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マイケル・ベーエ
2022/7/29 14:33
真新しい成果についての息を呑むような話ほど、ダーウィニズムの脆弱さを物語るものはありません。今週話題になったのは、「ラクターゼ活性持続症」(LP)、つまり、乳糖のラクトースを離乳期を過ぎて大人になっても代謝し続ける一部のヒトの能力です。この論題についての従来の考え方がおそらく間違っていることを実証したと主張する研究論文5を、多くのニュース記事1,2,3,4が報じています。
昔の仮説はかなり簡明でした。他の種類の哺乳類の幼体と同様に、人間の赤ちゃんも母乳中の糖 (ラクトース) を分解する酵素 (ラクターゼ) を作り、これが乳糖の代謝の最初の段階になります。通常、ラクターゼの遺伝子は離乳期を過ぎるとスイッチがオフになるので、成体は不快な胃腸の症状 (それをここで明示する必要はありません) を起こさずに乳を飲むことができません。約1万年前、人類の一部の社会が牛を飼い始めました。それで、大人になってから牛 (あるいは羊やヤギ) の乳を飲んでも病気にならない突然変異を持つ人間は、突然変異を持たない人間は利用できない新しい栄養源を持ったのだろうと、古くから考えられてきました。つまり、ランダムな突然変異と自然選択が入り込み、数百世代後には、ヨーロッパのほとんどの人々が、成人になってもラクターゼが産生される突然変異を実際に持つようになったということです。ダーウィン的メカニズムの力を示す、これ以上説得力のある例を誰が求めることができるでしょうか?
ええ、私はできます
ラクターゼの遺伝子は約5万ヌクレオチドの長さで、17個のエキソンからなり、その前に1000ヌクレオチドのプロモーター領域があります。一方、LPの原因となる突然変異は、単一のヌクレオチドの変化 (いくつかの異なるもののうちのどれでも機能します) であり、5万以上のうちのたった1個 (1個と数えます)のユニットにすぎません。さらに、この変化は『Darwin Devolves』で私が「機能的コード化要素の喪失」(loss-of-FCT) と呼んだものに帰結します。この突然変異は、どうやら (状況はまだはっきりしていませんが)、かつて適切な発育年齢で遺伝子のスイッチを切っていた調節タンパク質の遺伝子近傍に存在した結合部位を破壊しているようです。これは進化ではありません。デボリューションです。例えるなら、車から小さなネジが落ちてきて、非常ブレーキが利かなくなるようなものです。運転中の何らかの奇妙な状況下ではそうなることが実際に役に立つかもしれません。しかしそれはそもそも、自動車はおろか、非常ブレーキを作るような過程ではありません。
ラクターゼのシナリオは単純でもっともらしく聞こえますが、新しい論文によれば、従来の通説は事実にそぐわないとのことです。現実には、大人になってもラクターゼを作らない多くの現代人は、とにかく喜んで牛乳を飲み (あるいはアイスクリームを食べ)、消化への多少の影響を無視しているのです。著者たちは、古代の土器サンプルのデータと古代人の遺体の遺伝子分析から、古代の牛乳の消費量とある地域におけるラクターゼ突然変異の存在との間に相関関係がないことも示しました。彼らは、この突然変異の選択的価値を一笑に付し、もしそれがそのようなわずかな優位性しかもたらさないのなら、これほど急速に広まることはなかっただろうと主張しています。
では、この突然変異の広がりは何によって説明されるのでしょうか?著者たちは推測のみを提示しています。彼らは、この突然変異は平時にはあまり役に立たないとはいえ、飢饉や疫病の時にはちょっとした腸の痛みが致命的となりえるので、おそらく選択的価値を高めたのだろうと示唆しています。彼らは、この突然変異と飢饉や病気の時期との関連性を裏付けるとするいくつかのデータを示していますが、より単純なストーリーが非常に説得力があり、広く受け入れられ、そして間違っていたのに、さらに込み入った彼らのストーリーに確信を持つことは困難です。
最も際立った教訓
そしてそれが、この論文の最も際立った教訓です。『Darwin Devolves』での私の要点の一つは、ダーウィン的進化が生命の発展を促したというのは不可能である (困難なだけではない) ことがわかったということでした。科学の威信の多くは、物理法則の力と優雅さに由来しています。物理法則は、確かに物体の挙動を、数歩先まで予測するのには素晴らしい手段です。しかし、ニュートンの法則だけで、あるビリヤード玉が、他に何十個も玉があるビリヤード台で何回か跳ねた後、どこに行き着くかを予測してみてください。さらに言えば、ペンシルバニア州ベツレヘムの10月の第1木曜日午後2時18分の天気を詳細に予測してみてください。関係するすべての粒子が既知の物理法則に従っているにもかかわらず、それは不可能です。大砲の弾の軌道を正確に計算するのと同じ物理法則が、複雑なシステムにはほとんど役に立ちません。
そして、ラクターゼ活性持続症の例で明らかなように、生命は複雑なシステムなのです。ですから、100人近い優秀な科学者が何年もかけて研究し、最高の結果を最も権威のある学術誌に発表し、5万個のヌクレオチドのうちの1個の変化が、なぜある種の、あるいは他の状況において何らかの利点をもたらした可能性があるのかを理解するのに苦闘していると報告する光景を目にすることになるわけです。この痛切な苦闘を、教科書や科学の学会報で日常的に目にする、科学では確実に、遺伝暗号から分子機械、真核細胞、ミミズ、ゾウ、人間の精神に至るまで、すべての生命はダーウィン的過程の結果であることが分かっている、という独りよがりな宣言と比べてみてください。
ブヨを漉し取りながら、ラクダを呑み込むような話です。
参考文献
- https://www.washingtonpost.com/health/2022/07/28/lactose-intolerant-europe-study-milk/
- https://www.theatlantic.com/science/archive/2022/07/dairy-lactose-intolerance-causes/670966/
- https://www.smithsonianmag.com/science-nature/famine-and-diseases-likely-drove-europeans-ability-to-digest-milk-180980483/
- https://phys.org/news/2022-07-famine-disease-drove-evolution-lactose.html
- https://www.nature.com/articles/d41586-022-02067-2