Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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悪いデザインとされるヒトの咽頭について

This is the Japanese translation of this site.

 

ハワード・グリックスマンスティーヴ・ラウフマン

2022/12/14 14:46

 

編集部注: エンジニアのスティーヴ・ラウフマンと医師のハワード・グリックスマンによる新刊『Your Designed Body』からの抜粋をお届けできることを嬉しく思います。

 

我々の著書『Your Designed Body』では、表面的には悪いデザインとされる事例を評価するための5項目のテストを適用している。このテストは、我々が見ているものが悪いデザインなのか、それとも単に悪い論議なのかを決定するのに役立てることができる。例えば、ヒトの咽頭について考慮してみよう。咽頭のデザインは悪いのだろうか?

 

下図は、咽頭が呼吸器と消化器の両方に共通する入口であることを示している。場合によっては、摂取したものが気道を通って閉塞を起こし、窒息死という結果になることがある。

 

咽頭は、空気が呼吸器系に入り、液体や固体が消化器系に入るために共有される経路であることを示す、鼻、口、喉の解剖学的関係。

そのため、咽頭は悲惨なデザインであり、賢明なデザイナーが設計したものではないが、試行錯誤による乱雑さを伴う進化によるものである可能性は大いにあると主張する人がいる。「人間の喉のデザインにまつわるもっと危険な問題は、・・・窒息だ」とネイサン・レンツは書いている。「もし空気と食物の入口が別々だったなら、このようなことはぜったい起こらない。・・・飲み込むことは、ダーウィンの進化論の限界を示す好例だ。ヒトの喉は複雑すぎて、進化の基本であるランダムな変異では、根本的な欠点を解消することができない。だから僕たちは、同じ管から空気と食物を取り入れるという不合理を受け入れるしかない」。1

 

アビー・ヘイファーは、彼女の尖鋭的なタイトルの本『The Not-So-Intelligent Designer: Why Evolution Explains the Human Body and Intelligent Design Does Not』の中で、同じようなことを述べている。「よりよくデザインされたシステムであれば、不必要な死亡事故を避けるために、空気と食物のための管を別々にするはずだ」と彼女は書いている。「もし私たちがデザインされたのなら、なぜデザイナーはこれほど悪い仕事をしたのだろうか?それとも、創造者は他の動物の方が好きなのだろうか?空気の導管と食べ物の導管が完全に分離している生き物は存在する。クジラの呼吸器系と消化器系は分離している。創造者がクジラにそうすることができたのなら、なぜ私たちにはそのようにできないのか、私にはわからない」。2

 

これらの論議には、多くの問題がある。その理由を知るには、ヒトの咽頭をさらに詳しく見てみる必要がある。

どのように機能するか

嚥下には、上図に示した構造に加えて、6種類の神経によって制御される50対の筋肉が必要である。口の中の食べ物が小さな球 (ボーラス) に形成された後、舌がそれを随意的に咽頭へ移動させ、自動的に不随意嚥下反射が引き起こされる。

 

ボーラスが入ってくると、咽頭から感覚情報が脳幹の嚥下中枢に送られ、直ちに呼吸を止めて嚥下中に空気を吸い込まないようにする。これにより、肺が食物を気道に引き込むのを防いでいる。脳幹は、様々な筋肉を収縮させ、ボーラスが気道を通り越して食道の下方に移動するよう、正確に命令する信号も送る。これには約1秒かかる。

 

嚥下が始まると、いくつかの筋肉が収縮してボーラスを咽頭へ移動させ、口蓋の裏側と咽頭の上部を密着させて鼻への経路を塞ぐ。

 

次に来るのが巧妙な部分だ。ボーラスが鼻に上がってくるのを阻止しつつ、筋肉の収縮によって気道と食道に向かって押し流す。気道を保護するために、3つの別々の動作が行われる。第一に、筋肉が収縮して、肺の入り口である喉頭を閉じる。第二に、他の筋肉が喉頭を上方に移動させ (嚥下時に首の前側に感じることができる)、喉頭蓋に守られながら口底と舌の付け根の下に隠れるようにする。第三に、この動作が他の筋活動と組み合わさって、食道上部を開き、ボーラスが進入できるようになる3

 

そのタイミングと協調性は注目に値する。嚥下中枢は、正しい信号を正しい筋肉に正しい神経を経由して、1秒未満の正確なタイミングで送らなければならない。このすべては、ボーラスが咽頭に進入することによって引き起こされるため、喉から脳幹への、そして脳幹から関係する多くの筋肉への信号は (その反応時間も含めて)、窒息の防止に十分な速さでなければならない。

 

批評家たちはこのシステムの驚異的なデザインを見逃しているようだが、読者は立ち止まってみるべきだろう。どういうわけか、通常は何事もなく、1日に1000回嚥下が行われている。

 

咽頭やその周辺の各構造物、嚥下に関わる50対の筋肉のサイズ、形状、位置、可動域を特定する情報はどこから来たのだろうか? どのようにして、そのようなシステムが漸進的に、偶発的に出来上がったのだろうか?

