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ジョナサン・マクラッチー
2023/6/22 6:33
編集部注: マクラッチー博士を新しい同僚として迎えることを嬉しく思います。彼は『Center for Science and Culture』のレジデント生物学者兼フェローです。
インターネット上では、返答に値する人とそうでない人がいます。私たちはこのところ、YouTuberのデイブ・ファリーナに返答し、彼とライス大学の合成化学者ジェームス・ツアー博士との最近の討論をたどりつつ、十分に書いてきました。しかし、ファリーナはマイケル・ベーエ博士の仕事を批判する人気の動画も投稿しているので、今回はそちらに話を移しましょう。
私は分子生物学と細胞生物学の専門家なので、マイケル・ベーエの3冊の本をレビューした (『ダーウィンのブラックボックス』、『The Edge of Evolution』、『Darwin Devolves』) ファリーナの動画に興味を持ちました。この記事と続くいくつかの記事で、私はベーエ博士の仕事に対するファリーナの分析への反論を提示します。ここでは、『ダーウィンのブラックボックス』へのファリーナの論評、特に、還元不能なほど複雑なシステムが自然の過程によって進化してきたと彼が言い張る反例を取り上げます。
Cit+変異体の進化
この動画では、ベーエの還元不能な複雑性という概念は、「還元不能なほど複雑」であるというベーエの定義に合致しつつ無誘導のメカニズムによって進化したシステムの文書化された実例によって、経験的に反証されていると主張しています。最初の証拠は、大腸菌を使ったリチャード・レンスキーの長期進化実験で、約33,000世代 (15年) 後に、細菌の細胞が好気性条件下でクエン酸塩により増殖する能力を進化させたことが観察されました1。続いて、この能力の遺伝的基盤が特定されました2。大腸菌はすでに嫌気性条件下でクエン酸塩で増殖する能力を持っており、遺伝子citTによってコードされるクエン酸塩トランスポータータンパク質によって促進されます。DNAの配列から、citT遺伝子を含む2933塩基対が複製されました。その結果、これまで発現していなかったcitT遺伝子のコピーが、隣接する遺伝子rnkのプロモーターの制御下に置かれ、好気的条件下で発現するようになりました。これは、それをもたらすために複数の共依存変異を必要としない、比較的単純な変化です。実際、この適応の例では、新規の遺伝子やタンパク質の発生や、既存の遺伝子の修飾さえも必要としません。citT遺伝子は元から、酸素がない状態でクエン酸塩を細胞内に取り込むクエン酸塩トランスポーターをコードしています。この重複事象によって、citTタンパク質の調節が失われ、酸素欠乏条件下だけでなく、酸素が豊富な条件下と酸素欠乏条件下の両方で発現するようになりました。さらに、好気条件下においてクエン酸塩で増殖する細胞の能力は、他のいくつかの突然変異によって最適化されました3。ベーエ自身が要約しているように、
決定的な変異が起こる前にも、E. coli内でクエン酸塩を作るタンパク質の遺伝子に別の変異が起こり、そのタンパク質の、通常は活性を調節するのに役立つ別の代謝産物 (NADHと略される) と結合する能力が低下した。その後の、同じ遺伝子の別の変異は、その活性を約90%減少させた。なぜこれらの変異は有用だったのだろうか?著者たちが書いているように、「クエン酸が唯一の炭素源である場合、[その酵素を] 通過する流量がないときに最適な増殖が [コンピューター解析により] 予測される。事実、[その酵素の] いかなる活性も有害である」。そして、もし有害なものがあれば、ランダムな突然変異によって素早く除去される。著者たちによる更なるコンピューター解析の結果、通常はオフになっている他の2つの代謝経路のスイッチを両方オンにすれば、クエン酸塩変異体は更に効率的になることが示唆された。調べてみると、通常はそれらの経路を抑制する2つの制御タンパク質が、点突然変異によって分解されていることが発見された。信号機が青に点灯したままになっていたのだ4。
言い換えると、クエン酸塩で増殖する細胞の能力を最適化するこれらの変異は、実際には損傷を与えるものでした。それらは生物の現在の必要を支えていたため、自然選択によって保存されたのです。ベーエが『Darwin Devolves』で詳細に論じているように、正の選択の対象となる突然変異の大部分は、建設的というよりはむしろ損傷を与えます。というのも、何かを壊して利益を得る方法が、何かを構築して利益を得る方法よりもはるかに多いからです。読者は、リチャード・レンスキーの『Darwin Devolves』への書評に対するベーエの回答を興味深く思うかもしれません。こちらでご覧いただけます。
