Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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人間の奇跡: リンの問題

This is the Japanese translation of this site.

 

デイヴィッド・コッペッジ
2022/7/6 13:56

 

マイケル・デントンは、『The Miracle of Man』で最高潮に達する、私たちが「特権的生物種」であることについての一連の著作で、人間の生活を可能にしている自然の「一致」の驚嘆すべきコレクションをまとめています。水の性質から、地球の大気と地殻の組成、重要な酵素に宿る金属など、他にも多くありますが、微細調整されたこれらのパラメータは、科学的証拠は地球上の生命のための事前適合性に収束しているとデントンと共に結論付ける以外に、読者に選択の余地を与えません。単なる居住可能性の議論に満足する宇宙生物学者たちとは異なり、これらの詳細は、テクノロジーを発明し使用するための身体と頭脳を備えた、私たちのような複雑な生物のためにあらかじめデザインされているように見えるとデントンは提唱しています。

 

しかし、彼が著書の中で詳しく考慮している化学元素の中で、比較的軽視している元素があります。その元素はリン (P) です。

必須元素

リンは周期表の15番目の元素で、エネルギー (ATP、アデノシン三リン酸)、糖‐リン酸主鎖を持つ遺伝暗号、細胞膜、ホルモン、骨や歯など、多くのものに不可欠です。デントンは、『The Miracle of the Cell』の中で、細胞におけるリン酸塩のエネルギーに対する絶妙な適合性を記述した後、この元素の重要性を要約したエドワード・オファレル・ウォルシュの言葉を引用しています。「『リンがなければ生命はない』と言っても過言ではない」。

 

そしてさらに、Pの生物学的可用性が問題を提起しています。地殻中に11番目に多く存在する元素でありながら、それを必要とする植物や動物から遠く離れた、ある孤立した場所に集中する傾向があるのです。これは、私たちが庭や農場のために肥料を購入する必要があることからも明らかです。リン酸塩は、市販の肥料にある「21-10-3」のような良く知られた3つ組の元素比率のうち真ん中の数字で、この3つ組は製品中のN、P、Kの総量を表しています。窒素は大気中から得ることができますし、カリウム (K) もどこにでもあるわけではありませんが、リンよりも豊富に存在します。

 

さらに悪いことに、ほとんどの無機リン (Pi) はアパタイトやリン鉱石などの不溶性の岩石に固定されています。(元素のPは反応性が高く、Piはほぼ常にリン酸塩 (PO4) で見つかり、生命はこれを利用しています)。リン酸塩の鉱床は世界各地に点在していますが、商業的に利用できるのは、モロッコと中国が70パーセントを占めています。読者は、ロシアのウクライナ侵攻の初頭に、世界の肥料の28パーセントがこの二国によって輸出されていることから、世界的食糧不足の脅威について聞いたことを思い出すかもしれません。

 

人類は何千年も前から、植物に肥料を与えると収量が増えることを知っていました。リンが肥料の必須元素として識別されると、人々はリンを探し求めました。19世紀と20世紀にはコウモリのグアノがその役割を果たしました。しかし、1950年代半ばからリンの需要が急増し、グアノは世界的な需要に対して十分に豊富ではありません。世界は80億の人々を養って空腹を満たさなければならず、リン酸塩を必要とする生物圏の他の種も数え切れないほどいるのです。

教訓的な入門記事

先月、『Current Biology』に、イヴ・ポワリエ、アイミー・ヤスコロフスキ、ホアキン・クルーアによる「Phosphate acquisition and metabolism in plants」という教訓的な入門記事が掲載されました。図1に示されているのはペルーの歴史的なリン酸塩の鉱山で、1874年にヨーロッパへの輸出で枯渇しました。もう1枚の写真は、モロッコの現在稼働中の鉱山を示しています。暗い展望が続きます。

 

現時点で経済的に開発可能なPに富む鉱床は50~100年以内に枯渇する可能性がある。最適でないリン鉱石の採掘により、これに200~300年追加して生産を延長できるかもしれない。さまざまな試算にかかわらず、Pに富む鉱床は有限の資源であり、その限られた可用性は、やがて長期的な食糧安全保障の主要な問題となるであろう。[協調追加]

 

