Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

細菌の進化についての証拠を誇張する動画が広まる

This is the Japanese translation of this site.

 

ケイシー・ラスキン

2021/6/21 15:34

 

この1週間、『Discovery Institute』のフォロワーの方々から、YouTubeの科学チャンネル『Veritasium』の新しいビデオについて、かなりの数のメールをいただきました。その動画のタイトルは、「The Longest-Running Evolution Experiment」です。このビデオは、ミシガン州立大学で行われている長期進化実験 (LTEE) についてのもので、『Evolution News』でも過去に何度も取り上げてきたプロジェクトです (いくつか例を挙げると、こちらこちらこちらこちらをご覧ください)。実は、一番最近取り上げたのは、『Veritasium』のビデオが公開される2日前の2021年6月14日に公開された『ID the Future』ポッドキャストで、ロサンゼルス地域にあるアズーサパシフィック大学の生物学教授、ダスティン・ファン・ホフウェーゲンへのインタビューでした。ファン・ホフウェーゲンは、LTEEについての進化的主張を精査し、再現し、事実を確認することにキャリアの多くを捧げています。

 

進化の支持者たちはLTEEが大好きです。2015年の『New Scientist』誌は、「LTEEは進化の申し子となり、その説得力のある証拠を説明しようとする創造論者たちを狼狽させている」と述べています。ここで『Veritasium』のビデオに注目すると、この記事を書いている時点で300万回以上再生されていますが、LTEEを使って進化を宣伝しています。残念なことに、この動画ではE. coliの進化の証拠が誇張されているので、多くの人が誤った情報を得ていることになります。

 

 

ビデオの中で、LTEEの主任研究員であるリチャード・レンスキーは、この実験が「あなたが想像できる自然選択によるダーウィン的適応の最も直接的な実証の一つ」を提供すると主張しています。これらのE. coliは約7万5千世代を経てもまだ・・・細菌である、というのが一つの自明で単純な反応です。しかし、それではこのビデオやLTEEの主張に本当に向き合ってはいません。結局のところ、進化は小さな段階を踏んで進行し、遺伝子の小さな変化が積み重なって新しい複雑な特徴を生成し、最終的には新しい種になるかもしれません。したがって、もし細菌が生化学的なレベルで純粋に新しいものを進化させたのであれば、小さな変化が積み重なってやがて新しい何か、完全に新たなものにさえなるという進化モデルの可能性をLTEEが支持したことになるのかもしれません。そのためには、もっと深く掘り下げる必要があります。

相対的適合性

進化生物学者がLTEEの詳細を分析する場合、主に相対的適合性に関心があります。つまり、これらの生物は、このフラスコ環境での成長において、祖先よりも優れたものになったのでしょうか?そうです、これらの生物はグルコースで成長することに長けています。LTEEの環境では、彼らはできるだけ多くのグルコースを消費しようと競争しています。レースチームが競争相手よりも早くコースを走ろうとするようなものです。より素早くグルコースを集めることで「より速く」なったバクテリアは、仲間を打ち負かします。このように考えると単純です。速くなるとは、より適合するということです。

 

しかし、どのようにして速くなるのか、その詳細は重要です。これが微生物遺伝学です。微生物遺伝学者が、これらの細菌に何が起こっているのかを詳細に調べたところ、異なる解釈が出てきました。LTEEの生物が速くなるということは、グルコースの代謝に関わる機能を重視しているということです。それ以外のほとんどの機能は、速くなるための障害になります。では、その障害はどうなるのでしょうか?不活性化されるのです。細菌にとって、使わないものを作るのはコストがかかります。LTEEの細菌にとって、コストがかかるということは、速く成長できないということです。では、これらの細菌はどうなるのでしょうか?最終的にはオートクレーブにかけられてしまいます。生き残るのは、より合理的になったバクテリアです。これは自動車レースのようなもので、レースカーはより流線型になるように、少しずつ改良されていきます。つまり、より軽くなったり、空気抵抗が少なくなったりするのです。不必要な遺伝子は、空気抵抗に相当するものです。これらの遺伝子を取り除くと、必然的に機能が失われます。驚くべきことではありません。

