠として偽遺伝子に言及しています。

 

代わりに、スワミダスやヘスフェルやゲイジャーと同じように、アダムとエバの新たな創造を仮定することもできる。しかしその場合、難しいジレンマに直面することになる。チンパンジーとの遺伝的類似性を説明するには、神が同じようなデザインプランを繰り返し使用したか、人間以外との交雑がかなりあったかのどちらかに基づかなければならない。前者は、我々がチンパンジーと共有している壊れた偽遺伝子を説明するのが難しい・・・。( 376ページ、強調追加)

 

前述のように、クレイグはGAEモデルがアダムとエバの子孫とヒトではないヒト科との獣姦を示唆するとして、これを嫌うことがあります。もし、GAEモデルを受け入れず、アダムとエバが私たちの唯一の遺伝的祖先であることを望むなら、見たところ彼には二つの選択肢があります。アダムとエバが奇跡的に創造され、類人猿と共通の先祖を持たないというバージョンを受け入れるか、アダムとエバは類人猿と共通の先祖を持つ十分に進化したヒト族であると見るかです。クレイグはどうやら後者の選択肢、共通先祖を好むようです。

 

アダムとエバが無生の物質から新たに創造されたにもかかわらず、その子孫が、本来の機能を停止した壊れた偽遺伝子を含め、チンパンジーとこれほどまでに著しい遺伝的類似性があることを説明するために、他の進化したヒト族の種との交雑に訴える者もいる (S・ジョシュア・スワミダス、『The Genealogical Adam and Eve: The Surprising Science of Universal Ancestry』[イリノイ州ダウナーズ・グローブ: IVP Academic、2019年])。ヘスフェルとゲイジャーの新規創造説に対する、ヒトゲノムにチンパンジーやゴリラのような他の種と共通の先祖を持つという証拠が満ちていることに基づくデニス・ヴェネマの批判を参照せよ (デニス・ヴェネマ、「Adam-Once More, with Feeling」、『Jesus Creed』(ブログ)、2019年11月4日、 http://www.patheos.com/blogs/jesuscreed/2019/11/04/adam-once-more-with-feeling)。アダムとエバが、チンパンジーや他の大型類人猿と共通の先祖を持つヒト族の集団から出現したと思い描けば、そのような交雑に訴える必要はない。実際、ここで提案されている見解によれば、アダムとエバは私たちの唯一の遺伝的祖先であり、その子孫はヒトではないヒト族との獣的関係に陥ることはなく、少なくともそうした関係から産まれた子孫はいないことになる。(378ページ)

 

このレビューの第4回で見たように、GAEモデルは人間と類人猿の共通先祖を保持し、奇跡的に創造された歴史上のアダムとエバの余地を許容するようにデザインされていますが、私たちの「唯一の遺伝的祖先」としてのアダムとエバは失われています。上記のように、クレイグが好んでいるように見える直接共通先祖モデルは、アダムとエバが類人猿と共通の先祖に由来するいう見解ですが、彼らが「奇跡的に新たに創造された」ことは許容しません。どちらのモデルもヒトと類人猿の共通先祖が関係しており、クレイグはどちらのモデルを好んでいるか明らかにしていませんが、アダムとエバが私たちの唯一の遺伝的先祖であり、奇跡的に新たに創造され、類人猿と共通先祖を共有しないとする真の伝統的モデルよりも、ヒトとチンパンジーの共通祖先モデルのあるバージョンを好んでいることは明らかです。

 

なぜクレイグは、伝統的なアダムとエバの核となる要素を進んであきらめ、ヒトと類人猿の共通先祖を必要とするモデルを選ぶのでしょうか。その答えは、彼が上記の両方の引用で使っている言葉、「壊れた偽遺伝子」に要約されます。

 

その論理は次のようなものです。偽遺伝子とは、かつて機能を有していたものの、何らかの突然変異によって不活性化された壊れた遺伝子のことです。神は壊れたDNAを2つの種の同じ場所に入れることはない、というのがその論議です。したがって、もしヒトと類人猿がそれぞれゲノムの同じ場所に非機能的な偽遺伝子を持つならば、私たちは何らかの自然な、デザインされたのではないメカニズム、すなわち共通の先祖からの継承によってその偽遺伝子を獲得したに違いないということです。

