Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

ファクトチェック: 東京大学の研究者は生命の起源を解明したのか?

This is the Japanese translation of this site.

 

ブライアン・ミラー
2022/3/22 17:12

 

東京大学は、生命の起源を解明するのに役立つとされる科学者のチームの研究を称賛するプレスリリース (日本語版はこちら) を発表しました。研究代表者たちはこのほど、『Nature Communications』誌の「Evolutionary transition from a single RNA replicator to a multiple replicator network」と題する記事で実験結果を公表しました。彼らは研究内容を次のように要約しています。

 

東京大学の研究者たちは、ダーウィン的進化に従って複製し、多様化し、複雑さを発達させるRNA分子を初めて作成することができるようになりました。これは、単純な生物学的分子が複雑な生命のようなシステムを出現させることができるという、初めての経験的証拠となりました。

 

そして、研究代表者の言葉を引用しています。

 

チームは、目撃したことに本当に興奮しました。「私たちは、1種類のRNAが複雑な複製システムに進化していることを発見しました。5つのタイプのRNAと多様な相互作用からなる複製ネットワークは、長い間想定されてきた進化的な移行シナリオの妥当性を支持しています」と、水内 [良] は述べています。

 

この研究論文自体では、「これらの結果は、生命の出現に不可欠な段階であるダーウィン的進化を通じて、分子複製体が自発的に複雑性を発達させる能力を支持している」と断言されています。

 

科学者たちがそのような驚くべき偉業を成し遂げたのであれば、チームの代表者はほぼ確実にノーベル賞を受賞することになるでしょう。では、彼らはそれを成し遂げたのでしょうか?残念ながら、これらの主張は、報告された実験結果とは似ても似つかぬものでした。

実際の実験

研究者たちはまず、Qβファージから2125塩基の「宿主」RNAを借用しました。この宿主RNAは、Qβレプリカーゼと呼ばれる複合体に含まれるタンパク質の1つのアミノ酸配列をコードしています。このレプリカーゼは、RNAを転写します。つまり、RNAテンプレートを使って相補的なRNA鎖を作ります。研究者たちは、RNAをタンパク質に翻訳するために必要な分子機械もすべて現代の細胞から借用しました。供給された翻訳要素の目録には、数十種類の酵素、46種類のtRNA、およびリボソームが含まれています。

 

研究チームは、この「翻訳共役型RNA複製 (TcRR) システム」を、油中水型エマルションからなる細胞様区画に封入しました。翻訳されたレプリカーゼと宿主RNAが確実に相互作用するためには、システム全体を微小な容積に収める必要がありました。

 

研究者たちは、RNA複製とタンパク質翻訳を何百サイクルも動かすために、綿密に編成された実験プロトコルを実施しました。レプリカーゼは宿主RNAを転写し、相補鎖を作ります。レプリカーゼは相補鎖も転写し、宿主RNAのコピーを作成します。翻訳システムは宿主RNAを利用して、レプリカーゼの作成に必要なタンパク質を製造しました。転写と翻訳はすべて、供給された分子機械によって行われました。

 

複製の各ラウンドの間、突然変異によって宿主RNAの配列が変化し、複数の変異体が作られました。さらに、ある複製イベントでは、レプリカーゼの情報をコードしていた領域が削除されました。こうしてできたRNA鎖は、もはやレプリカーゼに翻訳されることはなく、機能を果たさないため、寄生RNAと名付けられました。

 

時間が経つにつれ、宿主の別の変異体が集団で支配的になり、宿主の特定の変異体や非機能性RNAを優先的に転写するレプリカーゼが生成されました。さらに、支配的な非機能性RNAの長さは、複製サイクルの増大とともに変化しました。研究者らは、宿主の変異体が互いに複製し合う場合と、宿主の変異体が寄生体を複製する場合の相対的な効率をマップ化しました。そして、この「複製ネットワーク」が時間とともにどのように変化していくのかを記述しました。

結果が示唆するもの

研究チームは何を成し遂げたのでしょうか?重要なものは何もない、というのが答えです。研究者たちは、複製を外部から駆動するのに必要な装置を提供しました。RNAはそれ自体も、また互いに複製することもありませんでした。生物学的に関連する機能を直接的に実行したわけでもありません。獲得した突然変異は、宿主の別の変異体や非機能的なRNAに対して、翻訳されたレプリカーゼが元から存在する機能を異なる速度で実行するためのわずかな修正か、あるいはレプリカーゼを無効にするだけでした。変化したのは、変異型RNAの数と複製の速度だけです。システムの機能的な複雑さは増しておらず、新規のものは何も出現していません。

 

この実験は、初期の地球で起こったかもしれないこととは何の関連性もありません (こちらこちらこちら)。長さ数百ヌクレオチドRNAが形成されることはできなかったのです。仮にできたとしても、その配列が機能的なレプリカーゼをコードしている確率は限りなく小さいでしょう。また、タンパク質の翻訳に必要な構成要素は、自律的な細胞が現れる前にはどれも存在しませんでした。

 

たとえ、地球上にレプリカーゼをコードする膨大な量のRNAと、翻訳に必要なすべての構成要素のコピーがあったとしても、進化するRNAネットワークは出現できませんでした。RNA、レプリカーゼ、翻訳装置が微小な細胞容器に移入して初めて、複製と翻訳が開始されたはずです。そのような幸運が起こる可能性は極めて低いのです。

代替バージョン

プレスリリースの筆者に、研究結果を大幅に誇張して発表したことについての全面的な責任があるわけではありません。私たちが見たとおり、元の専門論文の著者たちは、自分たちの成果と研究の重要性を大げさに述べていました。プレスリリースの筆者は単純に、その誇張された主張を敷衍し、生命の起源に関する世俗的な創造物語の文脈でこの研究を言い表したのです。

 

もし、筆者が研究を十分に理解し、科学的正確さを優先していたならば、要約は次のようなものになっていたことでしょう。

 

研究者たちは、生命が無方向性の過程に起源を持つとは信じ難いことをさらに実証しました。彼らの実験は、どのような形式の分子複製も、生きた細胞内にのみ存在する高度に洗練された装置を必要とするという結論を補強しています。また、細胞のあらゆる構成要素の起源には、外部から付与された情報が必要です。この研究は、ダーウィン的進化が生命の起源を支援したという主張に対しても、ランダムな突然変異はせいぜいタンパク質中の既存の機能をわずかに修正するだけであることを示すことにより、さらに疑惑を高めています。新規のものは何も出現しておらず、複雑さが著しく増大することもありません。