Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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フランシス・コリンズの『ゲノムと聖書』から15年

This is the Japanese translation of this site.

 

ジョナサン・ウィット

2021/10/13 9:34

 

フランシス・コリンズのベストセラー『ゲノムと聖書』が今年15周年を迎え、著者が再び話題になっている今は、有神論的ダーウィニズムについての彼の主張を見直し、その後の15年間の研究がそれらの論議を強めたり弱めたりするために何を行ったかを考慮するのに良い時でしょう。

 

彼は2000年にクレイグ・ベンターと共同で、31億文字のヒトの遺伝暗号のマッピングに彼らのチームが成功したことを発表し、一躍有名になりました。その6年後に出版された『ゲノムと聖書』は、ダーウィン的進化と超越的創造者の両方について論証しています。科学者は自分の頭脳を放棄することなく、これらのキリスト教の教義を信じることができる、と彼は主張しています。

 

主流メディアは、ダーウィニズムはキリスト教の脅威ではない、ダーウィニズムは創造論やインテリジェントデザインよりも幅広い物理的証拠をうまく説明している、というこの本の主張を強調しました。しかし、私が書きたいと思うようになったのは、ありふれた光景に潜むこの著作の特徴です。フランシス・コリンズは、インテリジェントデザインについて科学的に論証しているのです。

 

物質の起源から精神の起源にまで及ぶインテリジェントデザインの理論によれば、自然界のある特徴については、知的な原因が最良の説明となります。9章でコリンズは生物学におけるインテリジェントデザインに反論しており、メディアはこの点をきちんと強調しています。しかし、他の箇所で彼は、自然界の他のある特徴については、知的な原因が最良の説明であると論じています。

コリンズによる宇宙的デザインの主張

彼は3章「宇宙の起源」の始めで、物理学と宇宙論における20世紀の発見について、その多くがキリスト教の教えを補強するものであることを概観しています。例えば、19世紀の科学者たちは一般に宇宙は永遠の過去から存在していたと信じていましたが、20世紀に増大した証拠は、宇宙が約140億年前に始まったことを彼らに納得させました。コリンズが記すところの、エクスニヒロの創造、つまり無からの創造という聖書の教義と素晴らしく調和する理論です。

 

続いてこの章では、「ファインチューニング問題」を要約しています。これは、自然界の物理定数(重力、電磁気力、宇宙の質量など)が、複雑で高度な生命さえも許容するように絶妙に調整されていることを示唆する証拠が増大しているというものです。これらのうちの一つでも、非常にささいな違いがあると、宇宙における生命は存在不可能になります。

 

コリンズは、ファインチューニングの当面の説明として次の3つを挙げています。(1) 私たちの宇宙以外にも多数の宇宙が、おそらく無限に存在し、少なくとも一つ、私たちの宇宙が高等生命に適した物理定数を持ったのに違いない。(2) 私たちが信じられないほど幸運だっただけだ。(3) 物理定数は微細に調整されたから微細に調整されたように見える、つまりデザインされた。

 

彼は、3番目の「デザイン仮説」に賭けています。そして、その結論を、物理的証拠と標準的な科学的推論の手法に訴えることで支持しています。非デザインの2つの選択肢、1と2について彼は、「可能性という点からは、二つ目の選択肢が一番ありそうもない。とすれば、残るは一番目か三番目の選択肢だ。前者は論理的には可能だが、ほぼ無限大の数だけ存在する観測不可能な宇宙というのは、にわかには信じ難い。オッカムの剃刀に照らしても不適切である」と言っています。

 

彼の慎重な言葉遣いが、3番目のドアを選んだという事実を曖昧にしないように、彼は「ビッグバン自体が創造主の存在を強く示唆していると論じることはできるだろう」と付け加えました。

 

ビッグバンと微調整された宇宙への彼の訴えは、この本における彼の主なデザイン論の1つとして用いられています。私たちは立ち止まって、このことの重要性を銘記するべきです。インテリジェントデザインを唱えた科学者が嫌がらせを受け、解雇までされ、リチャード・ドーキンスやダニエル・デネットなどの「新無神論者」がニュースや大衆書でこの考えを日常的に攻撃している現在の知的風潮において、ヒトゲノムプロジェクトの元責任者で、その後国立衛生研究所の所長になった人物によるベストセラーの本が、インテリジェントデザインについて科学的主張をしていることは決して小さな問題ではありません。

