Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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特定された複雑性を簡潔に: 歴史的背景

This is the Japanese translation of this site.

 

ウィリアム・A・デムスキー

2024/2/26 15:39

 

私が今日から始める新連載の主題である「特定された複雑性 (specified complexity)」は、情報の数学的理論の正統な子孫です。しかし、インターネット上でそれについて言われていることを読んでも、そのことは分からないでしょう。特定された複雑性についての『Wikipedia』の記事の冒頭の一文を取り上げてみましょう。「特定された複雑性とは、ウィリアム・デムスキーによって導入された創造論者の論議であり、インテリジェントデザインという疑似科学を推進するために支持者たちによって使用されている」。特定された複雑性を貶めるために、これ以上にうまく細工された一文を想像するのは難しいでしょう。もしそれがその通りであるなら、この概念をさらに理解し、関与する必要はあるでしょうか?

 

実際には、特定された複雑性は正真正銘の情報測度です。そうです、特定された複雑性はインテリジェントデザインに応用できますが、その定義と特性はその応用とは独立して意味を成します。この連載では、特定された複雑性とは何かを定義し、それが標準的な情報理論に堂々と属していることを確立し、直感的に明確なその応用を概観し、それがなぜインテリジェントデザインへの応用を離れても重要な概念であるのかを示したいと思います。

私の発案ではない

第1に、特定された複雑性という用語が私に関連していることは広く認識されているものの、私がそれを発案したのではないことをはっきりさせておきましょう。インテリジェントデザインの批判者たちは、特定された複雑性を本物の科学者のふりをした詐欺師として扱っています。そのため、彼らはそれをフロギストンのような論破された科学的概念や骨相学のような疑似科学になぞらえています。

 

しかし、特定された複雑性を履歴書を持った求職者と考えてみると、(この概念を保証するための) リファレンスとして記入されている人々は、実のところ非常に印象的です。実際、尊敬に値する科学者の中には、一時期、喜んで自分の名前と評判をこの概念に関連付けた人もいました。その系譜からすれば、特定された複雑性を現実の科学の私生児として扱うことは正当化できるはずもありません。

 

フランシス・クリックの同僚だった生物学者のレスリー・オーゲルが、1973年に生命の起源についての本の中でこの言葉を導入しました。1958年に遡ると、クリック自身が、この概念のあまり発展していないバージョンを弄んでいました。彼の論文「On Protein Synthesis」をご覧ください。そこで彼は、「情報とはタンパク質のアミノ酸配列の特定性 (specification) を意味する」と書いています。「特定された複雑性」がオーゲルによって造語された直後の数年間は、理解が不完全だったとしても、根底にある考え方は広く受け入れられていました。

 

特定された複雑性という用語で、オーゲルは3つのタイプの秩序を区別して理解しようとしていました。

 

反復的秩序: BOATBOATBOATBOATBOATBOATBOATBOATBOATBOAT。自然界での例: 塩の結晶。

 

ランダム秩序: SBIPDYAQBUKHQFLYRTXHBIWGJNSCPVMZDLEGKYAC。自然界での例: ランダムポリマーの混合物。

 

複雑な特定された秩序: THISSEQUENCEOFLETTERSISACARRIEROFMEANING (この文字列は意味を運ぶものである)。自然界での例: タンパク質をコードするDNA配列。

 

これらの例では、各文字列は大文字のローマ字40字から成っています。最初の文字列は、BOATが10回繰り返されています。BOATは既知の単語であるため、私たちの言語では特定されているとみなされるかもしれません。ですが、BOATという単語は短く、何度も繰り返されるため、この文字列全体は単純とみなせるでしょう。それで、これは特定された単純性の例であり、それゆえに特定された複雑性とは異なります。

 

BOATの代わりにもっとランダムな見た目のQOZKを使うこともできたかもしれないことに注意しましょう。そうすると、QOZKQOZKQOZKQOZKQOZKQOZKQOZKQOZKQOZKという40字の文字列が生成されます。この場合、QOZKは特定されていないとみなされるかもしれませんが、繰り返しがありますから、文字列全体は依然として単純とみなされます。したがって、この文字列は特定されていない単純性の例であり、それゆえにこれも特定された複雑性とは異なります。

 