いいえ、クエン酸塩代謝に新しいものはありません

ビデオの中でナレーターは、「2003年にバクテリアは注目すべきことを始めた」と言っています。それは、レンスキーの説明によると、「12の系統のうちの1つが、突然、第2の炭素源であるクエン酸塩を消費し始めた」ときに起こりました。彼は、ある日1つの系統が「素敵なレモン味のデザートがあることを発見し、それを消費して第2の炭素源とエネルギー源を得るようになった」と言っています。レンスキーは、これがまったく新しい能力であると思わせようとしています。「E. coliの元々の種の定義に立ち返ると、そのような能力はない」。彼は、細菌が突然、まったく新しい食料源を食べる能力 — 以前は実行が「できなかった」ことへの「驚くべき」進化的適応 — を進化させたかのような印象を与えています。しかし、これは単なる誤りです。通常のE. coli は、クエン酸塩を食べて代謝することができます。レンスキー自身の大学にある、進化論擁護派のウェブサイト『Evo-Ed』が説明しています

 

多くの生物と同様に、E. coliはクエン酸サイクルを持っているので、様々な物質により成長しながらクエン酸塩を代謝する。また、クエン酸塩を発酵させることで嫌気的に成長することもできる。

 

ダスティン・ファン・ホフウェーゲンが『ID the Future』のインタビューで述べているとおり、「微生物学者がこのような実験を見ると、E. coliがまさしくクエン酸塩で成長する能力を持っていることがわかります。クエン酸塩はさまざまな代謝サイクルで使われます。E. coliはクエン酸サイクルでそれを利用することができます。それをE. coliが細胞内に取り込めば、その代謝過程に使われるのです」。それで、この実験では新しい代謝経路は進化しませんでした。これらの事実を省略することで、ビデオは視聴者に誤った情報を伝えています。

新しい遺伝情報はない

LTEEでは、新しいとされる形質を細菌が獲得するのに33,000世代と長い年月を必要としました。ビデオの中でレンスキーは、彼の研究室の研究者の一人が、「なぜこれほど長い時間をかけて進化したのか、なぜ1つの集団だけがその能力を進化させたのか」を探りたがっていると言っています。これは、その形質が複雑で、発生には多くのゆっくりとした突然変異が必要だったということを示唆しています。レンスキーは、この形質は進化するのが「難しい」もので、なぜなら「まれな突然変異」と、なんらかの有利性を享受するまでに複数の突然変異を必要とする「一連の事象」の両方が必要だったからだと言っています。ファン・ホフウェーゲンは、これらの主張が何か怪しいことに気がつきました。彼は『ID the Future』にこう説明しています。

 

唯一の違いは、(LTEEの) 実験の条件ではトランスポーターがなかったことです。彼ら (E. coli) は、細胞外のクエン酸塩を細胞内に取り込み、実際にエネルギーとして利用する能力を持っていなかったのです。微生物学者としてこの実験を見たとき、私は「これをオンにするだけでいいんだ」と思いました。細菌にとってはとても簡単なことです。なぜ33,000世代もかかったのでしょうか?

 

ファン・ホフウェーゲンは、ライトのスイッチと比較しています。通常のE. coliは、クエン酸塩によって生きていくための代謝経路を持ち、細胞内にそれらを運ぶ能力も持っています。しかしこの実験の条件下では、その「ライトのスイッチ」はオフになっていました。細菌はクエン酸塩を食べるために新しい代謝経路や新しい輸送機能を進化させる必要はありませんでした。LTEE実験の有酸化条件下でトランスポーターをオンにすればよかったのです。この生物は「ライトのスイッチ」を使って、クエン酸塩トランスポーターを発現させました。では、どのようにして発現させたのでしょうか?

