Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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ヒトの痕跡器官: ダーウィン的思考におけるいくつかの矛盾

This is the Japanese translation of this site.

 

ウォルフ-エッケハルト・レーニヒ

2023/11/28 10:43

 

人間の痕跡器官についての最近の記事で、私は2つの重要な点を議論しています。第一に、現在の進化論における最もひどい矛盾の1つについて、第二に、過去140年以上にわたって、ヒトの起源が下等脊椎動物であることの証明として、発生学のほとんどの教科書や論文で歓迎されてきたものの、存在しないことが最近「発見」されたある未発達器官についてです。

 

ここで、それらの順序を逆にしてみましょう。2番目の点から始めます。(本来の進化的な意味での) 痕跡の定義は、「体の一部や器官のうち、小さかったり、不完全に発達していたりして機能しない形で残っているもの」です。あるいは、ダーウィンとヘッケルによれば、痕跡器官とは、「形態学的には存在するにもかかわらず、対応する機能を何ら果たさないという点において、生理学的には存在しない」未発達の構造です (ヘッケル、1866年、268ページ、同様にダーウィン、1872年、131ページ)。(すべての参考文献は私の論文をご覧ください)。

傑出した例証

これらの器官のうち前腎は、少なくとも最近までは、ヒトは「正真正銘の歩く古美術館」(ホレイショ・ハケット・ニューマン、1925年) であるという主張の傑出した例証とされていました。ドナルド・R・プロセロ (2020年) のような現代のダーウィン主義者も、心から同意しています。

 

前腎とは何でしょうか?

 

哺乳類の腎臓は3つの連続した段階を経て発生し、前腎、中腎、後腎として知られる3つの別個の排出構造を生成する (図1.2)。前腎と中腎は、哺乳類では痕跡的な構造であり、出生前に退化する。後腎は最終的に哺乳類の腎臓となる。(スコット他、2019年)[強調追加]

 

しかし、これらの文章の直後には、腎臓発生の初期段階がさらなる発生過程に必要であることが書かれています (3-4ページ)。

 

腎臓発生の初期段階は、同じく尿生殖隆線内に形成される副腎と生殖腺の発生にも必要である。さらに、後腎で重要な役割を果たすシグナル伝達経路や遺伝子の多くは、前腎と中腎の発生中にも並行して役割を果たすようである。

 

それにもかかわらず、スコット他は (図1.2の説明の中で) 再度断言しています。

 

マウスとヒトでは、前腎と中腎は痕跡的な構造であり、後腎が十分に発生するころには消失している。

 

一方、Wikipedia (2023年、英語版) の前腎 (pronephros) の記事には、このように書いてあります。

 

この器官は、ヤツメウナギやメクラウナギのような原始的な魚類では成体において活動的である。より高等な魚類では胚に、両生類では幼生期に存在し、浸透圧調節に不可欠な役割を果たす。ヒトでは未発達で、3週目の終わり (20日目) に出現し、3.5週後に中腎に置き換わる。

 

それにもかかわらず、この記事は下記のように続けています。

 

哺乳類ではこのように一過性の出現であるにもかかわらず、前腎は成体の腎臓の発生に不可欠である。中腎の管は成体の腎臓のウォルフ管と尿管を形成する。胚の腎臓とその派生物は、成体の腎臓形成の引き金となる誘導シグナルを産み出すこともする。

 

ここにいくつかの顕著な矛盾があります。ヒトの前腎は、「痕跡的」で 「未発達」でありながら、「不可欠」なのでしょうか?前腎と中腎は、「廃墟のように、記念碑としてしか興味を引かないような先祖返りの形成物」という意味で、果たして本当に痕跡的な構造なのでしょうか。というより、実際には重要な機能を持っているのでしょうか?

 

ラーセンの『Human Embryology』(2021年第6版、369ページ) はこのように述べています。

 

胚発生の過程で、3組の腎系が中間中胚葉から頭尾方向に連続して発生する。これらは前腎、中腎、後腎 (または終末腎) と呼ばれる。前期腎 (すなわち、前腎) の形成は、後腎の誘導の基礎を築く。したがって、前腎の形成は、実のところ終末腎の形成につながる発生カスケードの始まりである。

 

このように、誘導因子として死活的に重要な役割を果たすことにより、前腎と中腎は永久腎の形成につながる発生カスケードにとって極めて重要になります。それらは確かに、「かつて機能していたシステムの無用の痕跡」ではありません。それらが哺乳類の個体発生において、痕跡的または先祖返り的で、廃墟に相当するような形成物ではないことは間違いなさそうです。

今日のニュースで

しかし、待ってください。腎臓の発生について、こんな「速報」があります。前腎は哺乳類には存在さえしていないというのです。「ヒトの胚の最近の詳細な分析により、実際には、前期腎はヒトにも、どの哺乳類にも、存在さえしておらず、水中生活期を持つ動物にのみ存在し、機能していると結論づけられた」(ピーター・D・ヴァイズ、2023年、23ページ)。

 

人間におけるこの痕跡器官についてはこれくらいにしておきましょう。

 

最初の点は、現代の進化論における最もひどい矛盾の1つについてですが、読者には次の点をご確認いただくようにお勧めします。進化分子生物学者でノーベル賞受賞者のフランソワ・ジャコブはこのように強調しています。

 

遺伝のプログラムの中に記されていることは、過去のすべての増殖の結果である。それは成功の蓄積である、というのは失敗の跡は消滅しているからである。したがって遺伝のメッセージ、現実の生体のプログラムは、著者のない原文のようなものである。それは、校正者が十億年以上の間、目を通して、すべての不備の点をすこしずつ消去しながら絶えず修正し、洗練し完成してきたものである。[訳注: これはフランソワ・ジャコブ著『生命の論理』(島原武/松井喜三訳、みすず書房、1977年) の283ページからの引用です。なお、ここで十億年となっているのは、原文では「二十億年」のようです。]

 

さて、ダーウィン主義者は実際に、すべての不完全さを除去する全能の自然選択と、余分な未発達器官で満ちた「正真正銘の歩く古美術館」を構成しているヒト、という両者を同時に両立させることができるのでしょうか?

 

読者に決めていただきましょう。

 

詳しくは、詳細と参考文献を含め、こちらの私の記事と、こちらの別の記事をご覧ください。