Japanese Translation of EVOLUTION NEWS & SCIENCE TODAY

https://evolutionnews.org/ の記事を日本語に翻訳します。

カンブリア爆発についてのダレル・フォークの大転換

This is the Japanese translation of this site.

 

ケイシー・ラスキン

2021/6/1 6:41

 

編集部注: ダレル・フォークの書評に対する過去の回答は、こちらこちらをご覧ください。

 

生物学者で有神論的進化論者 (あるいは、一部の人が好むところでは進化論的創造論者) のダレル・フォークは、スティーブン・メイヤーの著作を知らないわけではありません。彼はBioLogosに掲載された『Return of the God Hypothesis』の最近の書評で、『Signature in the Cell』、『Darwin's Doubt』、そして今回の『Return of the God Hypothesis』というメイヤーの3部作の1,995ページをすべて読んだと報告しています。これは称賛に値します。たとえフォークの批判に同意できなくても、進んで私たちの同僚の著作を読み、熟慮した回答を提供しようとする彼の姿勢には感謝します。しかしフォークの批判は、彼がメイヤーの著書に精通していると自称しているにもかかわらず驚くほど不正確であり、また彼が過去にメイヤーの著作について書いたことからすると、奇妙に矛盾しています。

 

そもそも『Return of the God Hypothesis』に対するフォークの批判は、メイヤーが新著の中で主張している物理学や宇宙論に基づいた具体的な有神論的デザイン仮説についての主要な論点や斬新な論点を取り上げていません。それどころか、『Darwin's Doubt』や『Signature in the Cell』でのメイヤーの過去の主張に対する批判だけをしています

 

もちろん、『Return of the God Hypothesis』でメイヤーは、生物学におけるインテリジェントデザインの証拠について、これまでの著書で述べてきた議論を再検討しています。それは、その証拠が、物理学や宇宙論から得られる証拠と相まって、有神論あるいは神の仮説を支持するものであることを示すためです。それで、フォークがメイヤーの新著の書評でこのような反論をすることは、必ずしも見当違いではありません。

 

奇妙なのは、フォークが提示している批判は、メイヤーがこれらの本や『Return of the God Hypothesis』などの後続の著作ですでに取り上げているものだということです。例えば、フォークは、RNAワールド仮説へのメイヤーの批判は、メイヤーが言及していない新しい実験結果によって取って代わられたと主張しています。しかし、ブライアン・ミラーが示しているように、メイヤーはフォークが引用したものとほぼ同等の実験に基づいて誇張された主張を取り上げ、決定的に反論しています。『Return of the God Hypothesis』の中で、フォークが読んだと主張しているページの一つでさえそうしています。このように、ミラーも回答の中で示していますが、フォークはメイヤーが論題を扱っていないとほのめかしているものの、実際には彼は具体的かつ決定的に扱っています。

 

付け加えると、メイヤーが『Return of the God Hypothesis』の中で更新した『Darwin's Doubt』におけるカンブリア爆発に関する議論を批判する際に、フォークはメイヤーの証拠の評価について自分の態度を劇的に変えていますが、自分 (フォーク) の修辞的大転換を裏付ける新しい証拠は何も挙げていません。さらにフォークの書評ではまたしても、今回は進化的メカニズムの創造力とされるものについて、メイヤーは彼が「正しく評価していない」と非難されている証拠やメカニズムをすでに広範囲に議論し評価しているにもかかわらず、関連する科学的データに無知であると描写されているのです。

カンブリア爆発についての新しい態度

2014年に遡り、フォークが『BioLogos』に『Darwin's Doubt』の書評を掲載したとき、フォーク博士は、進化生物学者がネオダーウィニズムを再考または否定さえしている程度をメイヤーが誇張していると主張する別のID批評家に対してメイヤーを擁護しました。メイヤーはこのような誤りを犯したのでしょうか?