 

脳幹にある嚥下中枢を作るための情報と、それが安全な嚥下を制御するために使うロジックはどこから来たのだろうか?50対の筋肉の正確に秩序立った、うまく調整された収縮シーケンスを組織化するのに必要な情報のリポジトリはどこにあるのだろうか?

咽頭のデザインが貧弱だという論議を採点する

以上を咽頭とその一部の嚥下システムについての手引きとして、咽頭のデザインが悪いゆえに意図的にデザインされていないという論議を採点してみよう。

1. 咽頭のデザインを理解していない

咽頭は、呼吸と食物や水の嚥下という2つの能力を与えてくれるが、それ以外にも多くのことを行っている。発話、言語、そして感情豊かな話し方や歌のような声調的活動のための能力を与えてくれるのだ。舌、歯、喉、口腔、鼻腔、そして咽頭の他のほとんどの部分による打音と音響の形成は、ヒトの経験に不可欠な微妙なコミュニケーションに絶対必要なものである。 つまり、咽頭には少なくとも3つの主要な機能的デザインの目標がある。もし、あなたがこれらの性能を持つシステムのデザインを依頼されたら、どのように対応するだろうか?このすべてを単一のシステムでこなすために必要なトレードオフを、どのようにデザインするだろうか?もし、上記の批評家たちが唱えるように、別々のシステムを使うなら、どのようにして適切な種類の機能を実現するのだろうか?そうすることでこれらの機能を身体全体にパッケージ化する方法はどんな影響を受けるだろうか?批評家たちはこのような疑問を無視しているが、それはどうやら、システムのデザインをシステムとして、つまりその核心的な目標も、多くの部品の組織化も理解するつもりがないからのようだ。

2. 咽頭を批判する際にトレードオフを考慮していない

咽頭の主要な3つの機能は、明らかにデザイン上の競合を引き起こし、解決されなければならない。これらの大いに異なる目標を達成するために、2つ、あるいはもしかしたら3つの別々のシステムを使うことができるかもしれない。しかし、これら3つの機能はすべて類似した構成要素を必要とするため、これらの構造の多くは2つ、あるいは3つの複製が必要となる。もし、批評家たちが推奨するように、口を食物や水の嚥下にのみ使い、呼吸には使わないという構造になっていたら、それにより我々にとって既知の発話や言語が排除されると共に、高レベルの活動の間に十分な酸素を取り込むために、鼻の気道をずっと大きくする必要があるだろう。

 

3つの機能をすべて維持するためには、部品の複製という選択肢もある。口は2つ必要で、1つは食べるため、もう1つは呼吸と発話のためである。また、大きな気管が2つ必要となり、1つは空気のため、もう1つは食物のためである。舌は2つ必要で、1つは食べる方の口で食物を処理するため、もう1つは呼吸と発話の方の口で発話するためである。発話において硬子音を出すには、呼吸と発話の方の口に歯のようなものが必要だが、食べる方の口にも食物を切り刻むための歯が必要だろう。複雑な声調の音を出すには、呼吸と発話の方の口に鼻腔が付く必要があろう。しかし、食物を十分に味わうためには、食べる方の口にも鼻の嗅覚センサーが必要である。まだまだ続けることはできるが、ご理解いただけただろう。

 

結局のところ、我々にとって既知の発話や言語を排除する、あるいは維持するというどちらのシナリオでも、解剖学的な変化により、頭と首、場合によっては体の中心部にある肺や胃の一部を完全に再配置する必要があるだろう。少なくとも、鼻の気道のサイズを大きくするためには、頭や顔の幅をずっと広くすることが必要だ。しかし、2重のシステムを収容するためには、頭や首の容積は約2倍になることが必要で、2つの口の位置によっては、肺や胃への通路も再編成する必要があろう。

 

もし我々の体がクジラのような形状をしていたら、もっとうまくいくかもしれないが、そうするともちろん、山に登ることは難しくなるだろう。 あるいは、頭の向きを素早く変えることさえ難しくなろう。

 

これらの異なる機能を構成要素の単一の集合にまとめて構築し、それらを適切に動作させるためのプログラミングと組織化を行うことは、格調高い発明の一例である。この問題を回避するために、どれほど良くデザインされたシステムが所定の位置にあったとしても、明らかなトレードオフとして、窒息の可能性は存在する。もちろん、批評家たちは、口が2つあるシステムで窒息が起こりやすいか起こりにくいか、それが起こるリスクは互いの相対的な位置関係によるかを考慮することも怠っている。