E. coliにおけるクエン酸塩代謝の進化を研究している研究者の1人に、『Discovery Institute’s Center for Science and Culture』のフェローである微生物学者スコット・ミニッチ博士がいます。ファリーナはこの事実を知っており、「皮肉なことに、『Discovery Institute』のベーエの同僚の1人のアイダホ大学農業生命科学部教授、スコット・ミニッチ博士は、この経路を詳細に記述した共著論文で、その還元不能な性質を軽率にも強調してしまいました。彼はメイヤーと友人たちからお叱りを受けたと確信しています」と述べています。しかし実際には、ミニッチ論文5はこれらの結果について、レンスキーの解釈よりもむしろベーエの解釈を支持しています。すなわち、「新しい機能的コード化要素が得られたり失われたりしたのではなく、単に複製されただけである」ということです6。したがって、私はファリーナがこの論文を読んだかどうか疑っています。レンスキーの最初の論文では、適応の過程には3つの段階があると示唆されていました。増強 (最初の中立突然変異が関わる)、実現 (上述のプロモーター統合事象)、改良 (クエン酸塩の取り込み中に失われたコハク酸塩の回復を促進するトランスポーターをコードするdctA遺伝子の発現の増加) です。レンスキーと彼の同僚たちの見解では、この形質が進化するのに約15年かかったのは、それ自体は増殖を推進しないものの、後の実現事象に必要な最初の中立突然変異 (「歴史的偶然」) が必要だったからです。ミニッチの研究室は、レンスキーの研究室が観察した突然変異体ははるかに迅速に、15年ではなく14日以内に (そして33,000世代ではなく、わずか100世代で) 単離可能で、レンスキーの実験に要した時間の長さは、進化の必要性というよりも、おそらくは実験条件のアーティファクトの反映である可能性が高いことを実証しました。
Vpuタンパク質
この動画では他にも、HIV-1のVpuタンパク質を含む、還元不能なほど複雑な形質が進化した例とされるものがいくつか提示されています7。ファリーナは次のようにコメントしています。
これは現在、テザリンと呼ばれるヒト免疫系のタンパク質を不活性化するという新規の機能を持っています。ヒトのテザリンはチンパンジーの同じタンパク質とは十分に異なっており、HIVの進化元であるサル免疫不全ウイルスでは対抗できません。この新しい形質には、3つから7つの特異的突然変異が必要であり、いくつかのまったく新しいタンパク質結合部位をもたらします。HIVは1930年頃にチンパンジーからヒトへと跳躍したばかりなので、これは還元不能なほど複雑な形質が進化した最近の別の例です。
ビガンとニール (2010年) は、「HIV-1 NL4.3 Vpu TMドメインの広範な突然変異誘発を実行し、・・・テザリン拮抗作用に必要な3つのアミノ酸位置を特定し」ました8。これらの位置のうち2つ (すなわちA14LとW22A) を変異させると顕著な阻害を示しましたが、A18L変異体はわずかな阻害しか示しませんでした。したがって、これは3つのアミノ酸位置すべてがテザリン拮抗作用に決定的な影響を与えるという事例ですらありません。さらに、ウイルスは膨大な個体数を持ち、突然変異率が極めて高いのです。そのため、細菌を含むより複雑な生物よりもはるかに容易に、複数の共依存変異を必要とする複雑な形質を進化させることができます。したがって、この2つの理由から、より複雑な生物において還元不能な複雑性が生じるというファリーナの主張を支持するために引き合いに出すには、これは実のところ良い例ではありません。
遺伝子水平伝播は救いになる?
さらなる例としてこの動画は、「光合成をする藻類を食べる多くの動物が、内共生によって自らも光合成するようになる途上にあるようです」と述べています。ファリーナは「Horizontal gene transfer of the algal nuclear gene psbO to the photosynthetic sea slug Elysia chlorotica」という論文を引用しています9。この論文では、光合成する藻類フシナシミドロの一種 (Vaucheria litorea) を摂取することによってウミウシの一種 (Elysia chlorotica) がプラスチドを獲得したことについて議論しています。プラスチドの代謝に必要なタンパク質の90%以上は藻類の核ゲノムでコードされているにもかかわらず、プラスチドはウミウシの体内で光合成を行うことができます。この論文では、プラスチドの必須タンパク質はウミウシ自身から供給され、光合成を支える遺伝子は遺伝子水平伝播によって獲得されたと断定しています。しかし、これは何らかの新しい複雑な形質の進化を伴うものではありません。遺伝子とタンパク質はすでに存在していましたが、単にある生物から別の生物に伝播しただけです。
トカゲの急速な進化?