これらの不穏な事実を念頭に置いて、「複雑な生命のための事前適合性」というデントンの仮説に、リンの問題をどのように当てはめることができるでしょうか?ネタバレ注意です。世界中で植物や動物が繁栄しているという事実は、答えがあることを示唆しています。ここにヒントがあります。有機リン酸塩 (Po) に注目しましょう。リンは岩石では制限要因かもしれませんが、生命には豊富に存在し、リサイクルすることができます。

 

食糧生産のためにリン肥料に依存している現状と、現在の資源に伴う地政学的側面を考慮すると、少ない肥料投入で高い作物収量を維持できる技術を開発することが重要になろう。これには、植物が土壌からリンを獲得し、成長と生殖のために最大限経済的に利用できるようにするためのさまざまな経路についての深い知識が要求されるだろう。

救援のためのデザイン

PAE (Pi Acquisition Efficiency: Pi獲得効率) とは、植物が無機リン酸塩を獲得するために用いる一連の戦略のことです。植物はそれを獲得すると、その細胞内での利用を最適化することもします。

 

植物はどのようにしてPiの利用を最適化するのだろうか?植物は、PAEを改善し、無機リンと無機リン由来の代謝物の内部利用を最適化することによってPi欠乏状態に適応し、成長を維持することができる。つまり、獲得したPi1分子あたりに生成されるバイオマスまたは収量の比率 (Pi利用効率 (PUE)) を高め・・・。

 

著者たちは、リン酸塩を最適化するための一連のデザイン原理のセット(彼らはそれを適応と呼んでいる)を説明しています。下記は、植物がリンの欠乏時にリン酸塩を獲得するための戦略 (PAE) の一部です。

  • 根毛を長く伸ばし、より多くの土壌を探索する。
  • 共生菌の菌根を刺激して、根毛が利用できる数百倍の体積の土壌を探索させる。これは、ストリゴラクトン酵素のアップレギュレーションによって達成される。
  • カルボン酸塩で土壌を酸性化し、鉱物からのPiの遊離を促進する。
  • 一次根を短くし、重力屈性を減少させ、Piが豊富に存在しやすい土壌の上層を探索する。
  • Pi/H+共輸送体のPHT1遺伝子ファミリーをアップレギュレーションして根におけるPiの取り込みを促し、根における配置を最適化する。
  • 土壌中にヌクレアーゼとホスファターゼを放出し、落ち葉などの死んだ植物由来の物質を分解して、DNA、RNA、タンパク質に含まれるPoを再利用する。

下記は、リン欠乏時に植物が細胞内のリン酸塩を効率的に利用するための戦略 (PUE) の一部です。

  • Piが豊富なリン脂質をガラクトースを含む分子やスルホリピドに置き換える。
  • DNA、リボソームRNA、その他のPoが豊富な分子からPiを回収する。
  • 必要性に応じて組織間でPiを再分配する。
  • ATPを必要としない分子過程を活性化する。

これらの戦略はすべて、リンのレベルを監視し調節する協調システムに配置された分子機械によって仲介されています。それらの多くは、詳細に興味がある方のために、記事中に名前が挙げられています。私はこの論文中に名前の挙がっている、リンのホメオスタシスに関与する酵素ファミリーを少なくとも20個は数えましたが、それでもおそらく目録としては不完全でしょう。

 

特に興味深いのは、リンのホメオスタシスに関与するシグナル伝達系で、その中には機能するためにリンを必要とするものがあります。例えばリン酸化は、遺伝子やタンパク質にリン酸基を付加し、そのスイッチをオン・オフします。したがって、リンの調節にはリンそのものが必要であり、生命の起源を推測する上で、もう一つの「鶏と卵」のパズルとなります。もう一つの例は、ATPです。細胞は、リン酸塩を取り入れる酵素を操作するためにATPとGTPを必要としますが、これらのエネルギー源にすでにリン酸塩が働いていなければ、酵素は働きません。そして、ATPを製造するATP合成酵素ロータリーエンジンは、その構成要素とその上流の機械の構成要素にリン酸塩を使用しています。ミトコンドリアでの代謝システムが「酸化的リン酸化」と呼ばれる所以です。

 