 

2016年に『Journal of Bacteriology』に掲載された、ファン・ホフウェーゲンと生物学者のスコット・ミニッチ、キャロライン・ホブデの共著「Rapid Evolution of Citrate Utilization by Escherichia coli by Direct Selection Requires citT and dctA」という査読付きの研究に、その答えがあります。彼らの研究では、この「レモン味のデザート」を使う能力という同じ形質が、100世代と14日以内に生じることを立証しています。この結果は46回繰り返されました。その結果、この形質は遺伝的にそれほど複雑ではなく、前述のようにスイッチを入れることに似ており、言われているよりも多くの事情が存在することがわかりました。実際、彼らの論文では、この形質の進化において新たな遺伝情報が生じなかったことが示されています。

3つの主要な突然変異

通常のE. coliはクエン酸塩を食べられますが、有酸素条件下ではそれを摂取して代謝することができません。LTEEでは、細菌が有酸素条件下でクエン酸塩を摂取できるようになりました。これは「Cit+表現型」と呼ばれます。しかし、何か「新しい」ものが進化したのでしょうか?ミニッチと共著者たちの研究によると、遺伝子レベルでは答えは「ノー」です。その理由を理解するために、Cit+表現型を産み出すために必要な3つの主要な突然変異を考えてみましょう。

  • 1つは、E. coliが有酸素条件下でCitTというアンチポータータンパク質を発現するようになる変異です。CitTは、1分子のクエン酸塩を、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩という、炭素の少ない「価値の低い」3つの分子のうちの1つと引き換えに、細胞内に取り込むことを可能にします。しかし、このアンチポータータンパク質の遺伝子は以前から存在していました。新しい遺伝子が進化したわけではありません。E. coliでは、酸素があるとCitTのスイッチがオフになりますが、この突然変異によりオンになりました。何が原因でオンになったのでしょうか?生化学的に言えば、普通は有酸素条件下でCitTを産生する遺伝子の発現を抑制するスイッチが、新たなプロモーターを補足した突然変異により破壊され、有酸素条件下でクエン酸塩摂取経路がオンになりました。これは、新しい分子機能の進化ではなく、リプレッサースイッチという分子機能の破壊なのです。
  • CitTアンチポータータンパク質の遺伝子に重複変異があり、細菌はこのタンパク質をより多く生産できるようになりました。これにより、細菌は有酸素条件下でより多くのクエン酸塩を摂取することができるようになりました。これもまた、何か新たな進化を伴うものではなく、既存のものをより多く作り出すに過ぎません。
  • もう1つの遺伝子重複変異は、コハク酸塩のインポーターであるDctAというタンパク質を生成する遺伝子に起こりました。これにより、クエン酸塩との交換で失われたコハク酸塩の一部が回収され、細胞内に戻されるようになりました。繰り返しになりますが、これは既存のものをより多く作るだけです。新しいものは何も生じませんでした。

このように、突然変異の経路に関係するのは次の通りです。(1) 分子レベルで何かを壊す (リプレッサー)、(2) 既存のものをより多く作る (クエン酸塩インポーター)、(3) 既存のものをより多く作る (コハク酸塩インポーター)。分子レベルでの機能の破壊、または既存の構成要素をより多く作ることがダーウィン的進化の下で可能であることが古くから知られています。ミニッチと共著者たちが論文で説明しているように、「新しい遺伝情報 (新規遺伝子機能) は進化していない」。彼らはまた、「LTEEは、新しい遺伝情報、すなわち新しい機能を持つ遺伝子の生成による広義の進化を実証していない」と書いています。彼らは以下のように結論しています。

 

最後に、この適応は新しい遺伝情報を生成せず、2つの既存のトランスポーター (citTとdctA) の発現の増進を必要とするだけであったため、我々の評価では、E. coliのCit+表現型の生成を種分化事象として考慮することは正当化されない。

 

