Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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ベーエの仕事についてファリーナに答える: 『Darwin Devolves』

This is the Japanese translation of this site.

 

ジョナサン・マクラッチー
2023/6/28 6:23

 

以前の3つの記事 (こちらこちらこちら) で、YouTuber「デイブ教授」ファリーナがマイケル・ベーエの3冊の著書についてレビューした動画への4つの一連の回答を始めました。この最後の投稿では、『Darwin Devolves』に関するファリーナのコメントに注意を向けます。

ヘモグロビンとCハーレム

『Darwin Devolves』の中でベーエは、有用な突然変異の大部分は、建設的というより有害であると主張しています。というのも、何かを構築するよりも壊す方が、利益を得る方法がはるかに多いからです。ファリーナの動画は次のように言っています。

 

もしベーエが敢えて、進化的変化の最も良く記録された例をいくつか見たなら、そうではないことが分かったでしょう。 実際、彼自身が他の著作で記述している例に基づいて、それがナンセンスであることが彼には分かったはずです。例えば、『Edge of Evolution』でベーエは、HbCハーレムと呼ばれるヘモグロビンの対立遺伝子について記述しています。これは、鎌状赤血球症の原因となる対立遺伝子と同様にマラリアへの耐性を付与するもので、ベーエが記述しているように、これがあると「利益になるが鎌状による不利益はない」ものです。

 

しかし、この「進化的変化の例」は、ファリーナが望んでいることとはまったく逆のことを示しています。ベーエが『The Edge of Evolution』で説明しているように、「アフリカでは遺伝性高胎児血色素症 (HPFH) がすでに広まっており、鎌状遺伝子の問題を改善している」1。しかし驚くべきことに、「Cハーレム遺伝子は、鎌状遺伝子の基礎の上に直接構築され、鎌状突然変異の不利益を完全に解消するが、それが最も良い働きをするであろうアフリカではまだ見つかっていない」2。その理由は、通常のヘモグロビンからCハーレムへの移行には2つの共依存的変異が必要であるのに対し、鎌状細胞の形質には1つしか必要ないからです。どんな人であっても、個人が鎌状細胞形質を獲得する確率は約1億分の1です。したがって、集団サイズを100万人と仮定すると、およそ100世代ごとに自然発生すると予想され、これは進化の過程で手の届く範囲です。ヘモグロビンCハーレムが発生するのに必要な2つの突然変異が同時に起こる確率は、1億に1億を乗じて1016です。ベーエが要約しているように、「世代時間が10年で、平均集団サイズが100万人とすると、その特定の突然変異が生じるには平均して約1000億年かかるはずで、これは宇宙の年齢よりも長い」3。それにもかかわらず、ヘモグロビンCハーレムは生じており、比較的最近ニューヨーク市で初めて記録されました4。しかしこれは、最初の鎌状細胞形質がすでに適応的であったためです。というのも、それがマラリア原虫に対する耐性を付与するからです。このように、自然選択は最初に鎌状細胞形質 (単一の突然変異しか必要としない) を保存し、次に2番目の突然変異を (最初の突然変異を土台として) 獲得することができます。それによってCハーレム形質が生じ、さらに大きな利益を付与するのです。ファリーナ氏はこの例をあまり注意深く検討しなかったように見えます。

E. coliのCit+

2番目の例として、ファリーナはこのように述べています。

 

[ベーエ博士は] 先に述べたLTEE [リチャード・レンスキーの長期進化実験] のE. coliにおけるCit+形質についても記述しています。これは、既存の経路を何ら損なうことなく、新しい代謝の選択肢を持つもので、彼は文字通り自分自身を論破していながら、それを認めることを拒んでいるのです。

 

この例についてはすでに触れたので (こちらをご覧ください)、その点をこれ以上論じることはしません。ベーエは『Darwin Devolves』の第7章でレンスキーの仕事について長々と議論しており、 ファリーナは長期進化実験に関してベーエが書いていることに何も向き合っていないと言っておけば十分でしょう。

デノボ遺伝子の誕生

ファリーナの動画にあるもう一つの不満は以下の通りです。

 

おわかりになる頃でしょうが、創造論者は進化をある種の破壊的な力として描くことにサディスト的な強迫観念を持っています。しかし、そうするために彼らは、私たちが見ているあらゆる場所で急速に進化している完全に新しい遺伝子の長く拡大しつつあるリストを無視しなければなりません。デノボ遺伝子の概念を検討したこのような論文はたくさん存在します。これらは、以前はコードしなかったDNAセクションの近くにプロモーターが生じたために、以前は非発現だったDNAがタンパク質をコードするようになり、自然選択によって保存されるようになったことに起源を持つ新しい遺伝子です。つまり、遺伝子ではなかったDNAのセクションが、今では遺伝子になっています。新しい遺伝子です。以前はこのようなことはまれだと思われていましたが、タンパク質をコードしていないタンパク質コード配列を最近縁種すべてで同定することによってそれらを探す方法が分かってからは、至る所で発見されるようになりました。

 

