Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

機会の喪失: 人類の進化についての科学的な問題点を見過ごす

This is the Japanese translation of this site.

 

ケイシー・ラスキン
2021/11/10 6:13

 

編集部注: ケイシー・ラスキンが、哲学者ウィリアム・レーン・クレイグの新刊を複数回に分けてレビューしていきます。これまでのレビュー全体はこちらをご覧ください。

 

ウィリアム・レーン・クレイグの著書『In Quest of the Historical Adam』における彼の修辞学的戦略は、本質的に主流の進化論的古人類学が言うことは何でも受け入れつつ、アダムとエバを堅持できるかを見るというものです。「Christianity Today」とのインタビューで彼が述べているように、彼の「願いは、現代の進化科学とヒトという種の源流にある一組の人間を肯定することとの間に矛盾がないことを示すことにより、信仰の障害となるものを防ぐことができる」ことです。「Science」誌の書評でも、クレイグは「進化を所与のものとしている」と観察しています。アダムとエバをホモ・ハイデルベルゲンシスという種の中に位置づけることで、クレイグの目標は「理性的な信仰」の立場を提示することであり、彼の戦術的アプローチは、聖書が主流の進化科学と矛盾していないと主張したい人々にとって実際に有用でしょう。その限りでは結構なことです。しかしこの戦略は、時にクレイグが非常に疑わしい進化論の仮定や議論に賛同し、進化モデルの重大な弱点を指摘する機会を喪失することを意味するのです。

奇跡の突然変異と人類の知性の進化

クレイグは、「チンパンジーと我々の最後の共通祖先以来、ヒトの系統で起こった」さまざまな「決定的な遺伝子変異」に焦点を当てています。これらは、「人間に特有の脳の驚異的な拡大を説明することができる」。彼の主な例は、ARHGAP11Bという遺伝子と3つのヒト特有のNOTCh2NL遺伝子における1塩基対の置換です (277, 278ページ)。彼は、これらの突然変異が「言語能力に直接的な影響を与えるかどうかはわからない」と認めています。しかし、彼は後に、発話に必要かもしれない他の2つの遺伝子のヒト特有の特徴を挙げています。これらの遺伝子はAUTS2 (クレイグは機能が「不明」であることを認めています) とFOXP2 (クレイグは「人間の発話に必要であるようだ」と主張している) です (325ページ)。2018年に、FOXP2の話は、この遺伝子に存在すると考えられていた遺伝子シグナルが誤った統計的アーティファクトであることが判明し、信用を失いました1。クレイグがこの話を引用し続けているのは驚くべきことです。

 

したがって、FOXP2 (これは信用を失っている) を別にすれば、これらの遺伝的形質が人間の言語や認知に何を持ち込んだかは、まったくもって不明です。しかし、議論のために、これらの「突然変異」がすべて、人類の高度な認知・言語能力の説明に必要である  — きっと十分ではないでしょうが — と仮定してみましょう。クレイグは自分の見解を、これらの突然変異が標準的な進化のメカニズムによって生じ、広がったとするのか、それとも、自然界への神の介入によって導かれたとするのか、決して明確にはしません。ある点では、彼は突然変異が「神によって引き起こされた」可能性を提唱していますが (307ページ)、彼の一般的な枠組みはそのような修飾を欠いており、それらは標準的な進化メカニズムによって生じた通常の「突然変異」であることを提唱しています。「First Things」の文章で、クレイグは「神が (ヒト科の) 2人を選び、彼らの脳を改修して理性的な魂を賦与することによって、彼らに知性を備えた」ことを提唱していますが、これは「神によって引き起こされた」突然変異のように聞こえます。クレイグは著書の中で、アダムとエバの創造に神による因果関係があることを受け入れていますが、そのことに強くコミットしているようには見えません。

 

始祖夫婦に起こり、彼らを人間のレベルにまで引き上げた根本的な移行は、おそらくは神によって引き起こされた生物学的および霊的な改修を伴うとするのが妥当だ。(376ページ、強調追加)

 

