Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

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ビッグバンとその宇宙的デザインへの示唆に抵抗する努力

This is the Japanese translation of this site.

 

ブライアン・ミラー
2022/3/2 14:10

 

編集部注: この記事は、新しく発売された書籍『The Comprehensive Guide to Science and Faith: Exploring the Ultimate Questions About Life and the Cosmos (English Edition)』の一つの章からの抜粋です。

 

宇宙には始まりがあるということの神学的な示唆は、すぐに認知され、抵抗を受けた。例えば、物理学者のアーサー・エディントンはこう答えている。

 

哲学的には、現在の秩序が始まりという概念はどうしても気にくわない。私は純粋な抜け穴を見つけたい。私は単に、現在の事物の秩序が爆発から始まったとは信じていないのだ・・・そんなものには少しも関心がない。1

 

実際、ビッグバンという言葉は、物理学者のフレッド・ホイルが始まりという考えへの嘲笑を表すために造った用語である。 歴史のいたずらで、この言葉は定着してしまった。ホイルは、この理論の宗教的な示唆に抵抗を感じたと認めている。

 

他の人には、その証拠は現実についての見解全体に劇的な影響を与えた。例えば、著名な天文学者のアラン・サンデージは、神についての信念を受容するように動かされた。無神論者と有神論者が対話する会議で、サンデージはビッグバン理論の宗教的な示唆を説明した。

 

超自然的な事象としか言いようのない証拠がここにあります。私たちが知っている物理学の範囲では、このようなことが予測されることはあり得ないのであり・・・科学は最近まで、第一の原因ではなく、本質的に第二の原因に関わりあっていたのです。この50年間に起こったことは、天文学や天体物理学においては注目に値する事象です。ある天文学者たちは、空を見上げると「創造事象」の証拠があると信じるようになりました。2

 

物理学者ロバート・ジャストローは、「始まり」の証拠による影響を、これまでになく赤裸々な言葉で記述している。

 

これは著しく奇妙な進展である。神学者以外の誰も予想していなかったものだ。神学者はいつも聖書の言葉を受け入れてきた。すなわち、はじめに神が天と地を創った、と。・・・科学が時間を逆行して原因と結果の連なりをたどり、こんなに途方もない成功をおさめてしまったものだから、このような進展は予定されていなかったのだ。・・・論理の力を信じることによってずっと生きてきた科学者にとって、この物語はまるで悪夢のように終わる。科学者は「無知の山々」を登ってきた。その頂上をまさに征服しようとしている。最後の岩を越えようとして身体を引き上げる。そのとたん、何世紀もの間ずっとそこに待っていた神学者たちの一団から、歓迎のあいさつをされるのだ。3

始まりから逃れようとする初期の試み

予想できることだが、多くの学者たちは最も創造的な手段で「始まり」という結論を覆そうと試みた。最初の試みの一つは、フレッド・ホイル、物理学者トーマス・ゴールド、数学者ヘルマン・ボンディによるもので、彼らは永遠の宇宙のための「定常状態」モデルを構築した。彼らは、銀河が互いに遠ざかっていることは認めた上で、銀河の間で常に物質が生成されているとすることで、始まりの必要性を回避した。その新しい物質はやがて合体して銀河になり、宇宙の密度やその他の特徴が変わらないようにするのだ。3人は、この過程が無限の過去から起こってきた可能性があると信じていた。彼らのモデルでは、宇宙にはあらゆる年齢の銀河が観測されることが予言されるが、天文学者たちは中年齢かそれより古い銀河しか識別していないので、結局1960年代半ばまでに否定された。

 

「始まり」を除去する次の試みは、振動宇宙モデルであった。このモデルでは、宇宙はある最大サイズになるまで膨張する。その後、重力によって収縮し、十分小さいサイズに縮んだところで、何らかの未知のメカニズムによる宇宙的なバウンスを経て、再び膨張する。このサイクルが永遠に繰り返されると言われている。この振動モデルはやがて、エントロピーの問題で否定された。

 

具体的には、宇宙のエントロピー (無秩序さ) は、絶えず増大する。その結果、各サイクルが終わるまでの期間はより長くなっていく。時間を逆行させると、以前のサイクルは期間がどんどん短くなり、ゼロになってしまうが、これは物理的に不可能である。

永遠のインフレーションとストリングランドスケープモデル

始まりを避けるもう一つの方法は、我々の宇宙は連続的に生成される無限の数の宇宙の一つに過ぎないとするものだ。個別の宇宙生成のメカニズムについては、さまざまな理論が提唱されている。例えば、アラン・グースやポール・スタインハートなどの物理学者は、空間に浸透している真空エネルギーが非常に急激な膨張を引き起こすことを想像した。空間の極小の容積が、1秒にも満たないわずかな間に1兆の1兆倍にも膨張した可能性がある。真空エネルギーの低下により膨張が止まった個別の空間の切れ端は、「泡宇宙」として出現し、伝統的なビッグバンモデルに従って膨張する。我々の宇宙は、これらの泡宇宙の1つに過ぎず、ある特定の空間の切れ端がインフレーションを停止した点が始まりだと信じられている。原理的には、インフレーションの過程は無限の過去から続いてきた可能性があるため、始まりの必要性を取り除いている。