 

「私はそうは思わない」とフォークは書きました。「多くの進化発生生物学者は、マクロ進化のメカニズムについての我々の考えが今すぐにでも著しく再編成されようとしていると考えている」。進化科学の主流を支持するフォークはさらに、カンブリア爆発における「ボディプランの急速な新規生成」は「大きな謎」であり、現在の進化モデルではまだ「どれも」説明できないことを認めています。

 

しかし今回、『Return of the God Hypothesis』への2021年の回答で、フォークは正反対のことを主張しています。下記が彼の言葉です。

 

メイヤーは、カンブリア爆発が進化論に大きな危機をもたらしたと信じている。彼は、この時、生物界に入ってきた遺伝情報が説明できないほど著しく増加したと考えているのだ。彼の著作を読んだ進化生物学者なら誰でも、メイヤーは遺伝子の複製と突然変異が新しいタンパク質を生み出し、遺伝子制御ネットワークが機能する方法を変える力を十分に正しく評価していないと言うと思う。

 

これはかなりの変化です。2014年にフォークは、カンブリア爆発は進化論的に適切な説明ができない「大きな謎」であるという点でメイヤーに同意しました。しかし現在、彼はカンブリア爆発が「説明できない」という考えに異議を唱え、メイヤーが複製や突然変異によって新しい遺伝子が進化することを正しく評価していないと主張しています。何が起こったのでしょうか?カンブリア紀の動物たちがどのようにしてこれほど突然に発生したのかを説明したり、遺伝子複製メカニズムの創造力を証明したりするような、劇的な新しい証拠があるのでしょうか?フォーク博士は確かに何も引用していません。

 

さらに、メイヤーは『Darwin’s Doubt』の11章と12章で、このメカニズムを詳細に記述しただけではありません。彼はそのメカニズムが新しい遺伝子やタンパク質 (あるいはタンパク質フォールディング)、さらには全く新しい動物のボディプランの起源の妥当な説明を提供できない理由も示しました。

遺伝子の複製と突然変異の創造力

『Darwin’s Doubt』の中でメイヤーは、遺伝子の複製と突然変異のメカニズムが新しい遺伝子を産み出す力があるとされていることについて、広範な議論と批判を行っています。彼はまず、進化生物学者がこのメカニズムの働きをどのように想定しているかを正確に記述し、次にそれを詳細に批判しています。彼は自分が「遺伝子進化の主要なネオダーウィニズムモデル」と呼ぶものを次のように説明しています。

 

「・・・進化生物学者は、遺伝子の複製と、複製された遺伝子のその後の突然変異によって、新しい遺伝子が生じることを想定している」(240ページ)。・・・典型的には、先祖遺伝子が自らを複製し、その後の各遺伝子の突然変異の結果、複製とオリジナルが異なる進化を遂げるという進化のシナリオを提唱している。次いで、これらのシナリオには、重複イベント、エクソンシャッフリング、レトロポジショニング、遺伝子の水平伝播、その後の点突然変異など、さまざまな種類の突然変異と、自然選択の活性が関わる。現代の遺伝子はこれらの様々な突然変異過程の結果として生じたと、これらの研究を行っている進化生物学者は仮定している。これらの過程が長い進化の歴史の中で遺伝子を形成してきたと彼らは想定している。

-(DARWIN’S DOUBT、211-212ページ)

 

明らかにメイヤーは、遺伝子が複製とそれに続く突然変異によって生じるという、進化論の標準的な見解を認識し正確に表現しています。しかし、この話にはまだ続きがあります。

 

メイヤーは、新しい遺伝子の起源を説明することがネオダーウィニズム進化論に矛盾をもたらすことを示しています。まず彼は、ネオダーウィニズム理論によれば、遺伝子の重複がなければ、機能性遺伝子に生じた突然変異は選択圧の下に置かれることを示しています。しかし、最近の分子生物学やタンパク質科学の研究によると、オリジナルの機能性遺伝子にわずかな数の突然変異が起きただけでも、通常は機能の喪失、つまり集団内のその後の世代での「純化選択」とその遺伝子の淘汰につながる喪失という結果になることがわかっています。