 

インテリジェントデザインは共通先祖と両立可能なので、この論題を議論するにあたっては、必ずしもマクロスケールでIDを検証しているわけではありません。しかし、小さなスケールでは、2つの種に共通する壊れたDNAは、知的な原因よりも物質進化的な原因の方がよりよく説明されるという論理は正しいように思えます。しかし、偽遺伝子が壊れた非機能的なジャンクDNAでないとすれば、それらはゲノムの重要な機能的部分である可能性が出てきます。その場合、我々が類人猿と「偽遺伝子的」DNAを共有している理由は、共通の先祖ではなく、共通のデザインを反映した機能的に重要な理由であることになります。

 

では、偽遺伝子は本当に「壊れた」非機能的なジャンクDNAなのでしょうか?さて、文献では何と述べられているでしょうか?

技術文献の中で急増している傾向: 偽遺伝子の機能

実際、偽遺伝子の広範な機能を報告した論文の数には目を見張るものがあります。多くの著名な査読付き科学論文に、「かつて我々は偽遺伝子をジャンクDNAだと考えるのが常だったが、それは我々がそれらを理解する技術を持っていなかったからに過ぎない」(私の言い換え) というようなことが述べられています。私たちはまだ偽遺伝子をほとんど理解していません。しかし今は、それらを研究する方法を開発しており、機能性がかなり一般的であることを発見しているところです。これは、偽遺伝子には「様子見」のアプローチを取り、類人猿との共通先祖を反映した壊れたDNAに過ぎないと早合点しない方が賢明かもしれない、ということを意味します。

 

2021年9月に出版されたばかりの『BioEssays』の論文「Processed pseudogenes: A substrate for evolutionary innovation」の論点を考えてみましょう。

 

神経発生、炎症反応、癌などの生物学的仮定における偽遺伝子の関与により、偽遺伝子が進化上の「ジャンク」であるという観念は再検討を必要とする。しかし、偽遺伝子の活性の程度についての精査は貧弱な状態にとどまっているが、これは部分的にはおそらく、非機能性を前提とする「偽遺伝子」という用語に内在するバイアスによるものであろう。さらに、技術的な欠点により、偽遺伝子の活性をほぼ同一の親遺伝子の活性と明確に区別することが阻害されてきた5。[強調追加]

 

論文では、偽遺伝子は慣例的に「押し並べて機能を持たないというラベルを貼られている」とはいえ、実のところ、それらについては「比較的知られていない」ことが説明されています。

 

重複した遺伝子の多くは退化する運命にあるという大野の仮定に従って、ジャックは共同研究者と共に、同定された5SリボソームRNA「偽」遺伝子は進化の産物であると結論した。これらの意見は、他の遺伝子との類似性を持ち、欠陥のあるように見える配列を偽遺伝子に分類する枠組みの基礎を提供した。その後、ゲノム革命により、偽遺伝子の特徴を持つゲノムの領域は、押し並べて機能を持たないというラベルを貼られていると見なされた。偽遺伝子の数とタンパク質コード遺伝子の数はほぼ同じ (14767個 (72%がプロセス型、24%が重複型、1.6%が重複型 [訳注: 元論文の誤りの可能性があり、正しくは単一型 (ユニタリー型) と思われます。]、2.4%がその他) と19957個) であるが、ヒトゲノムの進化への偽遺伝子の貢献については比較的知られていない。

 

偽遺伝子が非機能性のジャンクであると考えるクリスチャンの知識人は、進化的パラダイムから直接生じた仮定を採用しているのであり、そしてそれは実際にはほとんど分かっていないゲノムの一面についての仮定です。クリスチャンもその他の人々も、偽遺伝子の機能を予期したり、少なくとも偽遺伝子が遺伝的「ジャンク」であるという時流に乗ることに慎重になったりすることは、良い科学の否定になると恐れる必要はありません。

 

他の多くの権威ある論文も同じように論じています。シュプリンガーの生化学雑誌に掲載された2018年の論文は、次のようにコメントしています。

 