動物もリンのレベルを最適に保つための戦略を数多く持っています。動物の持つ器官やシステムも、その遺伝暗号、エネルギー、膜、シグナル伝達といった植物が持つのと同じツールキット全体がリンに大きく依然しており、それに加え他にもあります。脊椎動物は、骨や歯 (ヒドロキシアパタイト) のためにリン酸を必要とします。動物は尿や糞を通して植物に恩返しをしており、人類が農業を発明するずっと以前からリンを自然に再利用しています。また、落ち葉や植物由来の物質の腐敗も、リンを土壌に再循環させます。すべてのリンがモロッコや中国から来るわけではありません。

 

人間にとって、生物学的に利用可能なPoの最も豊富な源は、乳製品、赤肉、鶏肉、魚介類、豆類、ナッツ類です (ハーバード大学 Nutrition Source)。現代では、保存料として使用される無機リンの添加物が、人間の食事に少なくない量のPiをもたらしており、これは容易に吸収されます。体は腎臓を通して余分なリンを非常に効果的に除去するため、リン中毒はまれです。リンの85%は骨と歯に貯蔵されています。リンが欠乏した場合、これらの貯蔵物がリンの予備貯蔵庫として機能します。

 

肥料を介したリンの工業的輸送は、土壌への溶出や水源の富栄養化を引き起こし、魚やその他の動物にとって有毒な藻類異常発生を引き起こす可能性があります。このようなリンは、陸上植物が届かない海底の堆積物に沈んでしまうのです。したがって、人類の持続可能な農業のための計画は、リン鉱石採掘の長期的な影響と、アパタイトやその他の一次資源の限られた露頭に依存することの政治的意味を考慮しなければなりません。しかし、これは常に懸念されることなのでしょうか?

 

ここで横道にそれる質問ですが、農地を休閑地にする慣習は、リンの保全に役立つのでしょうか?レビ記25章によると、ヘブライ人は7年ごとに土地に「安息の休み」を与えるように命じられています。これは生物学的に利用可能なリン酸塩を補充するのに役立ったのでしょうか?ここに、休耕農法を採用した稲作農家で、リンの可用性が向上したことを示唆した日本の研究プロジェクト (2018年) についての論文があります。この論題はもっと研究する価値があります。

リンの循環

もちろん、何も失われることはありません。熱力学第一法則が思い起こさせる通りです。リンは化学元素なので、破壊されることはありませんが、利用しにくくなることはあります。リンは、他のすべての必須元素と同様に、生物圏で循環しています。とはいえ、炭素、酸素、水とは異なり、リンは常温で気相になることがないため、その循環は非常に緩やかです。プレートテクトニクスによって再び地表に戻ることも可能ですが、もっと手っ取り早い方法は火山です。実際、ワシントン大学の進化論者は、火山は最初の生命にPを供給するのに必須であり、火山岩の浸食によって、後続のすべての生命にこの必須元素が供給されたと考えています。

 

この惑星の生命への事前適合性をすべて否定する科学的唯物論者は、地球が最初にリンとその他の必要な元素をどのように供給されたのか、確かに不思議に思うに違いありません。彼らは、太陽系星雲が各元素を適切な濃度で持っていて、それらがすべて地殻の浅いところにたどり着いて、陸上生物が利用できるようになったと信じているに違いありません。進化的タイムラインは、海洋への急速な定着や、熱帯雨林サンゴ礁、山林などの豊かな生物群系を伴いながら、リンを切望する生物圏を描写することはありません。『New Scientist』は、強大な恐竜でさえ寒冷適応しており、北極圏で繁栄した恐竜もいた、と述べています。記事のトップに描かれている活発な捕食恐竜は、低リン血症(リン欠乏症)の症状を見せていません。その恐竜一頭がどれほど多くのリンを使っていたか、考えてみてください。人間の細胞が1日に自分の体重分のATPを製造できるとしたら、あの獣脚類やウルトラサウルスには、彼らの骨や歯に必要なPは別にして、どれほど多くのATPが必要だったのでしょうか?

 

生物圏が時間をかけて成功してきたことは、リンが固形物においては生命にとって制限要因であるというPの独特な性質にもかかわらず、最初から適度なリン可用性があったという十分な状況証拠を示しています。天文学から地質学、生物学に至るまで、リンの循環を詳細に研究することは、デザインを重視する科学者にとって良い研究プロジェクトになるでしょう。それはデントンの「事前適合性」論への潜在的な例外を排除することになるでしょう。多分、手元の状況証拠によって、その最も強力な実例の一つになるでしょう。