ファリーナが引用したスティーブン・ブランデン・ヴァン・オスとアンネ-ルクサンドラ・カルヴュニスによる総説論文は、(この主題を扱った総説論文にありがちなことですが) 次のように述べています。長い間、「事実上すべての遺伝子は先祖遺伝子に由来するというのがコンセンサスの見解であり、フランソワ・ジャコブが1977年の小論で『機能的タンパク質がアミノ酸のランダムな会合によってデノボに現れる確率は実質的にゼロである』と言及したのは有名である」5。しかし、「かつては、デノボ遺伝子の誕生は非常に起こりそうもないことと見なされていたが、現在では、この現象について記述された明白な例がいくつか存在する」6。言い換えると、かつては根本的に新しい遺伝子の起源が非コード配列ということは本質的に不可能と考えられていたのに、分類学的に制限された遺伝子があまりにも多く観察されているという事実によって、進化の予言が不当であったとされるのではなく、結局のところ進化によってデノボ遺伝子がかなり容易に誕生し得ることが示されるとされています。注目すべきことに、進化論は不当性を証明するような証拠にはまったくの無感覚になるようにされています。

 

そのうえ、分類学的に制限された遺伝子のいくつかの例が、近縁種のDNAの非コード領域とある程度の類似性を持っているとはいえ、大抵の場合はそうではありません。さらに、非コードDNAが機能的役割をすぐにも果たせるタンパク質をコードする遺伝子に変化する機構については、説得力のあるシナリオはありません。

ホッキョクグマ

ファリーナによれば、

 

恐らく『Darwin Devolves』がナンセンスであることの何よりの証拠は、ベーエがそれを擁護するために平然と嘘をつかなければならなかったことでしょう。ネイサン・レンツ博士は、ホッキョクグマの記録された適応についてのベーエの扱い方の議論で、ホッキョクグマの北極圏の気候への事実上すべての適応が、実際には何らかのダメージを与えているとベーエが主張した際に、引用した論文の知見を正確に表現していないと指摘しました。それに応えてベーエは、その論文からの表を提出して、記録されたすべての突然変異が 「損傷を与える可能性あり」か「恐らく損傷を与える」のどちらかであることを示しました。しかし、彼は誰もそれを確認しないと思ったに違いありません。というのも、レンツ博士が、ベーエが2つの列と多くの行をこっそりと省略しており、その省略されたデータは案の定、まったく異なるストーリーを物語っていることを示したからです・・・。復元された2つの列は別として、すべての行に「良性」、つまり事実上有害ではない、と書かれているのを見てください。ベーエが主張していることとは正反対ではありませんか?

 

この主張は、他の場所 (こちらなど) で徹底的に反論されています。簡潔に言うと、ベーエは進化において非適応的な中立突然変異が一般的であることを否定してはいません。むしろ、彼の命題は、正の選択をされた突然変異の大部分は損傷を与えるというものです。なぜなら、生物にとって、何かを破壊することによって利益を獲得する方法は、新しい何かを構築することによって利益を得る方法よりもはるかに多いからです。ベーエは『Darwin Devolves』の中で、「有用で正の選択をされた遺伝子の65~83パーセントは、損傷を与える突然変異を少なくとも1つ受けたと推定される」と主張しました7。ベーエが引用した劉他の論文の図表全体が縦47行、横8列であることを考えると、彼の論点を支持するのに関連する図表の一部のみを再掲する方が理にかなっていました。ここに二枚舌はありません。ベーエはHVarアルゴリズムからのデータを図表から省き (代わりにHDivアルゴリズムの結果のみを示し)、ある突然変異が良性であるとHDivアルゴリズムが予測した実例も省略しました。これは、検討した17個の遺伝子のうち14個まで (すなわち83パーセント) が恐らく損傷を与える、あるいは損傷を与える可能性があるということを読者に確認させるというベーエの目的を果たすものでした。ある突然変異が損傷を与えると予測されなかった実例 (すなわち、一覧で良性とされたもの) があっても、ベーエの命題とは矛盾しません。なぜなら、ベーエは多くの突然変異が良性であることは決して否定していないからです。実際、突然変異の大部分は良性です (例えば、第3コドンの位置が置換されてもアミノ酸の配列が変わらないことがあります)。しかしベーエの命題は、適応的突然変異 (突然変異全体の少数派を占める) の大部分は、建設的というより破壊的であるというものです。図表には、この命題を無効にしたり覆したりするものは何もありません。

結論

ベーエの仕事に向けられたファリーナの反駁動画は、複数の点でベーエを誤り伝えています。そのうえ、ファリーナは動画の中で引用しているいくつかの論文を誤読しており、それらが進化論へのベーエの批判とどのように交差しているのか理解できていません。彼のビデオには新しい事柄もほとんどありません。ベーエへの彼の批判の多くは、以前に他の人たちによってなされたもので、他の場所で詳細に取り上げられています。端的に言えば、ファリーナ氏は独り善がりな慇懃無礼さと恩着せがましい態度にもかかわらず、ベーエ博士の命題へのに対する信頼できる批判を行うことができていません。

注釈

  1. Behe, M. J. (2007) The Edge of Evolution: The Search for the Limits of Darwinism. Free Press. 29.
  2. 同上。
  3. 同上、110.
  4. Bookchin, R. M., Nagel, R. L., & Ranney, H. M. (1967) Structure and properties of hemoglobin C-Harlem, a human hemoglobin variant with amino acid substitutions in 2 residues of the beta-polypeptide chain. The Journal of Biological Chemistry. 242 (2), 248–255.
  5. Van Oss, S. B. & Carvunis, A.-R. (2019) De novo gene birth. PLoS Genetics. 15 (5), e1008160–e1008160.
  6. 同上。
  7. Behe, M.J. (2020) Darwin Devolves: The New Science About DNA That Challenges Evolution. HarperOne. 17.