長い間、偽遺伝子は進化の過程が進行する結果必然的に生じる「ジャンクDNA」であると考えられてきた。しかし、近年得られた実験データからは、偽遺伝子の性質に関するこの理解は完全には正しくなく、多くの偽遺伝子が重要な遺伝的機能を実行していることが示唆されている。・・・偽遺伝子は、相互作用する遺伝子の広範な制御ネットワークの不可欠な構成要素である。6

 

この論文は次のように続けています。

 

新世代DNAシーケンシング (NGS) の発達は、全般的転写現象という予期せぬ発見をもたらした。タンパク質をコードするエクソン配列は動植物ゲノムのごく一部 (ヒトゲノムの2%以下) を占めるに過ぎないが、その大部分は転写されている。それゆえ、偽遺伝子RNA (psRNA) が研究対象のトランスクリプトームにおいて顕著に表れていても驚くには値しない。したがって、同定された全ヒト偽遺伝子 (約15,000-18,000) の約10%が転写されていると思われる。利用可能な実験データによると、転写される偽遺伝子は3つのグループに分けられる。(1) 普遍的に転写されるもの、(2) 非特異的に転写されるもの、(3) 厳密に組織特異的な仕方で転写されるものである。通常、普遍的に発現する偽遺伝子は、偽遺伝子の数が最も多いハウスキーピング遺伝子に関連している。偽遺伝子の2番目のグループ、特にCYP4Z2PやOct-4、Connexin-43、BRAF遺伝子の誘導体は、一つか二つの組織型では高発現するが、他の組織では低い発現レベルを示す。最後に、AURKA (腎臓)、RHOB (腸) 遺伝子の誘導体など、約150のヒト偽遺伝子が厳密に組織特異的に転写されることが示された。組織特異的な転写の特徴は、これらの偽遺伝子が組織特異的な機能を実行していることを示唆している。一般に、転写された偽遺伝子の大部分は精巣で検出され、一方、筋肉組織では転写された偽遺伝子の数は最も少ない。

 

今読んだ内容を理解することが重要です。私たちはすでに約10%の偽遺伝子について、機能の証拠を見ています。進化論者がかつて不可能だと考えていたことです。しかし、多くの偽遺伝子は、特定の組織で、特定の時期にしか発現しないのです。このことは、これらの偽遺伝子の機能や目的を検出することが非常に困難であることを示唆しています。なぜでしょうか?なぜなら、これらの遺伝子は、人間のライフサイクルの中で、ごくまれにしか活性化しない可能性があるからです。人間を一生研究室に閉じ込めておいて、すべての組織型で何が起こっているのかを見ることはできません。論文が次のように説明している通りです。

 

偽遺伝子の発見からすでに40年が経過しているが、現代の手法によるこれらのゲノム構成要素の解明はまだ始まったばかりである。[強調追加]。

 

それでも、『Annual Review of Genetics』誌の論文は次のような観察を述べています。「偽遺伝子を適切に精査すると、しばしば機能的な役割が見られる」7。同様に、2012年の『RNA Biology』の論文には、「偽遺伝子は長い間ジャンクゲノムDNAと考えられてきた」 が、「偽遺伝子の制御は真核生物に広く存在している」と述べられています。この論文は、「機能的な偽遺伝子の研究はまだ始まったばかり」と結論づけ、「将来、新しい生物学的技術が開発されれば、さらに多くの機能的な偽遺伝子が発見されるだろう」と予測しています8

 

これらの新技術はすでに実を結んでいます。以前は「偽遺伝子」とラベル付けされていたDNAの部分に、特定の機能があることを報告した論文は、文献に溢れています9。ENCODEプロジェクトは、「転写され、活性クロマチンと関連している」850以上のヒト偽遺伝子を報告しました10。『Molecular Biology and Evolution』のある論文では、「ヒトとマカクのオーソロガス偽遺伝子が656個転写されている」11と報告されています。また、『Nature』に掲載されたヒトのプロテオームの研究では「140個の偽遺伝子がコードする200以上のペプチド」12が報告されています。

 

