Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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システム生物学が生命の複雑さを解読する — CELSからの報告

This is the Japanese translation of this site.

 

ジョナサン・ウィット

2024/1/10 6:45

 

学界のほとんどの生物学者は、インテリジェントデザインが盲目的進化に打ち勝つことを認めるくらいなら、いっそモルドールに落下傘で突っ込むでしょう。現代のダーウィニズムは、歴史的生物学に燦然と君臨するパラダイムです。しかし奇妙なことに、現在最も活発な実験生物学の分野では、生物学的システムは最適に設計されたものであるという見解が、作業的ヒューリスティックとして実際に採用されています。この活発な新アプローチであるシステム生物学は実り多いものであることが証明されたため、生物学研究グループにエンジニアとして参加し、それらのグループがエンジニアのように考えるのを助けてほしいという要望が高まっています。

 

最近私は、開催されたこのシステム生物学的アプローチを取り上げた科学会議、テキサス州デントンでの「Conference on Engineering in Living Systems」(CELS) に出席する機会に恵まれました。この会合が際立っているのは、出席した生物学者やエンジニアたちが、デザインパラダイムを単なる作業的ヒューリスティックとして採用しているわけではないという点です。彼らは、検討対象の生物システムが巧妙な工学的解決策を披露しているのは、それが本当に巧妙に設計されたからだと確信しています。私が参加したCELSの講演はどれも、生物学における異なった独創的なデザインにスポットライトを当てたもの、または大切にされてきたダーウィン的仮定を覆すもの、あるいはその両方でした。

編み機よりも賢い

ある講演では、国際的に著名なブラジルの化学者マルコス・エベルリンが、タンパク質、リボソーム、そしてその根底にあるアミノ酸アーキテクチャの工学的驚異について議論しました。リボソームにはタンパク質とRNAが含まれています。防水性、機械的耐性、柔軟性、伸縮性があり、長寿命の連結ユニットを持っています。それらは編み機のような働きをしますが、編み機よりもずっと賢い、とエベルリンは説明しました。

 

タンパク質も同様に、並外れて強く、柔軟で、伸縮性に富んでいます。人工のナイロンよりもはるかに優れ、生命に必要な正確な四次元構造へと自ら折り畳むことができます。それらは無数の形状に折り畳まれ、多数の挑戦的な任務を果たします。さらに、これらのタンパク質機械は個々に働くのみならず、交響曲のように協働します。

 

エベルリンによれば、同僚の科学者の多くは神を信じていませんが、バイオミメティクスと呼ばれる研究分野では常に神を盗用しているそうです。注目すべきなのは、彼らがどうにかして複製という偉業を成すとき、大抵はオリジナルより劣った方法で行うということです。

鶏と卵の問題

エベルリンは、RNA、タンパク質、リボソームが心ない過程を経て徐々に進化したという考え方の問題点も指摘しました。リボソームやあらゆる種類のタンパク質を得るためには、様々な種類のアミノ酸が必要であり、それらはすべて左手型です。(いえ、アミノ酸に手はありません。しかし、アミノ基を右手側か左手側のどちらかに持っているのです)。心ない自然はどうやって右利きと左利きを選別し、左利きのアミノ酸のみを選んだのでしょうか?左手型のアミノ酸だけを生成したり選択したりするような、純粋に心ない自然の過程は存在しません。

 

エベルリンは、物理法則に先見性や意図があるという見方に陥らないよう警告しました。自然の法則が、純粋に左手型のアミノ酸を産み出そうと励んだことは決してありません。自然法則は生命を介護することには関心がありません。むしろ、自然の心ない力は生命を引き裂こうとしています。

 

こうした力による打撃を克服するためには、分子生物学的な機械が必要だとエベルリンは言います。その一つがリボソームです。リボソームはタンパク質を作るのに不可欠ですが、リボソーム自体も部分的にはタンパク質からできています。では、進化の物語ではどちらが先に出現したのでしょうか?