コリンズの欠陥

このことはなぜもっとメディアの注目を集めないのでしょうか。部分的には、多くの批判者が採用しているインテリジェントデザインについての誤解を招く記述をコリンズが受け入れているからです。彼らによれば、インテリジェントデザインは主に生物学的進化に反対することを狙った純粋に否定的な論議であり、誤った「隙間の神」の神学と結びつけられています。

 

これらのID批評家たちは、デザイン理論家がダーウィニズムに穴を開け、それからその穴によって神が生命をデザインしたことが証明されると拙速に判断していると主張します。より広く言えば、ID推進者はある自然現象の適当な物質的原因についての私たちの現在の無知から直接的にインテリジェントデザインを論じていると彼らは主張します。

 

しかし、そうではありません。生物学におけるデザイン理論家はしばしば、現代の様々なバリエーションも含めたダーウィン理論に対する広範な批判を提示しますが、インテリジェントデザインへの肯定的な証拠も提示しています。彼らは、(生物学、化学、物理学、宇宙論における) 自然界についての私たちの増大する知識から、また、情報あるいは還元不能な複雑性を持つ機械 (いずれも細胞レベルで見られる) を産み出す既知の唯一の原因が知的行為者であるという知識から論じています。

 

コリンズは、デザイン理論家が無知に訴える論証をしていると非難していますが、実際にそうしているのは、インテリジェントデザインに反対して盲目的進化を支持するためにある種の悪いデザイン論議をしているコリンズや他のインテリジェントデザインの批判者たちです。例えばコリンズは、「ジャンクDNA」の存在が、神のような技術者が創造したであろうものというより、盲目的な進化過程を強く示唆していると論じることでそうしています。この論議は、タンパク質をコードしないDNAが果たす目的は何かについての科学者の無知に基づいていました。しかし、過去何年かの間に、研究者たちはこの非コードDNAに多くの機能的役割を発見しました。

 

彼の名誉のために言っておくと、コリンズはやがて、「ジャンクDNA」という用語の使用は見当違いであったと認めるようになりました。「私はこの用語の使用をやめました」と、彼は『Wired』誌に語りました。また、生物学者のジョナサン・ウェルズが記しているように、「それ以来、タンパク質非コードDNAの機能を示す証拠は大幅に増えていますある科学雑誌の最近の論文の1行目は、「The days of 'junk DNA' are over」です」。

 

『ゲノムと聖書』の3章 [訳注: 正しくは9章と思われます] には、もう一つの無知に訴える論証が含まれています。コリンズは、脊椎動物の目の「後ろ向きの配線」について言及し、それにより光が網膜と血管を通過して目の光センサーに到達することを強いられるため、工学的観点から欠陥があると特徴づけています。この不出来なデザインは、新ダーウィニズムの手当たり次第の進化過程の証拠であり、賢明なデザイナーがこの器官を最適に設計したという考えに反対する証拠である、と彼は言っています。彼は、「目のデザインは、よく観察すると、完全に理想的であるとは思えない」、そしてその不完全さは、「多くの解剖学者にとって、人間の形態を計画した真の知性の存在を拒むものである」と書いています。

 

これはドーキンスのお気に入りの論議であり、一般のダーウィン主義者にとってもそうです。しかし、遺伝学者のマイケル・デントンや他の人々は、この配線が酸素の流れを改善することを示しました。これは、ドーキンスが要求する整然としたアプローチでは達成できない重要な利点です。彼らはこの点に何度も注意を促しましたが、『ゲノムと聖書』にはコリンズがこの点に気づいている形跡はありません。彼はそれを取り上げもしませんし、言及もしません。(ドーキンスや他のダーウィニストは一般にこの点についての議論を避けます。) とすると、この場合、それは脊椎動物の眼がなぜ「後ろ向きの配線」から恩恵を受けるかについての無知に訴える論証であり、その無知はほとんど故意に見えるのです。