偽遺伝子の大量の機能性は、もはや信じ難いことではありません。偽遺伝子は、機能的なタンパク質、機能的なRNA転写物を生み出すことができ、転写物を生み出さずに機能を発揮することもできます。RNA干渉では、偽遺伝子はタンパク質を生成できない「アンチセンス」RNA転写物を生成しますが、タンパク質をコードするバージョンの遺伝子の転写物と結合することが可能です13。標的模倣では、スモールRNAがタンパク質をコードするmRNA転写物に結合し、翻訳を阻害します。偽遺伝子がタンパク質をコードする転写物の「標的」配列を模倣したデコイmRNA転写物を生成すると、これらのスモールRNAは、代わりに偽遺伝子の転写物に結合することができます。これにより、翻訳の阻害を防ぎ、タンパク質の生産を増加させます14。上に引用した論文の一つは、彼らが「psRNA」と呼んでいる偽遺伝子RNAの機能について複数のタイプのリストを挙げています。

 

psRNAは、転写および翻訳の両レベルで親遺伝子の発現制御に関与している。DNAのセンス鎖をテンプレートとしてセンスmRNA (sRNA) が合成され、逆平行鎖の転写により相補的なアンチセンスRNA (asRNA) が生成される。偽遺伝子の転写ではsRNAとasRNAの両方が合成されるため、この構造の違いを考慮した上で、偽遺伝子転写物の機能的関連性についてさらに考察していく。

 

sRNAの機能。通常、偽遺伝子のsRNAの配列は、親遺伝子のmRNAとわずかに異なるのみである。この高度な類似性により、これらはmiRNAと結合する部位 (miRNA応答要素、MRE) を共有している。MREがmiRNAと結合すると、核と細胞質の両方でこれらのRNA分子の制御機能を確保することができる。・・・偽遺伝子の転写活性が高いほど、そのsRNAに結合するmiRNA分子の数は多くなり、細胞内プールが枯渇して親遺伝子の発現抑制が減少する。すなわち、遺伝子と偽遺伝子の転写量の比が遺伝子発現をチューニングする・・・。

 

asRNAの機能。アンチセンス転写は、研究されているすべての生物で発見されている。NGS (次世代シーケンサシング) のデータから、マウスのトランスクリプトーム中の70%以上のRNAは相補的配列と重複し、代表的な天然のアンチセンス転写物であることが示唆されている。ヒトのトランスクリプトームも同様である。マウスとヒトでは、asRNAの大部分は厳密に保存されている。これはそれらの機能的関連性を示しており、実験的にも確認されている。現在までに、asRNAの多くの機能が同定されている。asRNAは、シスとトランスの両方で標的遺伝子に影響を与えることができる。これらの活性のいくつかは、偽遺伝子asRNAでも観察されている。

 

親遺伝子sRNAとの二重鎖の形成における偽遺伝子asRNA。偽遺伝子asRNAが親遺伝子mRNAの翻訳阻害に関与していることの発見は、生物における偽遺伝子asRNAの機能的役割の最初の示唆の1つであった。この機構は、偽遺伝子asRNAと翻訳されたmRNAの相同性の高い領域間にRNA-RNA二重鎖が形成され、その結果、対応する遺伝子が翻訳レベルで抑制されることによって実現される・・・。

 

短干渉性RNA (siRNA) 形成における偽遺伝子asRNA。RNA-RNA二重鎖の形成に関与する偽遺伝子asRNAはsiRNAを生じさせる可能性がある。制御性siRNAの構造および作用機構は、miRNAのそれと類似している・・・。

 

piRNAの生成における偽遺伝子asRNA。PIWIタンパク質と相互作用する、偽遺伝子がコードするRNA (piRNA)は、最近、ヒトや動物の精子や生殖系細胞中の短鎖ノンコーディングRNAの中から発見された・・・。

 

標的遺伝子の転写制御における偽遺伝子asRNA。現在までに、細胞内の遺伝子発現パターンの確立を伴うエピジェネティックなゲノム修飾におけるlncRNAの役割が実証され、広く研究されている。同様の性質は、いくつかの偽遺伝子RNAでも観察されている・・・。15

 

