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エミリー・リーブス
2024/5/9 12:09
抗生物質耐性は、「目の前で起こっている進化」の例として一般的に喧伝されています。しかし、抗生物質耐性のどの部分が実際に偶然の突然変異によるものなのでしょうか?抗生物質耐性には、生物自身によって引き起こされる、プログラムされた遺伝子変異による側面があるのでしょうか?ここでは、これらの疑問に答えようと試みている重要な論文を共有します。
2019年、ある科学者チームがMfdと呼ばれるタンパク質を発見しました。これを欠失させると、細菌は抗生物質耐性を「進化」させることが非常に難しくなります (ラゲブ他、2019)。Mfdはヌクレオチド除去修復に関与しているとされてきたDNAトランスロカーゼですが、この研究では、このタンパク質が存在しないと、あるゲノム位置での突然変異率が2倍から5倍減少することが判明しました。このことは、Mfdがそれらの特定の位置で遺伝子の変化を指示していることを示唆しています。
特異的突然変異の生成に関与するタンパク質
さらに詳細を述べると、ラゲブ他の最初の実験では、ルリア-デルブリュックの揺らぎ解析を用いて、枯草菌、緑膿菌、ネズミチフス菌、結核菌について、Mfdの有無における突然変異率を計算しました。観察されたのは、Mfdがない菌株は、リファンピシンという抗生物質への耐性によって測定された突然変異率が2~5倍減少していたことです。これは、細菌のタンパク質であるMfdが実際に突然変異を引き起こしていることを示唆しているため、魅力的です!突然変異は、電離放射線が偶然に当たったことによるものではないということです。実際には細菌が自身で突然変異しているのです。
ここでいくつか重要な注意点があります。
- リファンピシン耐性によって測定される突然変異率が増加したからといって、必ずしもゲノム全体の突然変異率が影響を受けたことを意味するわけではありません。リファンピシン耐性による選択は、計算された突然変異率が3582塩基対からなるある領域 (「rpoB DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットβ [バシラス・ステルコリス]」) に基づいていることを意味しており、それと比較するとゲノムの全サイズは4,214,810塩基対です (クンスト他、1997)。したがって、ゲノムの残りの部分で突然変異率が増加することはありえません。(ネタバレ注意: これはその通りであることが判明しました!)
- rpoBにおける突然変異率の上昇は、背景的な過程なのか、それとも抗生物質の感知に反応して引き起こされるものなのかも不明です。ルリア-デルブリュックの揺らぎ解析は、このようなシナリオを区別する役割を果たすことで有名であり、これらの仮説を区別することができますが、本文ではどちらの結果が観察されたかは明示されていません。この実験に馴染みのない人のために説明しておくと、ルリア-デルブリュックの揺らぎ解析は、突然変異がランダムに起こり、有利な突然変異が自然選択されると提唱するダーウィン仮説を支持するものと解釈されています。これは、突然変異は選択圧に対する生物の反応の結果であると提唱するラマルク仮説とは対照的です。
著者たちは、Mfdの不在がもたらす突然変異率の2~5倍の低下は穏やかなものと解釈しましたが、この違いが耐性の動態 (耐性化速度) や進化に影響を与えるのではないかと考えました。そこで彼らは、抗生物質 (リファンピシン、ホスホマイシン、トリメトプリム、カナマイシン、バンコマイシン) への耐性が、低濃度の抗生物質から始めて35〜70世代かけてどのように進化し得るかに注目しました。これらの実験から、ネズミチフス菌と枯草菌では6倍から21倍の差があることが示されました。Mfdを含む株と含まない株では、耐えられる抗生物質濃度の中央値に32倍の差がありました。Mfdによって細菌は、より高いレベルのスペクトルの抗生物質への耐性を、より迅速に発達させることができるようになります。それらの抗生物質のゲノム上での耐性標的はすべて異なっています。
もう1つの重要な観察は、一定の抗生物質が準備のされていない細菌にとって致死レベルで存在する場合のルリア-デルブリュックの揺らぎ解析と比較して、抗生物質を時間をかけて徐々に増加させると、Mfdがある株とない株の間でより明白な差異があることです。徐々に蓄積するとより大きな差異につながったという観察結果は、細菌が毒素を感知して適切に反応している可能性を示唆していますが、この実験の実施方法に起因して、ルリア-デルブリュック解析中にはそのための時間がありません。
Mfdはどのようにして特異的突然変異を生成するのか?