 

これら3つの別々の機能をこれほど小さな空間にまとめ、全体が3つの中核的な機能すべてにおいてうまく機能していることは驚異である。

3. 咽頭の経時劣化を認識していない

人間はなぜ、どのようにして窒息死するのだろうか?嚥下障害の一般的な原因のひとつは、加齢や病気による神経筋の損傷や変性だ。嚥下には多くの異なる筋肉の正確かつ協調的な収縮が必要であるため、神経や筋肉の機能が低下すると、嚥下障害につながることがある。一般的な疾患としては、脳卒中、パーキンソン病、多発性硬化症 (MS) などがあり、いずれも人に、食物を肺に吸引して窒息死するリスクをもたらす。これらの疾患は、窒息による年間死亡者数の約半分を占めている。パーキンソン病や多発性硬化症 (MS) を撃退する能力が体にないのもデザインの欠陥と論じるかもしれないが、これらも劣化の実例である。複雑なシステムは常に、時間や世代を経て劣化していくものなので、人体が良くデザインされていたならこうしたことは決して起こらないと考えるのは非現実的である。

 

もう1つの一般的な窒息の原因は、ユーザーによる乱用だ。健康な大人が大きすぎる食物の塊を摂取したり、十分に噛まなかったり、子供が小さなおもちゃのような異物を摂取したりすると、それらが気道に詰まり、結果として窒息する。デザインはそのような乱用に対してフールプルーフがなされているべきだと主張するかもしれないが、しかしそれでは単にトレードオフの問題に戻ってしまうだけだ。

 

システムの乱用ができないようにしたいとしても、咽頭の3つの機能を2つか3つの別々のシステムに分割しなければならず、この戦略に伴うすべての問題についてはすでに見てきた。さらに、技術者がどんなに慎重に製品をデザインしたとしても、誤用されたり、時を経て摩耗により機能的能力が低下したりするリスクは常にある。

4. 咽頭の貧弱なデザインから意図的なデザインの否定へ飛躍している

仮に論議のために咽頭が粗悪な設計の事例だということを認めたとしても、それだけで意図的にデザインされたものではないということにはならない (ユーゴ車やタコマナローズ橋が適確な例証であろう)。このような不健全な結論に達する進化論者は、おそらく、貧弱なデザインのものは意図的にデザインされたものであるはずがないという誤った前提を受け入れ、それを咽頭が不出来なデザインであるという同じく誤った見解と組み合わせることで、そこに至ったのだろう。しかし、恐らくこの誤りはもう少し微妙なものである。

 

論理学の形式的誤謬の1つに「後件肯定」というものがある。その論理的誤謬は次のようなものだ。

大前提: Aが真であれば、Bは真である。

小前提: Bは真である。

結論: したがって、Aは真である。

これは無効な三段論法である。有効となるためには、大前提が「もしBが真なら、Aは真である」となる必要がある。そのままでは、この結論は単純に導かれない。これが後件肯定であり、より一般的に言えば、ノン・セクィトゥルである。上記の進化論者は、以下のようにして無効な結論に至ったのであろう。


大前提: もしA (意図せずに何かが生じた) なら、Bである (それは貧弱な構造である)。

小前提: Bは事実である:「人間の咽頭は貧弱な構造である」。

結論: Aは真である: 「咽頭は意図せずに生じた」。

 

仮に両方の前提を認めたとしても、後件肯定という過ちを犯した無効な三段論法なので、結論は成り立たない。

 

進化論者がまさにこのように推論しているのかどうかは定かではないが、彼らの発言に基づけば、大体当たっているということもあり得るだろう。

 

しかし待ってほしい、まだある。レンツ教授は、「空気と食物の入口が別々だったなら、[窒息は] ぜったい起こらない」と断言している。しかし、空気を体内に吸い込む必要のあるどんなシステムでも、空気の入り口が塞がれることは、それが体のどこに置かれようが、どのように構成されていようが、あり得る。これらの批評家の「改良された」システムでは、どうやって窒息が決して起きないようにするのだろうか?

 

あるデザインが1つの点で真に最適でないとしても、それが貧弱なデザインであることの実証にはならない。 なぜなら、その「最適でない」特徴は単に、完全に合理的なデザインのトレードオフから来る自然な結果なのかもしれないからだ。(また、前述のように、仮に最適でない機能が真に設計上の失態であったとしても、それが意図的に設計されたものではないという主張を十分に保証するものではない。)

 

もう一つの推論の誤り: 「ヒトの喉は複雑すぎて、進化の基本であるランダムな変異では、根本的な欠点を解消することができない」とレンツは主張する4。しかし、もしヒトの喉が複雑すぎて、ランダムな突然変異が「デザイン上の欠点」を解消することができないのであれば、そもそもランダムな突然変異がどうやってこのような複雑な特徴を構築できたのだろうか?また、それが機能して種が繁栄しているのであれば、欠点と呼べるのだろうか?