『First Things』でクレイグはさらに、アダムとエバは現代人ほど認知的に高度ではなかったと提唱し、アダムとエバの後に人類は「環境的ニッチの構築と遺伝子-文化共進化を通じてゆっくりと出現」したものを含む標準的な進化を経験して、今日のより高度な脳を進化させたと仮定しています2。このことは、クレイグが、人類の知的能力の多くは (すべてではないにしても) 自然のメカニズムによって進化したことを提唱あるいは許容しているように見えるだけでなく、人類がアダムとエバの後に向上する方向に進化したと彼が事実上信じていることを示唆しています。このモデルは、人類がアダムとエバの最初の状態から堕落したという伝統的なキリスト教の見解は著しく対照的です。

 

クレイグが議論している特定の突然変異は、標準的な進化のメカニズムによって起こったのか、神が直接介入したのか、あるいはその二つの混成なのか、彼の考えは本では全く明らかにされていません。複数の例のうちの1つを挙げると、「最も妥当なシナリオは、ヒト、ネアンデルタール人、デニソワ人の共通祖先において、祖先のPDE4DIP-NOTCH2NL偽遺伝子がNOTCH2からの異所性遺伝子変換により修復されたというものである。この出来事は人類の進化にとって極めて重要であったかもしれない・・・」と彼は言っています (279ページ)。 別の例を挙げると、ARHGAP11Bを議論するときに彼は次のように書いています。ネアンデルタール人、デニソワ人、そしてヒトは、

 

人類に特有の脳の異常な拡大を説明するのに役立つこの重大な遺伝子変異を共有している。実際、この突然変異はネアンデルタール人、デニソワ人、ホモ・サピエンスの祖先種で起こったので、これらの発見は、ホモ・ハイデルベルゲンシスのような大きな脳を持つ祖先種に属するものに人間性があったとすることと矛盾しない。その種にこの突然変異が起こったのだ。(278ページ)

 

もしかしたら、これらの突然変異は「神によって引き起こされた」のかもしれません。しかし、このように改作しても、「神による因果関係」に (クレイグの見解において) どんな意味があろうと、標準的な進化論的説明と区別がつかないように見えるのです。クレイグの意味するところが曖昧なのは置いておいて、「ここでの生データは何か、それは進化論的見解への同意を要求しているのか」と問いかけてみましょう。

 

彼が引用したデータは、せいぜい、ヒト、ネアンデルタール人、デニソワ人が、脳の発達や言語能力に関与するある種の類似した遺伝子や遺伝的形質 (類人猿には見られない遺伝子や遺伝的形質) を共有していることを示すに過ぎません。ネアンデルタール人やデニソワ人は私たちと非常によく似ていましたし、高度な認知能力を持っていたと考えられており、私たちの種であるホモ・サピエンスに属する可能性さえあるので、これは全く驚くべきことではないのです。彼が語る証拠は、進化を証明するものではありません。むしろこの証拠は、私たちに高度な認知能力を賦与するのに役立つと思われる、人間特有の遺伝的特徴を特定したに過ぎません。単に重要な遺伝形質を特定しただけでは、それが盲目的な進化メカニズムによって生じたとは必ずしも言えません。結局のところこれらの形質は、アダムとエバの創造の際に神が知的にデザインしたのかもしれず、あるいは特別に創造したものである可能性さえあるでしょう。

 

しかし、クレイグの主張は概してこれらの突然変異を、初期のヒト科動物に突然人間のような知性を産み出した盲目的な進化的事象と何ら変わりなく扱っているように見えます。進化をめぐる討議にしばらく携わってきた私たちは、この種の奇跡的な突然変異の物語を以前にも聞いたことがあり、懐疑的になる理由がいくつもあるのです。

懐疑的な理由

第一に、人間の認知の起源に関する奇跡的な突然変異の説明は、進化の目的とデザインを示唆し、無誘導の進化という物語と矛盾します。もし、私たちの認知能力が突然1つか2つの単一突然変異事象によって進化したのであれば、私たちの深遠な人間的知性は、現代人の精神が生じる前に、ある特定の突然変異が起こるのを待ちつつ絶壁の上に座っていたことを示唆します。しかし、たった1つか2つの突然変異が老子からベートーベン、アインシュタインに至るまで全てを産み出すことのできるような進化の絶壁に、私たちの精神はどのようにたどり着いたのでしょうか。この考えは、私たちの認知の起源に至る、目的論的で有向的な、デザインされた進路を示唆しています。クレイグはこのような選択肢を受け入れているように見えますが、それが自分の好みであるとは決して言いません。