一方、ランダム秩序の例は、特定されていませんし単純でもありません。特定されていないというのは、全体を単に列挙する以外に、その文字列を記述する直接的な方法がないからです。例えば、その文字列の生成を簡単な式を用いて理解することはできません。BOATのような4文字の単語と比べると、比較的長く、したがって複雑でもあります。これは特定されていない複雑性の例であり、それゆえに特定された複雑性とは異なります。

 

そしていよいよ最後の例では、大文字のローマ字40字の文字列が意味のある英文を綴っています。意味のある文を作るために、文法的に正しい構文で並べられた英単語を使うことにより、これは特定されています。ただし、それを生成したり説明したりする簡単な方法はありません。これは特定された複雑性の例です。

基本的直感

これらの例で私は、特定されたおよび複雑性という用語をまだ注意深く定義しておらず、いいかげんに扱っています。しかし、これらの例は、この概念の根底にある基本的直観を明らかにしています。さらに、これらはまさしく、オーゲルがこの概念を導入したときに念頭に置いていたものです。そして実際、オーゲルがこの概念を導入してから約30年間、特定された複雑性は科学コミュニティで幅広い敬意を集めました。

 

オーゲルが特定された複雑性という用語を導入してから最初の30年間、特定された複雑性に敬意が示されていた一例として、よく知られた物理学者でサイエンスライターのポール・デイヴィスについて考慮してみましょう。彼は1999年の生命の起源についての著書 (『生命の起源 地球と宇宙をめぐる最大の謎に迫る』) でこう書いています。「生物がミステリーなのは複雑性そのものではなく、非常に高度に特殊化された複雑性がそこにみられるという事実なのである」[訳注: この本ではspecified complexityを「特殊化された複雑性」と訳しています。]。少なくともその時期の科学者たちは、特定された複雑性を知性に帰属させることは好まなかったかもしれませんが、特定された複雑性の出現が、説明されるべき挑戦を突きつけていることを理解していました。

 

では、何が起こって科学コミュニティの主流における特定された複雑性の運命が変わったのでしょうか?インテリジェントデザイン運動が起こりました。デザイン理論家のチャールズ・サクストン、ウォルター・ブラッドリー、ロジャー・オルセンが、1980年代に彼らの著書『The Mystery of Life’s Origin』で口火を切り、特定された複雑性が生命の起源に重大な問題を提起していると指摘しました。彼らはさらに進んで、知性がそれの成立可能な説明とみなされるべきだと提唱しました。

 

これとは別に、私は著書『The Design Inference』(ケンブリッジ、1998年) 初版において、特定された複雑性と小さな確率の組み合わせで、知的行為者を推論するための信頼できる基準がもたらされると論じました。この本には特定された複雑性という用語は出てきませんでしたが、暗黙のうちにありました。「特定された複雑性」 の「特定された」が、特定性 (specification) という形式で存在していました。これについては後でさらに取り上げます。

テーブルの上のカード

しかし、特定された複雑性の科学的運命を修正するゲームチェンジャーが2002年に発生しました。その年、私は『The Design Inference』の続編を出版しました。『No Free Lunch』という題名で『Nature』誌に書評が載ったこの本には、『Why Specified Complexity Cannot Be Purchased Without Intelligence』という副題がついていました。今やすべてのカードはテーブルの上に置かれました。インテリジェントデザインを拒絶した科学者たちは、以前は特定された複雑性に利点があると見ていたにもかかわらず、今ではその概念への支持を撤回しました。

 

先に進む前に、私が特定された複雑性を明確な情報理論的概念として定式化した際に、オーゲルの当初の意図を保持しようとしたことを強調したいと思います。数学者のジェイソン・ローゼンハウスのようなインテリジェントデザインの批判者は、私がオーゲルを盗用したと示唆していますが、そのようなことはしていません。オーゲルは特定された複雑性を定式化する際に情報理論に訴えましたが、その際に彼はいくつかの間違いを犯しました。このシリーズの後半で、オーゲルによる特定された複雑性の理論以前のバージョンと、ここで説明する理論的バージョンを比較します。そうすることで、読者は彼が何をしようとしていたのか、そしてここで展開される特定された複雑性が彼の仕事をどのように改善しているのかを明確に見て取ることができるでしょう。

 

次回: 「直感的な特定された複雑性」

 

編集者注: この記事は当初BillDembski.comに掲載されたものです。