他にも多くの論文が、偽遺伝子を単なるジャンクとして退けることに対して警告を発しています。2012年の『Science Signaling』の論文では、「偽遺伝子は長い間ジャンクDNAとして退けられてきた」が、近年の進歩により「偽遺伝子のDNA、偽遺伝子から転写されたRNA、または偽遺伝子から翻訳されたタンパク質が複数の多様な機能を持ち、これらの機能が親遺伝子だけでなく無関係な遺伝子にも影響を与えることができる」ことが確立されたと述べています16。偽遺伝子の、タンパク質をコードするバージョンの遺伝子との相同性は、この制御機能のために必要です。なぜなら、「偽遺伝子は、その高い配列相同性により、正真正銘のマイクロRNAの競争相手として働くことができ、それによって、保存されたMRE [マイクロRNA応答要素] のセットを介して、同じマイクロRNAのプールをめぐって先祖のタンパク質コード遺伝子と活発に競争する」17からです。『Science Signaling』の論文は、「偽遺伝子は、遺伝子発現の精巧な調節因子の、これまで認識されていなかったクラスとして浮上した」と結論しています。2011年の『RNA』誌の論文も同意見です。

 

偽遺伝子は長い間「ジャンク」DNA、つまりゲノムの進化の過程で生じた遺伝子の失敗したコピーとラベル付けされてきた。しかし、最近の結果はこの呼び名に対し挑戦を突きつけている。実際、いくつかの偽遺伝子は、タンパク質をコードする近縁の遺伝子を制御する可能性を秘めているようである18

 

『eLife』に掲載された2013年の論文は、「偽遺伝子は不活性の遺伝子配列と考えられているが、広範な偽遺伝子の転写についての最近の証拠により、潜在的に機能を持つのではという疑問が生じた」19と述べています。2015年の『eLife』の別の論文には、「リボソームプロファイリングデータを分析するバイオインフォマティクスの新しい手法により、ヒト細胞で発現するlncRNAと偽遺伝子RNAの40%が [タンパク質に] 翻訳されていることがわかった」20と述べています。この論文は以下のように続けています。

 

この実験により、ヒトゲノムに存在する数千のノンコーディングRNAが、実際には翻訳されていることが示された。これは予想以上に多く、lncRNAや偽遺伝子RNAの約40%、メッセンジャーRNAの非翻訳領域の35%に相当する。

 

また、配列の保存は、特定の機能がまだ検出されていない場合でも、偽遺伝子の機能性を示唆することがあります。2014年の『米国科学アカデミー紀要』にある研究では、ヒト、C. elegans、キイロショウジョウバエの偽遺伝子を比較しました。その結果、機能の直接的な証拠だけでなく、機能を示唆する保存された塩基配列が見つかりました。「全体として我々は、偽遺伝子の生化学的活性の広いスペクトルを同定し、その大部分は各生物において、様々な程度の部分的な活性を示していた。特に、全ての生物種で一貫した転写量 (約15%) を同定したが、これは均一な分解過程を示唆している。また、偽遺伝子のプロモーター活性がコードする遺伝子と比較して一様に減衰していることが見られると共に、上流配列と活性が保存された多くの偽遺伝子を同定した。これは潜在的な制御的役割を示唆している。」21。2011年の『Cell』の論文でも、同様に多くの偽遺伝子の機能が推測されています。「配列決定の努力により、ヒトに存在する約19,000の偽遺伝子について、その多くは転写され、しばしばよく保存されていることが明らかにされた。これは、偽遺伝子を維持する選択圧の存在を示唆する」22

 

この問題に関して最も深遠かつ顕著な宣言が、2020年に『Nature Reviews Genetics』に掲載された論文で発せられました。この論文は、偽遺伝子の機能は「ドグマ」によって「早計に退けられて」おり、「現在、偽遺伝子領域が本質的に非機能的であるという広く流布している考え方の罠が、偽遺伝子の研究を進める上での支配的な制限となっている」と警告しました。それどころか、この論文は、「偽遺伝子が直接研究されているところでは、それらはしばしば定量化可能な生物学的役割を持つことが発見されている」ことを見出しています。これらの機能のいくつかは「タンパク質ベース」であり、これは偽遺伝子が機能的なタンパク質を生成することを意味します。しかし、他の機能は「RNAベース」または「DNAベース」である可能性があります。例えば、進化論者は通常、タンパク質を生成しない偽遺伝子は機能的であるはずがないと推定します。しかし、この論文では、タンパク質に翻訳されない偽遺伝子でも、そのRNA転写物を通じて機能を持つ場合があることを観察しています。