 

それから彼は、多くの進化生物学者は、この深刻な問題を回避するために、遺伝子の重複に頼っていると説明しています。遺伝子が重複していれば、1つのコピーは元の機能を果たし、もう1つのコピーは選択から切り離され、生物の繁殖成功度や生存に有害な作用を及ぼすことなく自由に変異することができる、という理論です。選択圧から解放された複製を持つことで、その遺伝子はやがて新しい機能に偶然めぐり合うことができます。

 

しかしこのことは、矛盾のもう一つの側面につながります。新しい遺伝子の進化を促す選択圧がないため、新たなタンパク質フォールディングを生み出すことのできる新たな遺伝子を産み出すには、進化の過程でランダムな突然変異や「ドリフト」に頼らざるを得ないのです。とはいえメイヤーの説明によると、このシナリオは別の、しかし同じほど厳しい問題に直面します。というのも、『Darwin’s Doubt』の第9章、第10章、第12章で彼が示しているように、機能的なアミノ酸配列 (特に新しいタンパク質のフォールディングをエンコードするもの) は、一定の長さのタンパク質に対応する膨大な数のアミノ酸の組み合わせの中で、極めて稀なものだからです。

 

新たなタンパク質フォールディングを生成することができる非常に稀な配列の一つに向かって遺伝子の進化を促す何らかの選択圧がなければ、そのような新しい「機能を備えた」タンパク質フォールディングを見つけたり生成したりするために、進化の過程は完全にランダムな突然変異 (または配列空間における「ランダムウォーク」) に頼らなければなりません。しかしそうすると、進化の過程で成功する合理的な機会を得るためには、恐らく非常に長い「待ち時間」が必要になるでしょう。それからメイヤーは、現在のタンパク質科学の研究を引用して、遺伝子の複製や遺伝子の「コ・オプション」モデルに関連して計算された待ち時間は、地球上の進化の過程で利用可能な総時間をはるかに超えていることを示しています。

 

メイヤーはまず、マイケル・ベーエとデイヴィッド・スノークが標準的な集団遺伝モデルを用いて、数回の協調的突然変異変化を必要とするささやかな進化的革新に関連して予想される進化の待ち時間を計算したことを記述しました。

 

ベーエとスノークは、集団遺伝学の原理を用いて、一定の期間に様々な数の協調的突然変異変化が起こる可能性を評価した。・・・彼らは、新しい機能性遺伝子や形質の生成に協調的突然変異が2つ以上必要な場合、集団の大きさに関わらず、非常に長い待機時間が必要であることを発見した。もし協調的突然変異が3つ以上必要であれば、彼らの計算では、「スイートスポット」は全く発生しなかった。そこで彼らは、「遺伝子の複製と点突然変異のメカニズムだけでは、少なくとも多細胞の・・・種には効果がないであろう」と結論した。

-(DARWIN’S DOUBT、241-242ページ、247ページ)

 

彼は、分子生物学者のアン・ゲイジャーとダグラス・アックスの実験的研究についても説明しました。アックスとゲイジャーは特に、コ・オプションの遺伝子の重複を利用して新しい機能を持たせる進化のメカニズムの能力を特に検証しました。メイヤーは彼らの仕事を詳細に記述し、遺伝子の重複に作用する突然変異が新規のタンパク質フォールディングを産み出す能力に疑問を投げかける理由を説明しています。

 