 

第二に、人間の認知の起源に関する奇跡的な突然変異の説明は信憑性に欠け、綿密に精査すると破綻していることが多いということです。フランシス・コリンズは、『ゲノムと聖書』の中で、FOXP2のいくつかの特定の変化が、何らかの形で私たちの主要な言語能力を創造したと力説しました3。同じ年の『Time』誌の記事でも、FOXP2の2つの突然変異が、「赤ん坊の最初の言葉からロビン・ウィリアムズの独白まで、人間の発話のあらゆる側面の出現」を引き起こした可能性を力説していました4。さらに最近では、ユヴァル・ノア・ハラリが著書『サピエンス全史』の中で、「純粋な偶然」によって起こり、「認知革命」を引き起こしたある種の「知識の木の突然変異」を人間が経験したと論じています5

 

そのような、1つまたはいくつかのランダムな突然変異が魔法のように人類の高度な知的能力を生み出したという論議は、大いに信じがたいものです。人類の認知と発話の起源には、一連の複雑な相互依存的形質を実現する多くの変化を必要としたはずです。霊長類の起源に関する著名な文献を書いている2人の指導的な進化論者は、多くの遺伝的変化が必要になるため、遺伝学的に言って人類の言語が突然に進化することはあり得ないと説明しています。

 

ビッカートンが提案した単一遺伝子の突然変異は、私の考えでは、あまりに単純すぎる。言語学習には、生産、知覚、理解、構文、用法、記号、認知など、あまりにも多くの要素が関わっており、言語が単一の突然変異事象の結果であるとするには無理がある6

 

人間は、言語という、人類の主要な知的業績全ての根底にあるものを有しているがゆえに、全く異なる存在なのである。この不連続性の理論は妥当ではない。なぜなら、進化は触発された跳躍によってではなく、それ以前のものへの有益な変異が付加されることによってのみ進行できるからである7

 

これらの著者がそのような「単一突然変異事象」仮説を否定するのは正しいことであり、また2つや3つの突然変異事象説についても同様のことが正当化されるでしょう。なぜなら、人間の認知はそのような方法で生じるには大いに複雑すぎるだからです。

 

第三に、ダーウィン進化論は、これらの形質は、自然選択 (および遺伝的ドリフトなど他の標準的な進化メカニズム) が作用するランダムな突然変異によって生じ、広まるはずだと主張します。このような盲目的な試行錯誤のメカニズムは、有利になるために複数の突然変異を必要とするような新しい特徴を生み出すのには大いに非効率です。ヒトの知性のような高度な生物学的特徴は、おそらく多数の複雑な遺伝的形質を必要とするため、特にそう言えます。このことは、ヒトの知性に関するネオダーウィニズム的進化に対する潜在的な挑戦を示唆しています。

多すぎる突然変異、少なすぎる時間

この挑戦を理解するために、一見簡単そうな例を考えてみましょう。2004年、あるタンパク質を不活性化する単一の突然変異が、「個々の筋繊維や咀嚼筋全体の著しいサイズの現象」を引き起こし、「咀嚼力の喪失」につながり、それによりあごの筋肉が緩み、私たちの脳が大きくなった可能性があるという研究が『Nature』誌に発表されました8。「遺伝子の突然変異にミッシングリンクが発見された」というタイトルのニュースが広く流布され、その発見はこのような枠組みで説明されました。「顎を弱くする古代の遺伝子突然変異が、脳のサイズの増大、最初期の人類と類人猿の祖先との最初の分離という転回に役立った」9。この話はもっともらしく聞こえますが、それ以上のことがあります。指導的な古人類学者であるバーナード・ウッドは、この突然変異だけでは選択可能な有利性をもたらすことはできず、さらなる変化が必要だったと指摘しています。

 

その突然変異は、それらの個体のダーウィン適応度を低下させることになる。・・・それは、歯や顎のサイズを小さくし、脳のサイズを大きくする突然変異が同時に起こった場合のみ、固定されるだろう。そのような可能性はあるのだろうか?