 

多くの偽遺伝子は、タンパク質に翻訳されにくい(あるいは翻訳できない)変異を高頻度で含んでいる。しかし、このような変異は、必ずしも偽遺伝子が生物学的機能を発揮することを妨げるものではない。

 

この論文には、染色体の安定化、転写-スプライシングの仲介、組換えの制御など、他のさまざまな非転写機能が記載されています。このように、多くの場合、偽遺伝子のコピー数は機能的に重要であり、正常な遺伝的状態から逸脱すると病気が引き起こされるようです。彼らは、「今後数年のうちに、ヒトの偽遺伝子多型と複雑な疾患との間にさらなる関連性が識別されることが期待される」と予測しています。

 

進化論者の典型的な反応は、これらの例は孤立したレアケースであり、偽遺伝子の大部分はやはりジャンクであるというものでしょう。『Nature Reviews Genetics』の論文の著者たちは、インテリジェントデザインに共感している様子は全くありませんが、この反論は承知しています。それに対する直接的反駁として、彼らは次のように述べています。

 

ここで詳しく述べた偽遺伝子の機能の例は、偽遺伝子の機能性が孤立した事例に限定されそうであることを示唆してはいない。少なくとも15%の偽遺伝子が3つの系統にわたって転写活性を持ち、その多くは保存された制御領域の近傍に存在している。他の霊長類との分岐以来、少なくとも63の新しいヒト特異的タンパク質コード遺伝子がレトロ転位によって形成されたと推定される。種を超えて数多くの「レトロ遺伝子」が、偽遺伝子ではなく、機能的なタンパク質コード遺伝子として認識され続けている。ハイスループット質量分析法とリボソームプロファイリングにより、ペプチドに翻訳される数百の偽遺伝子が同定されている。これらのペプチドの機能はまだ実験的に決定されていないが、このような例は、遺伝子と偽遺伝子の二分法を立証することにおける課題を例証している。

 

彼らはこう続けています。「このような [非コードDNA] の獲得機能の豊富さは、特にまれな現象でも孤立した現象でもないようであるから、プロセス型偽遺伝子は機能を持たないという既定の見方をするのは不注意であると思われる。むしろ、ゲノムの偽遺伝子を含む領域には、まだ明らかにされていない重要な生物学的機能が秘められている可能性が高い」。

 

しかし、現時点では、「偽遺伝子はその機能や発現の精査における実験的な課題により、ゲノム全体の機能スクリーニングや発現解析からは通常除外されている」と著者たちは述べています。言い換えれば、私たちが偽遺伝子の機能を見つけていない主な理由の1つは、私たちがそれを探していないからです。厄介な点として、偽遺伝子の転写が「細胞型特異性および動的発現」を示すことが挙げられます。これは、特定の場所と特定の時間にのみ転写される可能性があることを意味します。これゆえになおさら、偽遺伝子の機能を示す証拠がないことを、その偽遺伝子に機能がないことの証拠と決めつけてはならないのです!適切に精査されていないに過ぎないある細胞型や状況においては、機能する可能性が非常に高いのです。彼らが述べているように、「偽遺伝子の分析に適さないアッセイの使用が、おそらくその生物学的役割の解明を妨げてきた」のです。しかし、彼らは希望を持っています。「CRISPRベースのアプローチを注意深く適用すれば、偽遺伝子の機能を解明する我々の能力を一変させる可能性がある」。

 

この論文は、偽遺伝子のジャンクとして退けられたDNAが後に機能的であることが判明した例も多いと警告しています。「偽遺伝子としてアノテーションされた領域が後に生物学的機能を発現することが判明する例が増加すると共に、ゲノム上のこれらの領域が偽遺伝子として早計に退けられ、それゆえ機能がないと見なされる危険性が浮上している」」23

