Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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生命の起源についてのポール・リマーの見解のさらなる科学的問題

This is the Japanese translation of this site.

 

ブライアン・ミラー
2023/7/14 10:53

 

昨日のこちらの記事で、私はジェームズ・ツアーとデイブ・ファリーナの討論への宇宙化学者ポール・リマーのコメントを分析しました。私は、リマーが引用した具体的な研究と、恐らくは生命の起源 (OOL) 研究者としての彼の立場が、自然の過程を通して細胞が出現した方法を説明することが妥当かについての評価を形成していることに焦点を当てました。ここでは、この分野の現状に対するリマーの楽観的な評価には、さらに深刻な科学的問題があることを説明します。

提唱されている生命への経路

リマーは、起源の指導的な研究者ジョン・サザーランドが提唱する生命創世への段階を呈示しています (図1)。想定されている生命への経路は、ダーウィン的進化の能力を持つ自律的な細胞が出現するまで、徐々に複雑さを増していく連続的な一連の安定したシステムを伴うものです。サザーランドは、生命は無方向性の物理的過程に起源を持つと仮定しているため、そのような安定した中間体が存在したに違いないと信じています。

 

図1. Sutherland, John D. (2017) Studies on the origin of life — the end of the beginning. Nature Reviews Chemistry. 1 (2) の図3をマクミラン出版社の許可を得て転載。

 

多くの人が、ハリケーンの漏斗雲のように、平衡からかけ離れた系が自己組織的な振る舞いを生成することを実証したジェレミー・イングランドのような研究者に訴えることで、この仮定を正当化しようと試みました。理論家たちは、類似した自己組織化過程が、化学系をある安定状態から次の安定状態へと移行させたかもしれないと提唱しています。

根底にある挑戦

このような主張の問題点は、自然発生する自己組織化は生命システムの秩序とは根本的に異なることであり、少しでも生命に近い自己組織化的挙動を実証する実験はすべて、人工的なエネルギー源を適用して、適用されたエネルギーと適切に相互作用するようにシステムをデザインしなければならないことです。例えば、バシュラール他 (2017年) は、特定の周波数の音響波を導波管内のメニスカス粒子に印加し、音響バンドギャップに望み通りのパターン (すなわち、透過周波数のグラフ) を生成しました。また、サカンナ他 (2014年) は、過酸化水素燃料溶液中の非対称半導体球に、注意深く選択した周波数帯の光を当てて、自己推進力と結晶形成を生成しました。私はジェレミー・イングランドへの回答の中で、それらに匹敵する研究者の創意工夫を用いた他の研究について記述しています。すべての例において、自己組織化的な挙動は、望ましい結果を達成するために行動する研究者の専門知識に依存しています。

 

対照的に、初期の地球で利用可能なエネルギー源が、生物学的に関連する化学反応や物理的過程と相互作用することは、あったとしても、ほとんどありませんでした。むしろ生のエネルギーは、複雑な分子(例えばタンパク質やRNA)や細胞構造をバラバラにする傾向があります。化学システムが生命にほんの一歩でも近づくことを許容するような相互作用は、極めて稀だったでしょう。

 

同じことが、起源のシナリオの最初期段階にも当てはまります。ツアーは、化学系を生命に近づけると称する研究が、自然に起こりうるものよりもはるかに高い濃度と純度で、注意深く選ばれた分子から始めなければならないことを詳述してきました。それらは、高度に組織化された実験手順も採用しなければなりません (こちらこちらこちらこちら)。初期の地球で同じ結果を達成した化学的事象の連鎖も、並外れて稀であったことでしょう。

代わりの視点

これらの挑戦は、生命が無方向性の自然の過程による起源を持ったと仮定しない科学者たちに、最初の細胞への道のりは、サザーランドのそれとは全く異なって描かれるべきだと確信させます。生命が生じるために必要なことを現実的に示したこの図を考慮してみましょう。

 

図2. 初期の地球で利用可能な分子が自律的な細胞に変化するのに必要な段階。左下の図は、NASAゴダード宇宙飛行センターのConceptual Image Labのパブリックドメインの画像を組み込んで、CH4、NH3、HCN、H2S分子を描いたもの。

 