 

もうひとつのメカニズムは、超弦理論を我々の宇宙の起源に応用したものに基づいており、ストリングランドスケープモデルと呼ばれる。超弦理論は、すべての力と素粒子を、異なる周波数で振動する弦の集合に統一しようとするものである。あるモデルでは、高次元空間に多次元的な「ブレーン」が存在し、これらのブレーンが時々衝突してビッグバン事象を生成すると想定されている。この過程も、永遠の過去から起こっているのかもしれない。

 

このような宇宙創成のメカニズムが、宇宙の始まりを回避するという希望は、物理学者のアルヴィン・ボーデ、アラン・グース、アレキサンダー・ビレンキンが開発した定理によって、打ち砕かれて終わりを迎えることになった。ボーデ・グース・ビレンキン (BGV) 定理とは、宇宙がその歴史を通じて平均的に膨張している場合、その宇宙には絶対的な始まりがなければならないというものである。この制約は、インフレーション、ストリングスランドスケープ、および我々の宇宙を生成する可能性のありそうなその他のあらゆるモデルに適用される。この定理の結論についてのもっとも良い説明はビレンキンによるものだった。

 

いまや証明がなされたので、宇宙論研究者はもはや、宇宙は無限の過去を持つかもしれないという可能性にしがみつくことはできません。逃げ道はありません。宇宙の始まりの問題に正面から向き合わなければならないのです。4

無からの宇宙

無神論者の宇宙学者は、量子宇宙論という分野から最後のトリックを仕掛けてきた。この物理学の分野では、初期宇宙の文脈で、量子力学一般相対性理論 (すなわち重力) に適用しようと試みる。標準的な量子力学では、シュレーディンガー方程式として知られる数式表現が導かれ、それを解くことで波動関数として知られる方程式が生成される。後者の方程式は、ある粒子あるいは粒子系が、運動量や位置などの性質について特定の値あるいは範囲内の値をとる確率を与えるものである。

 

量子宇宙論では、ホイーラー・ドウィット方程式として知られるさらに複雑な式が導かれ、これを解くことで宇宙全体の波動関数を得ることができる。同様にしてこの関数は、特定の重力や質量の性質を持つ宇宙が出現する確率を与える。スティーブン・ホーキングやローレンス・クラウスなどの物理学者は、波動関数の解の背後にある数学は、我々の宇宙には必ずしも始まりがないことを実証すると断言し、私たちの宇宙は「無」から出現し得たと論じている。しかし、これらの主張はいずれも正しくない。

 

最初の主張について、ホーキングは時間変数を虚数時間に置き換えるという数学的トリックを使って波動関数を解いている。正確な詳細は理解のために重要ではない。彼はこの置換により波動関数を解けただけでなく、元の時間変数が置換されたために、彼の分析においては時間の始まりを消去できた。ホーキングは、自分の研究の記述で、「宇宙の起源を説明するための神の必要性を消去したと宣言した。

 

宇宙にはじまりがあるかぎり、宇宙には創造主がいると想定することができる。だがもし、宇宙が本当にまったく自己完結的であり、境界や縁をもたないとすれば、はじまりも終わりもないことになる。宇宙はただ単に存在するのである。だとすると、創造主の出番はどこにあるのだろう?5

 

実際には、ホーキングの数学的トリックは、新しい時間変数を物理的宇宙のあらゆる現実から切り離すように方程式を変更した6。さらに重要なのは、彼が計算の最後に現実の時間に戻すように変換したところ、その時点で宇宙の始まりが再出現することである。この点はホーキングも認めている。

 

だが、われわれの生きている実時間に戻ってみると、依然、特異点があるように見える。・・・実時間では、宇宙は時空の境界をなす特異点にはじまりと終わりをもっており、そこでは科学法則は破れる。7

 

彼は神の必要性を消去したと豪語しているが、これはまったくの虚勢である。

 

2番目の主張について、ホーキングは次のように述べた。

 

重力のような法則があるおかげで、・・・宇宙は無から生成できるのです。宇宙の自発的生成が、なぜ宇宙が存在するのか、なぜ私たちが存在するのかという問題に対する答えです。宇宙を生成して発展させるのに神に訴える必要はないのです。8

 

クラウスは、アレキサンダー・ビレンキンの研究に基づいて、同じように断言している。「われわれの宇宙が存在し、発展し、進化するのは、その法則の必然である」。9

 