 

このように、有利性をもたらすためには、複数の協調的な突然変異が必要な状況にあるのです。しかし、2008年に『Genetics』誌に掲載された集団遺伝学の研究によると、ダーウィン的進化によってたった2つの特定の突然変異を得るには、「有効集団サイズがはるかに少ないヒトでは、この種の変化には1億年以上かかる」ことが分かっています。著者たちはこれが「合理的な時間スケールで起こる可能性は非常に低い」ことを認めています10。言い換えると、ある形質が有利性を得る前に複数の突然変異を必要とする場合、我々のような種の範囲内で1億年以上必要となるでしょう。

 

上記の例はクレイグが著書の中で挙げているものではありませんが、彼が挙げた例と非常に類似しています。彼は、ヒトの知性の到来に必要なものとして、少なくとも3つの突然変異事象 (そのうちのいくつかは、それ自体が複数の点突然変異を必要としたかもしれない) を挙げています。間違いなく、私たちの祖先とされる類人猿に似たアウストラロピテクス類の知性から現代人の認知に移行するためには、多数の複雑な突然変異事象が必要だったでしょう。もし、上に引用した『Genetics』の論文が正しいとすれば、これらの事象のうち、たった2つの点突然変異が有利性をもたらすために必要であったとしても、化石記録が許容する時間スケール (すなわち、ホモ・ハイデルベルゲンシスの出現から75万年、あるいは、私たちホモ属がアウストラロピテクス類から進化したとされるときから250万年) においてそれらがヒト科の集団で盲目的進化により生じる可能性は極めて低かったでしょう。

 

これは、集団遺伝学の数学から直接出てくる、人間の認知のネオダーウィニズム的進化への強力な挑戦を提示しています。不幸なことに、クレイグは主流の進化論に直接異議を唱えることはないので、彼の読者はネオダーウィニズムに対するこの強力な挑戦について聞く機会を失ってしまうのです。

人類の進化に挑戦するもう一つの機会の喪失: 化石

クレイグは人類学者イアン・タッターソールを引用して、「現在の非常に広範なヒト科の記録をアウストラロピスとホモに分けようとする無益さ」を論じている (256ページ) とはいえ、ホモ属の起源についての議論にあまり時間を割いていません。アダムとエバを主流の進化学に適合させようとする探求において、彼は人類の進化に関する証拠の重大な欠乏を指摘するもう一つの大きな機会を逃しています。すなわち、類人猿に似たアウストラロピテクス類から人間に似たホモ属への移行を証明する化石の証拠の欠如です。化石記録におけるこの「ギャップ」は、文献上でも十分に証明されています。

 

ネイチャー誌のある論文によれば、初期のホモ・エレクトスは、「身長、性的二型の減少、長い手足、現代的な体のプロポーションなど、(H. ハビリスなどの) 以前のホモ属の形態とは根本的にかけ離れているため、現時点ではその直接の祖先を東アフリカに見出すのは難しい」11、あるいはさらに言うなら、それ以外の場所も難しい、と指摘しています。別のレビューでも、「・・・H. エレクトスのこの一見したところ突然の出現が、アフリカ以外の起源である可能性の示唆につながっている」12と同じような指摘をしています。同様に、『Journal of Molecular Biology and Evolution』誌のある論文は、脳の大きさ、歯の機能、頭蓋の梁の増大、体高の拡大、視覚、呼吸の変化においてホモ属とアウストラロピテクス属が大きく異なることを発見し、次のように述べています。

 

我々は、他の多くの研究者と同様、解剖学的証拠から、初期のH. サピエンスは、事実上骨格の要素のすべてと行動の残滓のすべてにおいて、・・・アウストラロピテクス類とは著しく、劇的に異なっていたことを示していると解釈している。

 