 

あるいは、ヘイファーのこの論議を思い出してみよう。「創造者がクジラに [呼吸器系と消化器系を分離することが] できたのなら、なぜ私たちにはそのようにできないのか、私にはわからない」5。何かをする能力があるからといって、それが良いアイデアになるわけではない。タイヤ付きのiPhoneをデザインすることはできるが、そうしてもそのデバイスの目的には役立たないかもしれない。また、クジラは海の中で一生を全うすることができる。なぜ創造者は人間にもその能力を与えなかったのだろうか?そうすれば、スケートボードの怪我や致命的な交通事故を確実に削減できるだろう。多分、そのような計画ではなかっただけだろう。

 

以上は、貧弱なデザインの論議として意図されたものであろうが、結局のところ、イギリスの同僚の言葉を借りれば、論理的に「くだらない」と思える。

5. 咽頭の評価における審美的考察

上記の2人の批評家は、少なくとも上記の引用文では、咽頭のデザインに対して審美的な異論を唱えてはいない。皮肉なことに、もし人体のデザイナーが彼らの助言を受け入れ、窒息を最小限にするという目的で、呼吸、飲食、コミュニケーションのために2つか3つの別々のシステムを作るという、非常に不格好で優雅さに欠ける方法を用いたとしたら、反デザイン批評家はそのような選択に対して審美的論議を提起していたかもしれない。つまり、適切な創意を持った「整然さを心がけるエンジニア」なら、3つの主要機能を単一の巧妙なシステムに優雅に結合し損なうことはなかっただろうということである。

 

エンジニアはこのゲームを知っている。「やってもダメ、やらなくてもダメ」と批判され、トレードオフの問題は無視される。自然な対処機構として、エンジニアの面の皮は厚くなる。(そういえば、これも人体の巧妙な適応的デザインのもう一つの特徴だ!)

独創的なデザイン

ほとんどの人々は、1日に1000回、何事もなく嚥下する。その間ずっと、十分に空気を吸い、十分に食物や水を嚥下し、口頭でニュアンスの伴う意思疎通をし、時には歌ったりもする。したがって、まれに窒息死する可能性があるからといって、無能なデザインの証拠になるというのは現実的ではない。むしろ人間の咽頭は、競合するデザイン目標の複雑なセットを、厳格な制約の範囲内でデザイン上のトレードオフに関して正当化できる選択をした、巧妙で優雅なソリューションと見る方がより正確である。さらに、このソリューションは深遠なまでにうまくパッケージ化されており、中耳の気圧を均一化する方法まで提供されている。これこそ、独創的なデザインである。

注釈

  1. Lents, N. H. (2018) Human Errors: A Panorama of Our Glitches, from Pointless Bones to Broken Genes. Houghton Mifflin Harcourt. 19-20. (邦訳: 『人体、なんでそうなった? 余分な骨、使えない遺伝子、あえて危険を冒す脳』、久保美代子訳、化学同人、2019年、23-25ページ)。
  2. Hafer, A. (2015) The Not-So-Intelligent Designer: Why Evolution Explains the Human Body and Intelligent Design Does Not. Eugene: Cascade Books. 72-73. 進化論を支持するために咽頭を用いている文献は他にも引用できる。例えば、アルデア・スカイブレイクは、もし人間の咽頭がデザインされていたとしたら、そのデザイナーは「本当に愚か (あるいは倒錯したサディスト)」だと主張している。Skybreak, A. (2006) The Science of Evolution and the Myth of Creationism: Knowing What’s Real and Why It Matters. Chicago: Insight Press. 109.
  3. 嚥下の際に起こる素晴らしく美しい協調作用を見るには、次を参照せよ。Swallowing Reflex, Phases and Overview of Neural Control, Animation. Alila Medical Media. YouTube, 2014年4月19日、2分58秒のビデオ。
  4. Lents, N. H. (2018) Human Errors: A Panorama of Our Glitches, from Pointless Bones to Broken Genes. Houghton Mifflin Harcourt. 19-20. (邦訳: 『人体、なんでそうなった? 余分な骨、使えない遺伝子、あえて危険を冒す脳』、久保美代子訳、化学同人、2019年、25ページ)。
  5. Hafer, A. (2015) The Not-So-Intelligent Designer: Why Evolution Explains the Human Body and Intelligent Design Does Not. Eugene: Cascade Books. 72-73.