偽遺伝子についての過去の誤り

クリスチャンが偽遺伝子を壊れたDNAだと早まって退け、後にそれが間違いであることが証明された先例があります。同じようなことが、以前、注目を集める状況で起こったのです。2005年のキッツミラー対ドーバー裁判の際、指導的な有神論的進化論者の生物学者ケネス・ミラーは、ヒトのβグロビン偽遺伝子には「その遺伝子を機能させなくする一連の分子エラーがある」ので、「壊れている」と証言しました。ヒト、チンパンジー、ゴリラは偽遺伝子において「一致する誤り」を共有しているので、彼は法廷で、「この3つの種は共通先祖を共有しているという・・・たった一つの結論に導かれます」と語りました24。彼は間違っていました。2013年の『Genome Biology and Evolution』誌の研究は、βグロビン偽遺伝子が機能的であることを報告しました25

 

ヒトにはベータグロビン遺伝子のコピーが6つあります。5つはベータグロビンタンパク質を生成しますが、6つ目のコピーである偽遺伝子には早期終止コドンがあり、適切な翻訳を妨げています。研究者たちは、6つの遺伝子すべてをヒトとチンパンジーの間で比較した結果、ベータグロビン偽遺伝子が非機能性で一定の割合でランダムな突然変異を蓄積している場合に予想されるよりも、差異が少ないことを発見しました。この「保存された」配列は、ベータグロビン偽遺伝子が選択的な機能を持ち、それが突然変異に対して不寛容にしていることを示唆しています。ベータグロビン偽遺伝子が翻訳可能なRNA転写物を作れないからといって、それが機能的でなくなるわけではありません。研究者たちは、この偽遺伝子がオン/オフスイッチとして働き、胚の発生過程でタンパク質をコードするベータグロビン遺伝子の発現を制御していると論じています。

偽遺伝子の教訓の再学習

これだけの証拠があるにもかかわらず、ほとんどの進化論者はいまだに偽遺伝子をジャンクDNAであると決めつけています。これは今でも「コンセンサス」の見解です。一方、クリスチャンの知識人の多くは、それが仮定であることを見ようとしないか、偽遺伝子の機能に関する証拠が急速に増えていることを理解しようとしません。彼らはただコンセンサスを見て、それに反対してはいけないと考えているのです。しかし、証拠のトレンドラインは、偽遺伝子が「壊れた」DNAであると仮定すべきではないことを示しています。要約すれば、偽遺伝子に関して「様子見」アプローチを採用すべき理由はたくさんあります。

  • 偽遺伝子の非機能性は、進化論的な考え方に由来する仮定であって、証拠を注意深く研究して得られた結論ではありません。
  • 実際、偽遺伝子はこれまでほとんど研究されてきませんでした。その理由の大部分は、それらを研究するための技術がまだ発達していないからです。偽遺伝子を研究する技術的能力の不足は、偽遺伝子は何もしないので、その働きを解明するために時間を無駄にすべきではないという、進化論的な仮定が広く浸透していることに直接起因しています。
  • 進化論的な「ジャンク」DNAという考え方のもとではまったく想定外だったものの、偽遺伝子の機能を示す具体的な例が数多く見つかっています。また、偽遺伝子DNAの生化学的活性や配列の保存状態から、偽遺伝子の機能が推測された例もあります。
  • このような偽遺伝子の機能の証拠は、偽遺伝子が機能を持つには様々な方法があることが分かっているので、驚くには値しません。偽遺伝子は、機能的なタンパク質や機能的なRNA転写物を生み出したり、あるいは転写物を生成せずに機能を発揮したりすることができます。多くの偽遺伝子RNAは、しばしばエピジェネティックな状況において、遺伝子制御機能を持っているようです。
  • 私たちは、偽遺伝子を理解するための技術を開発し始めたばかりです。多くの偽遺伝子は、ある組織型やライフサイクルのある段階でのみ活性化するため、その機能を検出することが困難です。ですから、機能的な偽遺伝子の例がまだ圧倒的に少ないのは驚くには値しません。しかし、偽遺伝子を研究するためのよりよい技術が開発されるにつれて、機能性が一般的であることがますます示されています。