このような多くの違いを指摘した上で、この研究は人類の起源を「アウストラロピテクス類の進化のゆっくりした変化ペースからの、進化的変化の真の加速」と呼び、そのような変化は、根本的な変化を必要としただろうと述べました。「H. サピエンスの最初期のサンプルの解剖学的構造は、祖先のゲノムに大きな変更が加えられたことを示唆しており、単純に鮮新世を通じた初期のアウストラロピテクス類系統における進化傾向の延長線上にあるものではない。実際、その特徴の組み合わせは、それ以前には決して現れなかったものである」。これらの急速で独特な変化は、「アウストラロピテクス類の種で明らかに移行期にあるものはない」という「遺伝的革命」と呼ばれています13

 

進化的パラダイムに縛られない人にとっては、この移行が起こったことは全く明らかではありません。この仮説に基づく移行を示す化石の証拠が丸ごと欠如していることは、ハーバード大学の3人の古人類学者によって確認されています。

 

人類の進化の過程で起こったさまざまな移行の中で、アウストラロピテクスからホモへの移行は、その規模と結果において最も重大なものの一つであったことに疑問の余地はない。多くの重要な進化的事象と同様に、良いニュースと悪いニュースがある。まず、悪いニュースとしては、化石や考古学的記録が不足しているため、この移行の詳細の多くが不明なことである。

 

「良い知らせ」としては、「アウストラロピテクスからホモへの移行が、正確にいつどこでどのように起こったのかの詳細は多くが欠如しているが、移行の前後のデータは十分にあり、まさしく起こった重要な変化の全体像についてある程度の推論ができる」14と認めています。言い換えると、化石記録には類人猿に似たアウストラロピテクス類 (「前」) とヒトに似たホモ属 (「後」) はありますが、両者の移行を証明した化石はない、ということです。中間体が存在しない場合、進化の仮定に基づいて移行を推論することになります。証明されていない移行が、あるとき、どこかで、どういうわけか起こったに違いないということです。進化論者は、化石で証明されていないにもかかわらず、この移行が起こったと仮定しているのです。

 

同様に、偉大な進化生物学者エルンスト・マイヤーは、私たちの属が突然出現したことを認めていました。

 

ホモの最古の化石であるホモ・ルドルフェンシスとホモ・エレクトスには、アウストラロピテクスとの間に大きな、橋渡しできないギャップがある。この跳躍をどう説明できるだろうか。ミッシングリンクとなる化石がない以上、歴史科学の昔ながらの手法である歴史的説話の構築に頼らざるを得ないのである15

 

また、別の論評では、この証拠はホモの出現についての「ビッグバン理論」を示唆していると提唱しています16

 

類人猿に似たアウストラロピテクス類と、突然出現したヒトに似たホモ属の間にあるこの大きくて橋渡しできないギャップは、人類の起源に関する進化論的説明に挑戦するものです。残念ながらクレイグは、このような問題のある証拠について、著書では全く触れていません。結局のところ、彼がアダムとエバを進化のシナリオの中に位置づけることが可能であると説得力を持って示す一方で、彼の読者は、進化のシナリオがなぜ正しい答えではない可能性があるのかを知る機会を奪われているのです。

