Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

ベーエの仕事についてファリーナに答える: 『The Edge of Evolution』

This is the Japanese translation of this site.

 

ジョナサン・マクラッチー
2023/6/27 6:33

 

以前の2つの記事(こちらこちら)で、マイケル・ベーエの3冊の著書についてのYouTuber「デイブ教授」ファリーナの動画への一連の回答を始めました。今回のエッセイでは、『The Edge of Evolution』に関するファリーナのコメントに注意を向けます。

マラリア

ファリーナは動画の中で、「(ベーエ博士は) 薬物耐性や 病気の免疫のような生化学的形質について、彼自身がヒトに見られる1つ以上の形態のマラリア耐性の生化学的詳細を記述しているにもかかわらず、その仕事を達成する方法は1つ、ただ1つしかないと考えているようです」と主張しています。実際には、『The Edge of Evolution』でベーエは、2つの異なる薬剤、すなわちアトバコンとクロロキンに対するマラリア耐性の生化学的詳細を議論しています。クロロキン耐性に関してベーエは、pfcrt遺伝子によってコードされ、クロロキン耐性を付与する上で最も重要であると認識されている1、Plasmodium falciparumのクロロキン耐性トランスポーターについて記述しています。このポンプは本来ペプチドトランスポーターとして機能します。このトランスポーターがクロロキンを汲み上げることができるようになる突然変異は、ペプチドを汲み上げる能力を損ない、寄生虫にとって著しい適応コストを伴います2。ベーエが『The Edge of Evolution』で説明しているように、このクロロキン耐性の表現型には少なくとも2つの共依存的なアミノ酸の置換が必要で3、公衆衛生のデータによれば、それが起きるのはおおよそ1020個の細胞につき1個の割合です4。このことから、4つの共依存的置換を要求する適応は、マラリア細胞1040個に1個の割合で生じることが予測されます。これまで地球上に存在した生物の個体数は1040に満たない5ことを考えると、この数字はまったくもって法外です。哺乳類のような複雑な動物を扱う場合、個体数がはるかに、はるかに少ないので、この挑戦はさらに深刻になります。比較的最近まで、例えばヒト科動物の有効な集団サイズは10,000-20,000個体の範囲に過ぎませんでした。この主題のより詳細な扱い方については、ケイシー・ラスキンのこの記事を参照するよう読者にお勧めします。

 

ファリーナは次のように主張します。

 

ベーエは適応度地形という概念を、極めて基本的かつ彼の論議を完全に覆すような仕方で台無しにしています・・・ある時代や場所で特定の遺伝子型が非常に適合していても、別の時代や場所では適応度は低いかもしれません。ベーエはこの自明な詳細を完全に見逃しています。彼は進化の過程を通して「谷」を越えることは不可能だと主張します。なぜなら、2つの頂点あるいは2つの高適応度の遺伝子型の中間は適応度が低く、選択されないからです。この論議を展開する際、彼は適応度地形は一定であり、遺伝子型は環境や生態学的条件に関係なく固定された適応度の値を持つと仮定しています。

 

しかし、ベーエの著書に記述されているような多くの複雑な適応では、複数の共依存的突然変異が生じるまで、適応の利益は実現しません。安定的に折り畳まれるタンパク質が、根本的に異なる折り畳み方に変異するためには、安定的に折り畳まれず、もはやその役割を果たさない適応度の谷を通過しなければならないでしょう。そのようなタンパク質は、代替的な環境条件が一揃いあってもその下では選択されません。またしても、ファリーナはベーエの論議を理解できていないようです。

 

奇妙なことにファリーナは、「とても面白いのですが、もしベーエが、(抗マラリア) 薬剤耐性が進化することは不可能だと考えるなら、それは私たちがマラリアに罹り続けることを保証するために、私たちの薬剤に対する耐性をわざわざマラリア原虫に賦与する神を彼が信じているということになります。なんとも素晴らしい人物ですね」と断言しています。しかしこれも、『The Edge of Evolution』でベーエが論じていることへの誤解が表れています。彼はマラリア寄生虫がクロロキンや他の抗マラリア薬への耐性を獲得したことを否定していません。全く逆です。むしろ、上で議論したように、彼はマラリアのクロロキンへの耐性が生じてきたこと、そしてそれはおよそ1020個の細胞に1個の割合で発生することを指摘しています。それから彼は、実現されるには共依存的な変化の数が2倍要求される事例に外挿するためにこのデータを使用し、この問題は、集団サイズがずっと小さく、世代交代時間が長く、突然変異率が低い、大型哺乳類のような複雑な生物の場合にははるかに深刻であることを指摘しています。