 

リボソームを作るには、非常に大きなRNA分子も必要です。生命の起源の研究者の中には、生命はRNAワールドとして始まり、DNAとタンパク質は後から来たと言う人々がいます。いや、タンパク質が先だ、と言う人もいます。いや、リボソームが先に加わった、と言う人もいます。しかし、実際には3つ全てが必要だとエベルリンは言います。それらはみな、他が無くては生き残れません。

 

これは古典的な鶏と卵の問題であり、これを克服するには先見性と計画性、つまり知的行為者のみが可能な活動が要求されるとエベルリンは言いました。リボソームのマッピングで3人の化学者がノーベル賞を受賞しましたが、エベルリンはその受賞は当然だと言いました。では、と彼は尋ねました。そもそもリボソームをデザインした人には、どんな賞が与えられるのでしょうか?

孤児の問題

CELSのもう一つの講演で、生物哲学者ポール・ネルソンは、現代進化論への増大しつつある挑戦について議論しました。すなわち、孤児遺伝子のカタログの指数関数的な増加です。

 

孤児遺伝子とは、ある種や系統の外部に既知のホモログを持たない機能的DNA配列のことです。普遍共通祖先への傾倒から、生物学者たちはそのような遺伝子は稀であると予想していました。結局のところ、もしすべての種が、全生物最終共通祖先 (LUCA) から始まる徐々に枝分かれした生命の樹の中で祖先種から進化し、遺伝的変化は遺伝子の小さな突然変異によって非常にゆっくりとしか蓄積されないのであれば、一見祖先がいないように見える新規遺伝子はかなり異例なはずです。しかし蓋を開けてみると、そうではありませんでした。

 

ネルソンは数年前、ダートマス大学での講義で論戦を挑まれたときのことを語りました。彼は、孤児遺伝子が進化論に提起する挑戦について話していましたが、彼の批判者は、進化論にとって本当に問題があると結論するには、細菌が122種だけではサンプルとして不十分だと苦言を呈しました。もっと多くの種類の細菌のゲノムが解読されれば、このシグナルはきっと消失するだろう、とその批判者は言いました。

 

では、それから数年の間に何が起こったでしょうか?ポーランドのある研究チームが現在、6万種以上の細菌のゲノムと2億近くの細菌タンパク質を調査しています。その過程で、彼らは850万個の孤児タンパク質を発見しました。このシグナルは薄れるどころか、今や歯をガタガタ鳴らすのに十分なほど大きくなっています。ネルソンは、これはバクテリアだけの問題ではないと指摘しました。これまで配列が決定されていなかった植物や動物の配列が決定されるたびに、多くの新たな孤児遺伝子が発見されています。

 

このパターンは普遍的共通祖先が予期するものとは衝突しますが、インテリジェントデザインのパラダイムとはうまく調和します。ある特徴が他の種と密接に共有されている場合、デザイナーがすでに使われているモジュールを再利用していることが予想されます。もしその機能がその種や系統に固有のものであれば、ソフトウェアエンジニアが行うのと同様に、デザイナーが新しい特徴のための新しいDNAコードを書くと予想できます。そして、それが今現れているパターンなのです。

五指性の要点

CELSのもう一人の講演者は、工学界のスーパースター、英国ブリストル大学のデザイン工学科教授スチュアート・バージェスです。バージェスは2つの生物工学専門誌の編集者であり、英国オリンピック自転車競技チームのリードデザイナーでもあります。彼の仕事は、リオと東京の両方のオリンピックで、イギリスの自転車トラック競技者たちが最も多くのメダルを獲得するのに貢献しました。バージェスはケンブリッジ大学でリサーチフェローシップを2回受けたことがあり、欧州宇宙機関のMetOp衛星のリードデザイナーでもありました。

 

CELSの講演でバージェスは、工学原理を理解することで、動物界全体で五指性 (5本の指) という四肢のデザインが繰り返し出現していることがよく説明できるという主張を展開しました。

 