図2は、最小限の複雑な細胞を構成するために必要な4つの過程を描いています。

  • タンパク質、RNA、DNA、細胞構造を含む生命の構成要素が合成されなければなりません。
  • その構成要素は同じ場所に輸送されなければなりません。この段階を自然の過程を通して説明するのは、多くの人々が認識しているよりもはるかに難しいことです。成分の分子の起源およびそれらの連結には、少なくとも8つの異なる環境が要求されます。
  • 構成要素が適切に組み立てられて、機能的な細胞にならなければなりません。生命に対応する配置の数を、すべての可能な配置の数で割ると、想像を絶するほど小さな比率になります。
  • 環境からエネルギーを利用し、生物学的に有用な形態に変換し、そのエネルギーを細胞の構築と維持に向けなければなりません。継続的で信頼性の高いエネルギー変換と供給は、複雑な分子機構によってのみ達成されます (こちらこちらこちら)。

図2は、自然の過程を通して達成される生命へのすべての段階が、非常に「まれな事象」に対応していることも描いています。対照的に、出現しつつある原始細胞に連続的に作用する自然の過程は、それを生物学的に役に立たない複雑な混合物へと容赦なく追いやるでしょう。

 

95%完全な細胞でさえ、不可逆的に分解してより単純な分子になってしまうでしょう。局所的な環境での、細胞の自律性に向けてのあらゆる偶然の一歩 (例えば、2つのアミノ酸の連結) は、細胞膜をバラバラにし、細胞機構を分解し、タンパク質、RNA、DNAを劣化させる物理的過程と競合するでしょう。前進するあらゆる一歩は、後退する無数の一歩によって覆い隠されてしまうでしょう。

鶏か卵か

ジェレミー・イングランドは、著書『Every Life Is on Fire: How Thermodynamics Explains the Origins of Living Things』で、すべての生命にとっての熱力学的挑戦についての優雅な説明を次のように述べています。

 

すべての生物と同じように、植物も特定の源から、あらゆる瞬間に徐々にバラバラになっていく各部分を修正したり元に戻したりする内部運動につながる方法でエネルギーを吸収する構造体である。この過程は、傷が治るときだけでなく、太陽光を利用して燃やし尽くしたばかりの化学燃料の分子を再生したり、分子シャペロンが何らかの化学燃料を燃やし尽くして誤って折り畳まれてしまっているタンパク質を正しい機能的な形に戻すのを助けたりするたびに、より瞬時に進行する。燃料を消費し、熱を放散する校正、品質管理、自己メンテナンスの活動は、生物が生き続けるために常に行っていることの核心であり、 これらの活動の一つ一つに、ある種の循環運動が関与している。環境から吸収された仕事は永続的に、物事が少しずつ下降して滑落するたびに山に引きずり戻すのである。

 

生命の起源のジレンマは、「校正、品質管理、自己メンテナンス」のための機構が、生命への旅路の早期に要求されるものの、それはすでに完全に自律した細胞によってのみ構築されうるということです。言い換えると、生命がすでに存在しない限り、生命の形成はできません。

最後の分析

前回の記事で述べたように、私はポール・リマーの礼節、思慮深さ、そして生命の起源研究の分野で働く献身的な有神論者としての風格を称賛します。多くの人が彼のアプローチに惹かれるでしょうし、それは当然のことです。いつか彼と対話する機会を持ちたいと願っています。しかし、何かを望んだり信じたりしたからといって、それが真実になるわけではないように、礼儀正しく思慮深いからといって、科学的証拠の現状が変わるわけではありません。私たちは現実を直視しなければなりません。生物学的システムの複雑さを現実的に考慮すると、生命の起源を自然の化学的過程によって説明しようとする探求は、科学的目標として不可能であるというあらゆる兆候が示されています。

 

事実、科学的唯物論の哲学に傾倒していない人々はしばしば、生命の起源を自然の過程を通して説明しようとする試みを、錬金術や永久運動機械の探求と同じカテゴリーに分類されると見なします。 加えて、情報処理、エネルギー生産、エラー訂正など、細胞に最低限必要なものは、議論の余地のない直接的なデザインの証拠を提示しています。デザインの否認は、経験的データや理論的分析によってではなく、哲学的コミットメントによって引き起こされているのです。