多くの偽遺伝子の正確な機能がまだ分かっていないのは事実です。例えば、ビタミンC「gulo」偽遺伝子は、ヒトと多くの霊長類に共通した単一型偽遺伝子ですが、その機能はまだ知られていません (ただし、この偽遺伝子が子宮内で活性化しているという説はあります)。そのためこれは、インテリジェントデザインに反対する論議としてTE/EC支持者の間で人気になりました。2013年以前は、現在では機能があると理解されているベータグロビン偽遺伝子についても同じことが言えたかもしれません。

 

偽遺伝子が壊れたDNAであると推測するキリスト教の知識人は、やっとレースを走り始めたばかりの馬に賭けているのです。そして、その馬が走り出すと、あまりうまく走れていないことがわかるのです。先に引用した『Nature Reviews Genetics 』誌の論文が、偽遺伝子の機能は「早計に退けられて」いると論じているように、一部のクリスチャンは正統なキリスト教の教義を早計に退けているのです。偽遺伝子が機能的であるという見解を支持する気になれない人でも、私たちの知識の乏しさと証拠のトレンドラインから、少なくとも不可知論的な「様子見」アプローチを取ることが賢明であると思われます。

 

そのトレンドラインについてお話ししましょう。偽遺伝子は、「ジャンク」と考えられているDNAの一種に過ぎません。1990年代から2000年代初頭にかけて、ゲノムの90パーセント以上が遺伝的ジャンクであると一般に考えられていましたが、現在ではほとんどの生物学者がこの見解を否定しています。インテリジェントデザインの理論家は、ジャンクDNAの多くには機能があることが判明するだろうと予測しました。彼らは正しかったのです。生物学的思考に大きな革命が起きました。ゲノムについてはまだ分からないことがたくさんありますが、トレンドラインは「ジャンク」説に強く反対しています。もし私が信じられないのであれば、『Nature』誌に掲載されたこの画像の一番上のグラフにあるオレンジ色の線を見てください。このグラフは、非コード遺伝要素 (『Nature』によれば「以前はジャンクDNAと呼ばれていたもの」) の機能が、急速に、しかも指数関数的に発見されていることを示しています。

 

間違った馬に賭けてはいけません。コンセンサスの要求により、偽遺伝子は類人猿に似た先祖から受け継いだ「壊れた」遺伝子だと信じるべきであると言われているからといって、数千年来の教義を投げ出すことには慎重であってください。コンセンサスはそう言っているかもしれませんが、証拠はそうではありません。もしあなたが、偽遺伝子の機能性に関するコンセンサスに異議を唱えたり、完全に決別したりしたいのであれば、あなたを支持する証拠がそこにあるのです。コンセンサスに挑戦することは軽々しく行うべきではありませんし、リスクを取るなら証拠が言っていると思うことに基づくことが必要です。しかし、歴史上のアダムとエバに反対する進化的論議の否定については、それは正しいことでした。偽遺伝子の機能性については進んでリスクを取り、証拠が導くところに従いましょう。

注釈

  1. スティーブン・シャフナー、「What Genetics Says About Adam and Eve」、『BioLogos』(2021年7月11日)、 https://biologos.org/articles/what-genetics-say-about-adam-and-eve
  2. 「Were Adam and Eve historical figures?」、『BioLogos』、https://biologos.org/common-questions/were-adam-and-eve-historical-figures/ (2021年10月26日アクセス)。『BioLogos』は、「科学的調査の結果が・・・伝統的な解釈と矛盾する」なら、この「ありふれた伝統的な」見解が却下されるかもしれないと述べています。
  3. S. ジョシュア・スワミダス、『The Genealogical Adam and Eve: The Surprising Science of Universal Ancestry』(IVP Academic、2019年)。
  4. 下記をご覧ください。
  5. ロビン-リー・トロスキー、ジェフリー・J・フォークナー、セス・W・チーサム、「Processed pseudogenes: A substrate for evolutionary innovation」、『BioEssays』、2021年 (43): 2100186。
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