コリンズの鞭毛

コリンズはまた、細菌鞭毛と呼ばれる微小な回転エンジンをめぐる科学的論争を扱う際に、指導的なデザイン理論家の仕事を熟知していないことを露呈しています。鞭毛は、デザイン理論家のお気に入りです。なぜなら、デザインとは別にその起源を説明しようとする試みは明らかに不適当であると彼らは確信しており、また、鞭毛の形象はデザインを叫んでいるも同然だからです。

 

この精巧な分子機械は、リーハイ大学の生化学者マイケル・ベーエが、その著書『ダーウィンのブラックボックス』の中で、それが「還元不能な複雑性」を持つがゆえにデザインの証拠であると論じたことで有名になりました。彼は、ネズミ捕りという単純な機構を「還元不能な複雑性」の例として挙げています。ネズミ捕りの部品 (土台、バネ、ハンマー、押さえ棒、受け皿) のどれかが欠けると、ネズミ捕りは動作しません。それで、ネズミ捕りは「還元不能な複雑性」を持ちます。それは完全なネズミ捕りであるか、機能しないネズミ捕りであるかのどちらかです。

 

同じように、細菌の鞭毛は何十ものタンパク質の機械で構成されていますが、それらすべてが正しい場所になければ動作しません。

 

ここが、「還元不能な複雑性」が進化論と関係するところです。意思あるデザイナーは、機能していないいくつかの部品をまとめて、全体として機能するように組み立てることができますが、盲目的な進化は、知的な誘導を排除するため、一度に一つずつ、わずかでランダムな突然変異による機能向上によって進行せざるを得ません。では、もしすべての部品が正しい場所に揃うまでモーターが全く動かないとしたら、そのような過程でどうすれば還元不能な複雑性を持つモーターを一部分ずつ作ることができるのでしょうか?

 

コリンズは、指導的な進化論の弁証者であるケネス・ミラーやその他の人々の論議を用いて、自然はより単純な分子機械を利用して細菌の鞭毛を創造することができたと示唆し、そのような間接的経路の証拠として「第三型分泌器官 (III型分泌装置)」を挙げています (188ページ)。しかし、デザイン理論家が強調してきたように、この説明には3つの致命的な問題があることが判明しました。

 

第一に、そのミクロな注射器はせいぜい10個のタンパク質について説明しているに過ぎず、30個以上のタンパク質が説明されないままです。そしてこの他の30個のタンパク質は他のいかなる生命システムにも見出されていません。第二に、より広範囲の文献が示唆するように、このシステムはおそらく、より複雑な鞭毛の後に発達したもので、その逆ではありません。

 

第三に、たとえ自然がバクテリアの鞭毛を作るのに適切なタンパク質部品をすべて持ち合わせていても、何かが、あるいは誰かが、工場で自動車を組み立てるように、時間的に正確な順序でそれらを組み立てる必要があります。そのような作業は、現在どのように達成されているのでしょうか?生物学者のスコット・ミニッチと科学哲学者のスティーブン・メイヤーが説明するように、「現代のバクテリアは鞭毛モーターの部品の組み立てを指揮するために、多くの他のタンパク質機械はそれらの組み立て指示の発現する時間を決めるために、精巧な遺伝子指示システムを必要として」います。

 

コリンズはこのことについて一切言及していません。これらやその他の実例からすると、彼は生物学におけるインテリジェントデザインについての最良の議論に関与したことがないように見受けられます。もう一つの例を簡単に挙げると、彼は検証可能性の問題でしくじっており、誤ってIDの議論は検証可能ではないと断言しています。

 

これらはインテリジェントデザインに反対するコリンズの主張の重要な弱点ですが、明日示すように、おそらく最も顕著な弱点はこれでしょう。彼は肝心な点で自分自身に平然と矛盾しているのです。

 

(この書評の第2部はこちらからご覧ください。)

 

編集者注: このエッセイは、『Touchstone』誌に掲載された書評を大幅に改訂したものです。