現実には、ホーキングの研究もビレンキンの研究も、単に物理法則によって無から宇宙が出現することを実証しているわけではない。根底にある数学は、実際はすでに存在している宇宙を前提としている。言い換えると、これらのモデルが出発点とする「無」は、文字通りの無ではなく、ビッグバン事象の後に、空間的な体積がゼロではあるが、すでに始まっている宇宙である。ホーキングもクラウスも、帽子からウサギを出して観客を驚かそうとする手品師のようなもので、観察力のある人は手品が始まる前に帽子の底にウサギの尾が突き出ているのを見ることができる。

 

より哲学的なレベルでは、物理法則は何でもできるという主張そのものに重大な誤りがある。物理法則は単純に、既存の質量と力が相互作用したときに、既存の宇宙で何が起こるかを記述している。宇宙が始まる前、物理法則は数式で記述することはできても、その数学はいかなる事象を引き起こす力も持っていない。例えば、重力の法則は、力イコール質量×重力加速度という方程式: F=mgで表現できる。この関係は惑星の重力がどのように物体を自身へ引き寄せるかを表現しているが、その相互作用を表現する方程式が、惑星や物体、あるいは重力による誘引を存在させるのではない。波動関数とそれが記述する可能性のある宇宙にも同じことが成り立つ。

物質以前の精神

宇宙の原因は、物質、エネルギー、空間、時間の始まりの前に存在していたはずである。したがって、それは非物質的で、時間を超越し、非常に強力であるに違いない。

注釈

  1. ジャン-ピエール・ルミネ、「Lemaître's Big Bang」、「Frontiers of Fundamental Physics 14」で行われた講演、エクス-マルセイユ大学、マルセイユ、フランス (2014年7月15日-18日)、10、https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1503/1503.08304.pdf (2020年11月14日アクセス)。[訳注: リンク先にはこのエディントンの言葉は部分的にしか引用されておらず、原典も不明確でした。「Philosophically the notion of a beginning of the present order is repugnant to me.」、「I should like to find a genuine loophole.」は『Nature』127巻 (1931年3月21日) 450ページから、「I simply do not believe the present order of things started off with a bang」は『The Nature Of The Physical World』(ケンブリッジ大学出版局、1928年) の「Chapter IV: THE RUNNING-DOWN OF THE UNIVERSE」からの引用と思われます。「it leaves me cold.」はロバート・ジャストローがエディントンの1931年の言葉として紹介していますが、原典は不明です。エディントンの『The Expanding Universe: Astronomy's 'Great Debate', 1900-1931』(ケンブリッジ大学出版局、1988年) の56ページに、「Similarly the theory recently suggested by Einstein and de Sitter, that in the beginning all the matter created was projected with a radial motion so as to disperse even faster than the present rate of dispersal of the galaxies, leaves me cold.」とあり、ここから取ったのかもしれません。]
  2. 引用は、スティーブン・C・メイヤーが1985年2月7日-10日にテキサス州ダラスで開かれた「Christianity Challenges the University: An International Conference of Theists and Atheists」でのサンデージの発言を私的に録画したものの文字起こしから。
  3. ロバート・ジャストロー、『God and the Astronomers』 (ニューヨーク: Norton、1978年)、116ページ (邦訳: 『だれが宇宙を創ったか はじめて学ぶ人のための宇宙論』、趙慶哲訳、講談社、1986年、141-142ページ)。
  4. アレキサンダー・ビレンキン、『Many Worlds in One: The Search for Other Universities』 (ニューヨーク: Hill and Wang、2006年)、176ページ (邦訳: 『多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて』、林田陽子訳、日経BP、2007年、296ページ)。
  5. スティーブン・ホーキング、『A Brief History of Time: From the Big Bang to Black Holes』(イギリス、ロンドン: Bantam、1988年)、140-141ページ (邦訳: 『ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで』、林一訳、早川書房、1995年、202ページ)。
  6. 私は、数学的には時間が虚数であり実数ではないという意味で、文字通りには方程式が実際の現実に対応しないという意味で述べている。
  7. ホーキング、『A Brief History of Time』、136ページ (邦訳: 200ページ)。
  8. スティーブン・ホーキングとレナード・ムロディナウ、『The Grand Design』(ニューヨーク: Bantam Books、2010年)、180ページ (邦訳: 『ホーキング、宇宙と人間を語る』、佐藤勝彦訳、エクスカレッジ、2010年、252ページ)。
  9. ローレンス・M・クラウス、『A Universe from Nothing: Why There Is Something Rather Than Nothing』(ニューヨーク: Atria Books、2012年)、169ページ (邦訳: 『宇宙が始まる前には何があったのか?』、青木薫訳、文藝春秋、2017年、205ページ)。