次にこの動画では、「産卵から出産に移行しつつあるトカゲが存在し、ある事例では一度に両方を行いました」と述べて、2019年の論文を引用しています10。しかし、イエローベリー・スリートード・スキンク (Saiphos equalis) が産卵 (「卵生」) と胚が完全に発育するまで体内で育てること (「胎生」) を切り替えることができるようにデザインされていた可能性の方が高そうに思えます。実際、ファリーナが述べたように、ある事例ではメスが1度に出産と産卵を行ったことさえあります。さらに、2つの繁殖様式間で非常によく似た遺伝子が発現していることが示されており、「この種では繁殖様式が比較的不安定である」ことが示唆されており、「等価な繁殖様式間の生理学的移行障壁は従来考えられていたよりも低いのかもしれない。この主張は我々の遺伝子発現データからも支持される。卵生の個体と胎生の個体では、同じ機能を持つ多くの遺伝子が生殖周期の間に発現していた11」とのことです。さらに、ガマトカゲ属の2つの種の間での繁殖様式の違いは、多くの突然変異の結果ではなく、遺伝子の発現の違いによるものであることが以前に示されています12。
多細胞藻類
最後の例としてこの動画は、ヘロン他 (2018年) の論文「De novo origins of multicellularity in response to predation」13を引用し、「単細胞藻類が実験室で進化して恒久的に多細胞になったことがあります」と論じています。この研究では、単細胞の緑藻コナミドリムシ (Chlamydomonas reinhardtii) の個体群を、濾過摂食性の捕食者ヨツヒメゾウリムシ (Paramecium tetraurelia) の導入による選択圧にかけました。彼らは、5個体群のうち2個体群が多細胞構造を発達させたことを発見しました。しかし、多細胞個体群は運動性を欠き、多細胞構造は複数の細胞型を進化させませんでした。さらに、この論文の著者たちは、「野生型のコナミドリムシがパルメロイド(すなわち多細胞構造体)を形成する能力は、我々の実験の始祖集団がすでに多細胞構造体を産生するツールキットを保持していたことを示唆している」と述べています。実験で進化した株は、義務的に多細胞 (複数の細胞から構成されることが、ライフサイクルの必須かつ恒久的な部分であるという意味) ですが、著者たちは、進化した多細胞性表現型の遺伝的基盤は、「以前から存在していた可塑的応答の流用を伴う」ことを示唆しています。もしそうだとすれば、「主たる単細胞性 (しかし通性的には多細胞性) から義務的な多細胞性へのライフサイクルの移行に必要なのは、パルメロイド形成に関与する遺伝子の、通性的発現から義務的発現への変化だけだったのかもしれない」と著者たちは述べています。言い換えれば、特定の条件下で多細胞構造を形成しながら単細胞生物として存在できたものが、恒久的な多細胞生物へと移行するには、関連遺伝子をオン・オフできる状態から、遺伝子を恒久的にオンにしておく状態への移行が関係していたのかもしれません。同様の論文を取り上げたマイケル・ベーエのこちらの短い記事もご覧ください。
藁人形論法
討論における一般的な戦術は、藁人形論法 (つまり、反駁しやすくするために相手の論議を改変すること) を設定し、それを打倒することです。ファリーナの動画は、事前に同様の主張が虚偽であることが判明しているにもかかわらず、他の何らかのシステムに移動し、それが還元不能なほど複雑であると主張することで、ID推進者が科学研究をモグラたたきゲームに変えていると苦言を呈しています。彼は、「進化不可能とされるシステムを創造論者が指し示し、その進化史を生物学者が解明するということが何度あっても、創造論者は常に別のシステムを指し示して、『しかしこのシステムは、間違いなくこれは、進化しえなかった』と言うでしょう」とコメントしています。しかし私には、ベーエや他のIDの推進者たちが還元不能なほど複雑であると提唱したシステムはどれも、自然主義的過程によって進化可能であることが示されたとは思えません。何千もの複雑な生物学的システムを、相対的にわずかなものを除いて説明できるような、詳細で妥当な進化的シナリオが存在したというのであれば、話は別でしょう。ところが、生物に見られる複雑なシステムのうち、このような方法でもっともらしく説明できるものは本質的に皆無というのが実情です。
この動画はまた、還元不能な複雑性からデザインへの推論の構造を大いに誤り伝えています。ファリーナはそれを、「人間はものを造る。したがって、すべてのものは造られたに違いない」と要約しています。実際には、この推論はもっとずっと微妙なものです。この論議では、より高いレベルの目標を達成するために共働する、よく調和した部品の配置は、意識的行為者と習慣的に結びつけられる種類のシステムである、と言っています。というのも、知的存在は自然主義的な過程とは異なり、目標指示性を持てるからです。したがって、生物学的システムの創成に精神が関与しているという仮説に立てば、還元不能なほど複雑なシステムの存在は特に驚くに値しません。しかし、もしデザイン仮説が偽であれば、そのようなシステムはとてつもなく驚くべきものとなります。この尤度比 (または「ベイズ係数」) の不均衡性を考えると、これらのシステムはデザイン仮説にとって有利です。さらに、システムのそれぞれが偶然性に著しく訴える必要があるため、それぞれが認識論的に独立しています。つまり、何千もの還元不能なほど複雑なシステムのベイズ係数が掛け合わされ、デザインの大規模な累積事例を形成しています。
次回は、細菌の鞭毛についてのファリーナの主張について検討します。
注釈
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