進化論者は長い間、このパターンは進化の共通祖先によるものだと論じてきました。つまり、一連の突然変異が共通祖先の系統で5本の指のデザインを構築し、その青写真が多様な子孫の動物の分かれた四肢に受け継がれ、人間の手からクジラのヒレまで、あらゆるものに五指性のデザインを持つようにさせたというのです。しかし、ハーバード大学の古生物学者スティーブン・ジェイ・グールドのような完全に入れ込んでいる進化論者でさえ、この整然とした物語が破綻していることを認めています。彼は著書『八匹の子豚』の中で、果敢にもはるかに乱雑な描像をダーウィン的枠にはめ込もうとする前に、五指性の法則の様々な例外を指摘しました。

 

バージェスは、よりエレガントだと彼が考える解決策を提示しました。すなわち、工学的な分析によれば、(1本指や3本指や17本指ではなく) 5本指が、強度と柔軟性/器用さの最適なトレードオフをもたらすことが示されます。1本指は最も強度があり、12本指はより柔軟で器用です。しかし、これら2つの長所の最適な組み合わせを求め、指が増えるごとに減少する強度と、指が増えるごとに増加する柔軟性/器用さをグラフ化すると、5本指の点で2つの長所が交差することがわかります。このように、5本指は、エンジニアが「競合する属性の制約付き最適化」と記述するものを表しています。

 

言い換えると、5本指のデザインは動物の世界で頻繁に見られるのは、デザイナーが優れたエンジニアであり、競合する長所の間の最良のトレードオフとしてそれを選択したからです。クジラの5本指のヒレを例にとってみましょう。ヒレは強度が必要だが、この生物を泳ぎの達人とするためには、さまざまな微妙なひねりを加えることができる柔軟性も必要です。工学的分析の結果、5本指がその妥協点を最も達成していることがわかった、とバージェスは言いました。

クジラの骨は論争の種

この時点でバージェスは反論を予期していました。「ええ、でもクジラには痕跡的な骨盤骨があり、陸生の先祖から残されたもので、骨盤骨はクジラにとっておしなべて役に立っていません。これは確かにデザインではなく盲目的な進化を叫んでいるのです」。バージェスは、このよく再利用される進化の論議は、ひどく時代遅れであると指摘しました。というのも、これらの骨に重要な機能があることが研究によって明らかにされてから久しいためです。

 

この点は、2014年の『Evolution』誌の論文でも認められています。「鯨類の骨盤骨は非常に縮小した状態であるため、陸生の祖先の「無用な痕跡」と考えられることがある」のですが、著者たちは、これらのクジラの骨は実際には「オスの生殖機能において重要な役割」を果たしていると続けました1。この主張の裏付けとして、この論文は1881年から2009年にかけての十数本の科学論文を引用しています。

 

『Evolution』誌に掲載された論文であることから予想されるように、著者たちは骨盤骨について別の進化論的説明を提供しようと奔走しましたが、「痕跡的な」骨盤骨という大切にされてきた進化論的物語は、生物学者ジョナサン・ウェルズが最初に『進化のイコン』で、そしてさらに『Zombie Science: More Icons of Evolution』で詳述した、信用を失った進化のイコンの増大する山に加わっています。

 

クジラの骨盤骨の場合、ダーウィン的枠組みは多くの科学者を道に迷わせましたが、これらの骨が合理的で巧みな工学の産物であるという見解は正しい方向を指し示していました。

 

このような発見のパターンは、科学革命そのものを思い起こさせます。近代科学の創始者たちは有神論者であり、ユダヤ教とキリスト教の現実理解を教えられました。彼らの初期のブレークスルーは、自然の書物を熟練した著者、偉大な職人の作品と見なすことによって促進され、その深いデザインは、隠された複雑さを照らし出すために入念な研究を必要としました。ですから、今日のシステム生物学者が、生物界へのこのようなアプローチを回復することで、新鮮な発見の革命のただ中にいると気づいたことは、驚くにはあたりません。

 

編集者注: この記事はもともと『Salvo』誌に載せられたものです。著者の許可を得て再掲載しています。

注釈

  1. Dines, J. P. et al. (2014) Sexual selection targets cetacean pelvic bones. Evolution. 68 (11), 3296-3306. https://doi.org/10.1111/evo.12516.