 

興味深いことに、『The Edge of Evolution』へのこの同じ誤認が、ネイサン・レンツによる『Darwin Devolves』の書評にも出てきます (ケイシー・ラスキンがこちらで議論しています)。このことは、ファリーナが実際にベーエの本を自分で読んだことがあるのか、それともこの本の内容についての情報をレンツなどの他の人に頼っているのか、疑問に思わせるものです。

HIV

ファリーナはビデオの中で、ベーエがHIVに関して、「ウイルスに著しい基本的な生物学的変化はまったくない」、「感染細胞内で、HIVタンパク質の突然変異による新たなウイルスタンパク質間相互作用が発達したという報告はない」と主張したことを問題視しています6。彼は第1部で議論したVpuの例を挙げています。しかし、ベーエが数年前に認めたように、これは『The Edge of Evolution』で彼が見落としていた例の1つです。それにもかかわらず、それがこの本の論題に重大な影響を与えることはありません。というのも、この記述は、「HIVは過去数十年間のある時点で、ほぼ間違いなく、すべての形状空間を網羅するのに十分なほど、そのタンパク質を変化させてきた」にもかかわらず、「感染細胞内で、HIVタンパク質の突然変異による新たなウイルスタンパク質間相互作用が発達したという報告はほとんどない」という断言に修正できそうだからです7。ベーエは、HIVの突然変異によって新しいタンパク質間結合部位が生じたことを否定しているのではありません。事実、その突然変異したタンパク質は多くの分子と結合したに違いないものの、「その中に役立つものはなかったらしい」ので、それらは選択によって保存されなかったと彼は明言しています8。その理由は、ベーエが制限された選択の問題と名付けたものにあります。「すなわち、新しいタンパク質相互作用が発達しなければならないだけでなく、実際に何らかの良い働きをするタンパク質が利用可能でなければならない」のです9。Vpuは、明らかに役立った例外の1つです。しかし、HIVが本質的に他のどの生物よりもはるかに進化しやすいことを考えると(感染者1人当たり109-1010個のウイルスが存在し、突然変異率は10-4なので、1日ごとに1個人の体内の各ウイルスにおいて、起こりうるすべての二重点突然変異が生じることを意味します)、この問題は確かに他の生命形態にとってははるかに深刻になります。

 

次は最後に、『Darwin Devolves』へのファリーナの返答をレビューします。

注釈

  1. Amar Bir Singh Sidhu, Verdier-Pinard, D., & Fidock, D. A. (2002) Chloroquine Resistance in Plasmodium falciparum Malaria Parasites Conferred by pfcrt Mutations. Science (American Association for the Advancement of Science). 298 (5591), 210-213.
  2. Felger, I. & Beck, H.-P. (2008) Fitness costs of resistance to antimalarial drugs. Trends in parasitology. 24 (8), 331-333.
  3. Summers, R. L., Dave, A., Dolstra, T. J., Bellanca, S., Marchetti, R. V., Nash, M. N., Richards, S. N., Goh, V., Schenk, R. L., Stein, W. D., Kirk, K., Sanchez, C. P., Lanzer, M., & Martin, R. E. (2014) Diverse mutational pathways converge on saturable chloroquine transport via the malaria parasite's chloroquine resistance transporter. Proceedings of the National Academy of Sciences - PNAS. 111 (17), E1759-E1767.
  4. White, N. J. (2004) Antimalarial drug resistance. The Journal of clinical investigation. 113 (8), 1084-1092.
  5. Whitman, W. B., Coleman, D. C., & Wiebe, W. J. (1998) Prokaryotes; the unseen majority. Proceedings of the National Academy of Sciences - PNAS. 95 (12), 6578-6583.
  6. Behe, M. J. (2007) The Edge of Evolution: The Search for the Limits of Darwinism. Free Press. 139.
  7. 同上、157-158.
  8. 同上。
  9. 同上。