著者たちは、Mfdがどのようにして特異的突然変異を生成しているのか、あるいはMfdが直接そうしているのか正確には知っていませんが、サンガー配列決定法を用いて、リファンピシンおよびトリメトプリムの耐性標的 (それぞれrpoBとfolA) 内で、この時間経過中に発生した遺伝子変異を同定しました。全ての時点の塩基配列を解析した結果、耐性を可能にする遺伝的変化が明らかになりました。Mfdがなければ、観察された耐性変化は約半分から3分の1にとどまり、Mfdなしで生じる変化には遅延もありました。Mfdが特定の耐性変化の発現に重要な役割を果たしていることを示すさらなる証拠として、2番目と3番目の遺伝的変化は、Mfdなしではそれぞれの標的でほとんど観察されませんでした。総合すると、このことはMfdがさらなる遺伝的変化の生成に決定的に重要な、何らかの突然変異を促進する機能を持っていることを意味します。
次に、これらの領域以外に突然変異があったかどうかを見るために、著者たちは時間経過実験からランダムに選んだ6つの複製について全ゲノムシーケンシング (WGS) を実行しました。WGSによって、サンガー配列決定法の結果が確認されました。すなわち、Mfdがない場合、rpoB遺伝子座の変異は大幅に少なかったのです。重要なこととして、進化したリファンピシン耐性株のいずれにおいても、rpoBを除いてさらなる突然変異は発見されませんでした。重要なこととして、rpoBの外側では、進化したリファンピシン耐性株のいずれにおいても、さらなる突然変異は発見されませんでした。これは決定的に重要な発見であり、このメカニズムがゲノム全体に非特異的突然変異を導入しているのではなく、既知の抗生物質標的に特異的突然変異を起こして耐性を付与していることを強く示唆しています。
したがって、トリメトプリム耐性株についてのWGSの結果は異なっていました。発見されたのは、folAのコード領域外の、そのプロモーター領域における突然変異、同様にdnaQ遺伝子におけるハイパーミューテーター表現型を生成した反復突然変異でした。
我々は、WT配列決定されたトリメトプリム進化株6株のうち3株にdnaQ遺伝子の点突然変異があることを発見した (全ての株に同じdnaQ (I33N) 突然変異があった) が、Δmfd株 [訳注: Mfd遺伝子が欠失した変異株] にはどれもdnaQ遺伝子の突然変異は含まれていなかった。
ハイパーミューテーター変異と合致して、彼らはゲノム全体に600の累積突然変異を発見しており、これらが機能的な役割を果たしているのか、それとも単なるヒッチハイカー変異なのかを研究する必要があることを指摘しています。非常に特異的なdnaQ変異が独立して複数回生成されたという観察は、Mfdタンパク質が、毒素 (抗生物質) の存在に反応してゲノムの特定領域が変化する際に重要な役割を果たしていることを示唆しています。
進化のイコン
抗生物質耐性は、観察可能な進化のイコンです。しかし、偶然の突然変異がどの程度この現象を支えているかは、不確かなままです。ダーウィン的進化は、電離放射線による突然変異やDNA複製機構の誤りなど、ランダムな事象に依存しています。ところが、この研究で得られた重要な知見は、抗生物質耐性のかなりの部分が、確率的な突然変異ではなく、むしろ細菌にあらかじめプログラムされた突然変異誘発メカニズムに由来し、変化が起きる特定のゲノム領域を指定する戦略的役割を果たすMfdタンパク質によって促進されることを際立たせています。これにより抗生物質耐性が付与されるのです。
このことは、有向性突然変異誘発が抗生物質耐性と決定的に同期していることを実証しており、それによって、ダーウィン的進化がリアルタイムで展開する例としての抗生物質耐性の一般的な描写に疑問を投げかけています。今のところ、何らかの偶然に基づく起源理論に頼っている人々にとって、立証責任は増大しています。なぜなら、彼らは今や、このプログラムされたメカニズムの出現を説明しなければならないからです。そして彼らは、そのために頼りにしていた突然変異のいくつかを失ってしまいました。この研究によって、彼らが本当にランダムな突然変異だと主張してきたものの多くが、今では明らかにプログラムされた制御の下で起こっていることが示されたからです。
したがって、これらの知見はインテリジェントデザイン理論により合致しています。IDは、進化のように見えるものは、実際は生物に組み込まれたデザインメカニズムの結果であると予言しています。この場合は、ダーウィン的進化のような偶然に左右される過程ではなく、機能的な目標に向かって確率を活用するメカニズムです。
参考文献
- Kunst, F., N. Ogasawara, I. Moszer, A. M. Albertini, G. Alloni, V. Azevedo, M. G. Bertero, et al. (1997) The Complete Genome Sequence of the Gram-Positive Bacterium Bacillus Subtilis. Nature. 390 (6657): pp. 249-256.
- Ragheb, M. N., Thomason, M. K., Hsu, C. Hsu, Nugent, P., Gage, J., Samadpour, A. N., Kariisa, A., et al. (2019) Inhibiting the Evolution of Antibiotic Resistance. Molecular Cell. 73 (1): pp. 157-165.e5.
- rpoB DNA-Directed RNA Polymerase Subunit Beta [Bacillus Stercoris]. Accessed April 13, 2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/83883335