注釈

  1. Warren, M. (2018) Diverse genome study upends understanding of how language evolved. Nature (London)https://www.nature.com/articles/d41586-018-05859-7
  2. 『First Things』の文章でクレイグは、ヒトの知的な起源について、神の直接的な関与と自然進化を組み合わせたようなモデルを提唱しています。「多くの点で人間と似ているが、理性的な思考能力に欠けたヒト族の初期の集団を想像することができる。この集団の中から、神が2人を選び、彼らの脳を改修して理性的な魂を賦与することによって、彼らに知性を備えたのだ。調節遺伝子の突然変異で脳の機能が変化し、認知能力が飛躍的に高まったと想像することもできる。このような変化により、理性的な魂を支える神経学的な構造が備わった個体が生まれる可能性がある。このように、始祖夫婦に起こり、彼らを人間のレベルにまで引き上げた根本的な移行は、おそらくは神によって引き起こされた生物学的および霊的な改修を伴うとするのが妥当だ。この変革の行動的な成果はすぐに出現したものもあれば、環境的ニッチの構築や遺伝子-文化共進化を通じてゆっくりと出現したものもあるだろう」。ウィリアム・レーン・クレイグ、「The Historical Adam」、『First Things』(2021年10月)、https://www.firstthings.com/article/2021/10/the-historical-adam
  3. フランシス・コリンズ、『Language of God: A Scientist Presents Evidence for Belief』(フリープレス、2006年)、139-141ページ (邦訳は134-135ページ) をご覧ください。(邦訳: 『ゲノムと聖書:科学者、〈神〉について考える』、中村昇/中村佐知訳、NTT出版、2008年)
  4. マイケル・D・レモニック、アンドレア・ドーフマン、「What Makes us Different?」、『Time』(2006年10月1日)、http://content.time.com/time/magazine/article/0,9171,1541283,00.html
  5. ユヴァル・ノア・ハラリ、『Sapiens: A Brief History of Humankind』、(ハーパー、2015年)。(邦訳: 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』、柴田裕之訳、河出書房新社、2016年)
  6. チャールズ・T・スノードン、「From Primate Communication to Human Language」、『Tree of Origin: What Primate Behavior Can Tell Us About Human Social Evolution』(フランス・B・M・ドゥ・ヴァール編、 ハーバード大学出版局、2001年) 所収、224ページ。
  7. リチャード・W. バーン、「Social and Technical Forms of Primate Intelligence」、『Tree of Origin: What Primate Behavior Can Tell Us About Human Social Evolution』(フランス・B・M・ドゥ・ヴァール編、 ハーバード大学出版局、2001年) 所収、148-149ページ。
  8. ハンセル・H・ステッドマン、ベンジャミン・W・コジヤック、アンソニー・ネルソン、ダニエル・M・テシエル、レナード・T・スー、デイヴィッド・W・ロー、チャールズ・R・ブリッジズ、ジョセフ・B・シュレイガー、ナンシー・ミニュー・パービス、マリリン・A・ミッチェル、 「Myosin gene mutation correlates with anatomical changes in the human lineage」、『Nature』428巻: 415–418ページ (2004年3月25日)。
  9. ジョセフ・B・ヴェレンギア、「Missing link found in gene mutation?」、『NBC News』(2004年3月24日)、https://www.nbcnews.com/id/wbna4593822
  10. リック・ダレット、ディーナ・シュミット 、「Waiting for Two Mutations: With Applications to Regulatory Sequence Evolution and the Limits of Darwinian Evolution」、『Genetics』180巻: 1501-1509ページ (2008年11月)。
  11. ロビン・デネル、ウィル・ローブルックス、「An Asian perspective on early human dispersal from Africa」、『Nature』438巻: 1099-1104ページ (2005年12月 22日/29日、2005年)。
  12. アラン・ターナー、ハンナ・オレガン、「Zoogeography: Primate and Early Hominin Distribution and Migration Patterns」、『Handbook of Paleoanthropology: Principles, Methods, and Approaches』(ヴィンフリート・ヘンケとイアン・タッターソル編、第二版、ハイデルベルグ: シュプリンガー、2015年) 所収、623-642ページ。
  13. ジョン・ホークス、キース・ハンリー、イ・サンヒ (李相僖)、ミルフォード・ウォルポフ、「Population Bottlenecks and Pleistocene Human Evolution」、『Molecular Biology and Evolution』17巻: 2-22ページ (2000年)。
  14. ダニエル・E・リーバーマン、デイヴィッド・R・ピルビーム、リチャード・W・ウランガム、「The Transition from Australopithecus to Homo」、『Transitions in Prehistory: Essays in Honor of Ofer Bar-Yosef』(ジョン・J・シアー、ダニエル・E・リーバーマン編、ケンブリッジ: オックスボウ・ブックス、2009年) 所収、1ページ。
  15. エルンスト・マイヤー、『What Makes Biology Unique?: Considerations on the Autonomy of a Scientific Discipline』(ケンブリッジ: ケンブリッジ大学出版局、2004年)、198ページ。
  16. 「New study suggests big bang theory of human evolution」、ミシガン大学ニュースサービス、2000年1月10日、2016年7月10日閲覧、 http://www.umich.edu/~newsinfo/Releases/2000/Jan00/r011000b.html