Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

哲学者の勝利: 脳に意識のスポットは存在しない

This is the Japanese translation of this site.

 

デニーズ・オレアリー
2023/7/1 7:51

 

1998年に遡りますが、一流の神経科学者クリストフ・コッホは、心の哲学者デイヴィッド・チャーマーズに対し、今後25年以内に脳内に特定の「意識を示す特徴」が発見されることに高級ワイン1ケースを賭けていました。2018年に、スウェーデンのジャーナリスト、ペール・スナプルードがこの事実を『New Scientist』で世界に思い出させました。 残り5年というところで、ある種のカウントダウンが始まりました。スナプルードの記事のタイトルは「Consciousness: How we're solving a mystery bigger than our minds」というもので、読者に「私たちは手がかりを発見しつつある」と伝えています。

 

5年が経ちましたが、誰が勝ったでしょうか?マリアナ・レンハロが『Nature』で次のように報告しています。「6月23日、ニューヨーク市で開催された国際意識科学会 (ASSC) の年次総会で、両科学者は、この探求はまだ進行中であり、チャーマーズが勝者であると宣言した」。つまり、脳には既知の人間の意識を示す特徴は存在しないということです。私たちは皆、意識があると感じていますが、その感覚は何らかの場所や流れに位置しているわけではありません。

よく噛み合った賭けの当事者たち

賭けの当事者たちはよく噛み合っていました。シアトルのアレン脳科学研究所から来たコッホは、統合情報理論 (IIT) の指導的な支持者で、汎心論者 (すべての生命、あるいは非生命でさえ、ある程度は意識がある) であることを認めています。ニューヨーク大学の心・脳・意識センターの共同ディレクターであるチャーマーズは、「意識のハードプロブレム」という用語の創始者です。彼は『Closer to Truth』でロバート・ローレンス・クーンに、不滅の魂は信じないが、(人間の心は非物質的であるという) 二元論は受け入れると語っています。

 

意識にはこの問題があります。すなわち、ギャップが残されています。これまでに考案されたあらゆる物理理論では、意識との間にギャップが残されています。だから私は何年も壁に頭をぶつけて、物理学に基づいた意識の理論を思いつこうとしました。私は週ごとに異なる意識の物理理論を持っていました。どれもうまくいかず、やがて私は、これが体系的な理由によるものだと思うようになりました。そのような理論は常に客観的機能の客観的理論です。どの理論も主観的な経験を与えてはくれません。(0:55)

 

 

論争の両者がどちらも、「二元論の眼鏡を通して物事を見るのをやめさえすれば、意識について何か不可解なことがあるとはもはや感じないだろう」と語っている、キングスカレッジの哲学者デイヴィッド・パピノーのような物理主義者ではないことは、おそらく重要でしょう。そして偶然ながら、二元論者が賭けに勝ちました。

チャーマーズはどのようにして勝ったのか?

2つの意識の理論の競争が、2019年に『Templeton World Charity』財団により発表され、具体的な内容に焦点を当てた賭けが可能になりました。すなわち、コッホの「統合情報理論」が「グローバル・ネットワーク・ワークスペース理論」(GNWT) と対決することになりました。GNWTは、働いている脳の観察を通して意識をイメージするために情報理論に依拠しています。

 

『Nature』から以下のことが学べます。

 

統合情報理論 (IIT) とグローバル・ネットワーク・ワークスペース理論 (GNWT)。IITは、意識とは、画像を見るようなある体験が起こっている間だけ活動する、特定の型のニューロン接続によって形成される脳内の「構造」であると提唱している。この構造は、脳の後方にある後部皮質に見出されると考えられている。一方、GNWTは、相互接続されたネットワークを通して脳の各領域に情報が送信されるときに意識が生じると示唆する。この理論によれば、伝達は経験の最初と最後に起こり、脳の前部にある前頭前皮質が関与する。
― マリアナ・レンハロ、「DECADES-LONG BET ON CONSCIOUSNESS ENDS — AND IT'S PHILOSOPHER 1, NEUROSCIENTIST 0」、『NATURE』、2023年6月24日

 

仮説を検証した6つの独立した研究室は、どちらの理論も完全には一致しないという結果を出しました。 しかし、いずれにせよ、「意識を示す特徴」を捉えることはできませんでした。それにもかかわらず、チャーマーズは『Nature』に対し、「この分野では多くの進歩がありました」、「何年にもわたって、『科学的な』謎とまではいかなくても、少なくとも部分的には科学的に把握できるものへと徐々に変わりつつあります」と語りました。そしてコッホは、結果が発表される前日にニューヨーク市で高級ポルトガルワインを1ケース購入しました。

4つの有力な理論

興味深いことに、2022年にテルアビブ大学で行われた意識理論の研究では、4つの有力な理論が分析され、「これらの理論はそれぞれ、それを支持する説得力のある実験を提示している。それでこの分野は分裂しており、意識の神経科学的な説明で合意されたものはない」ことが分かりました。そしてそのままになっています。

 

脳神経外科医のマイケル・エグナーは、私たちは意識を定義することすらできず、そのことが意識を示す徴候の探索を複雑にしているのは確実だと指摘しています。例えば、ケネス・ミラーの著書『The Human Instinct』(Simon and Schuster、2018年) の最近の書評で、「ミラーは意識を定義していません。なぜなら、意識というのは神経科学でも哲学でも、首尾一貫して定義されることが決してない、悪名高い曖昧な概念だからです」と述べています。彼は以下のように付け加えています。

 

「意識」は、ウィトゲンシュタインが言語ゲームと呼んだものの明確な例です。言語ゲームとは単語が日常生活で使用されることによって獲得する、規則に支配された意味のことです。 私たちは意識を、ある時は覚醒という意味で使い、ある時は知覚的知識という意味で使い、またある時は抽象的理解や注意深さ、実感という意味で使います。通常の言語におけるその価値が何であれ、「意識」が神経科学や哲学の議論に占める場所はありません。これは、私たちが自覚していなかったり、知覚や理解の能力がなかったりするからではありません。問題は、神経科学や心の哲学において、意識という用語はあまりにも漠然としていて有用ではないということです。意識の意味するところはあまりにも広く、その言語ゲームは非常に入り組んでいるため、純粋な洞察を妨げるのです。
― マイケル・エグナー、「KENNETH MILLER ON CONSCIOUSNESS AND EVOLUTION」、『MIND MATTERS NEWS』、2023年3月8日

 

しかし、言語ゲームには使い道があるかもしれません。その1つは、高まる実感を回避することかもしれません。この場合の実感とは、チャーマーズや他の二元論者が正しいということです。つまり、人間の性質には非物質的な側面があり、それは例えば脳内の意識のスポットや意識を示す特徴の探索では扱えません。もしそれが不快に聞こえるなら、そう、言語ゲームはいつもあるのです。

 

『Mind Matters News』へクロスポストされました。