微生物学者にとって重要な疑問は、レンスキーのLTEEでは同じことが起こるのに長い時間が必要だったのに対し、なぜこの論文の研究ではCit+表現型の発生が急速に観察されたのかということです。この論文に添えられた『Journal of Bacteriology』誌の解説では、こう説明されています。

 

ファン・ホフウェーゲンらの論文の主要なメッセージは、短時間転移LTEE (および種分化) における適応を説明するために用いられた一連の事象が見直される必要があるかもしれないということである。・・・LTEEの実験での遅延は、中立的な増強ステップの必要性を反映しているのではなく、頻繁に生じるコピー数多型に作用する断続的選択の難しさを反映していると思われる。初期の改良が、間にある急速な成長期に逆選択された不安定なコピー数多型によるものである場合、連続希釈のボトルネックを越えるのは難しい。

- ジョン・ロスとソフィー・メニール-パタン、「Reinterpreting Long-Term Evolution Experiments: Is Delayed Adaptation an Example of Historical Contingency or a Consequence of Intermittent Selection?」、『Journal of Bacteriology』、198巻: 1019-1012ページ (2016年4月)

 

「中立的な増強ステップの必要性を反映しているのではない」という言葉は、Cit+の表現型を生成するためには複雑な一連の中立突然変異を必要としないことを意味しています。この研究が本質的に示しているのは、クエン酸塩で成長するように強い選択を課した場合、中立進化が複雑な機能を進化させるのではなく、各ステップが連続して有利性をもたらし、かつどのステップも遺伝的に新しいものを生み出さないというストーリーです。適切な選択圧のもとでは、このような比較的単純な表現型は非常に速く生じる可能性があります。この研究は、レンスキーの仕事が多くの人が主張しているような複雑な進化経路の印象的なストーリーではないことを示しています。最も重要なのは、レンスキーの仕事は何か新しい生化学的特徴の進化を実証したものではないことをこの論文が示していることです。むしろその研究は、既存のトランスポータータンパク質を活用し、通常とは異なる環境下で過剰発現させているのです。しかしそれは分子スイッチを破壊するだけです。生化学的には、これらの分子は、実行するようにすでにデザインされていることを実行しているにすぎません。

 

あるいは、ファン・ホフウェーゲンが『ID the Future』のインタビューで述べているように、「生物はすでに持っている形質を利用することでその状況に対応する戦略を開発しました」。彼の説明によると、通常の細菌は、多くのさまざまな種類の食料源を食べるための経路をたくさん持っています。これらの経路のすべてが常に活性化しているのは、食料源がほとんど存在しない場合は特に、無駄になります。しかし彼によると、細菌はストレスを受けると、トランスポゾンを介して新たな変異を誘発し、既存の他の代謝経路をオンにすることがあるといいます。今回の結果は、まさにその通りです。LTEEの結果は、生物学における通常の制御・調節システムを反映しています。

進化に限界はないのか?

ビデオの中でレンスキーは、自分の研究が進化に限界がないことを示しているとも示唆しています。これは、進化する集団がやがて適合性の「漸近線」に到達するという古いモデルを否定するものです。その代わりに、進化できるものに事実上限界がない「べき乗モデル」に細菌の進化は従っていると言っています。レンスキーは、「私たちの実験が示しているのは、環境の変化がない場合でも、進歩を続けるためのごく小さな程度の機会が非常に多く存在するということであり、実際には、環境が一定であっても進歩が止まることはないでしょう」と述べています。しかし、このような主張をするためには、細菌が遺伝子的に実際に行っていることの詳細について、レンスキーは単にゲノムが合理化されていること、つまりグルコースやクエン酸塩で最もよく成長するという目的のために他の有用な機能を放棄していることを観察するだけではなく、機能的な情報が追加されていることを実証する必要があります。大腸菌の遺伝子は約4,000個しかありません。遺伝情報を削除するという合理化戦略では、遅かれ早かれ、天井あるいは漸近線にぶつかるでしょう。