[アックスは]そこで、地球上の生命の歴史において重複した遺伝子に起こると予想される協調的突然変異の数の上限を、(進化の過程で遺伝子の重複に伴う悪影響を考慮して) 事実上2個と決定した。また彼は、遺伝子の重複に伴う適合コストを無視した場合も計算し、協調的突然変異の上限を6個とした。それにもかかわらず、彼とゲイジャーの実験では、6つ以上の協調的突然変異でも1つの遺伝子に機能的変化を引き起こすことができなかった。このように、より寛大な — 繰り返すが、非現実的なほど寛大な上限値でも — コ・オプション [遺伝子重複] 仮説の信憑性を高めることはできない。実際、アックスとゲイジャーの実験では、現実的に考えられる最小のステップは、進化の過程で利用可能な時間を考えると、妥当なものを超えていた。彼らの言葉を借りれば、「これほど多くの変化を必要とする進化の革新は・・・極めて稀であり、地球上の生命の年齢よりもはるかに長いタイムスケールでのみ可能になるであろう」。

-(DARWIN’S DOUBT、253ページ)

 

このようにメイヤーは、遺伝子重複仮説を明確に記述し、取り上げ、批判しました。フォークが反論はおろか、彼自身は取り上げてもいない新たな実験的・理論的研究を引用して、それを行ったのです。明らかにメイヤーは、進化生物学者が遺伝子重複メカニズムの創造力について主張していることを十分に理解しています (つまり、「正しく評価しています」) 。残念ながらフォーク博士は、メイヤーが展開したこれらの主張に対する強力な批判を正しく評価しておらず、取り上げてすらいないようです。

遺伝子制御ネットワーク

では、遺伝子制御ネットワーク (GRN) はどうでしょうか?メイヤーはこの論題を「正しく評価」していないのでしょうか、それとも、メイヤーが実際に詳細に取り上げた論題を無視して批判されているもう一つの事例なのでしょうか。実は、後者なのです。メイヤーは、『Darwin’s Doubt』と『Return of the God Hypothesis』の両方で、GRN、あるいは発生遺伝子制御ネットワーク (dGRN) について詳しく記述しています。彼の最新の著書での記述は以下の通りです。

 

発生遺伝子制御ネットワークは、動物の発生過程において遺伝情報のタイミングや発現を制御する遺伝子および遺伝子産物 (DNA結合タンパク質や制御RNA) のネットワークから成る。これらのネットワークの構成要素は、個々の細胞の発生や分化の仕方に影響を与えるシグナル (転写制御因子または転写因子と呼ばれる) を伝達する。例えば、あるシグナル分子が正確にいつ伝達されるかは、他の分子からのシグナルがいつ受信されるかによって決まり、それが他の分子の伝達に影響を与えることもある。時間が決定的に重要な特定の機能を実行するために、すべてが美しく調整されているのだ。これらの遺伝子と遺伝子産物のネットワークは集積回路のように機能し、胚の発生過程において、生物が適切なタンパク質を適切な時期に生産し、適切な種類の細胞に供給することを保証している。

-(RETURN OF THE GOD HYPOTHESIS、311ページ)

 

さらにメイヤーは、新しいボディプランの起源に関する進化論的な説明において、dGRNが問題となる理由を詳しく説明しています。

 

dGRNの中核をなす遺伝子に突然変異によるわずかな変化が生じても、発達の軌道に変化がない (プリプログラムされた冗長性による) か、あるいは発生途上の動物に壊滅的 (多くの場合、致死的) な影響を与える。中央制御ノードが崩壊すると、発生途上の動物は別の生存可能で安定的に遺伝するボディプランに移行することはない。むしろ、システムがクラッシュし、発生途上の動物は通常死亡するか、生き残ったとしても深刻な奇形になってしまうのである。

-(RETURN OF THE GOD HYPOTHESIS、314ページ)

 

これらの主張を裏付けるものとして、メイヤーはカリフォルニア工科大学の発生生物学者である故エリック・デイヴィッドソンの権威ある研究を引用しています。デイヴィッドソンは、dGRNを改変すると壊滅的な結果になることを率直に認めていたと述べています。メイヤーは、デイヴィッドソンの言葉を引用して次のように述べています。

 

デイヴィッドソンは、「dGRNのサブ回路が妨げられると、常に観察可能な結果が生じる。これらの結果は常に壊滅的に悪いものなので、柔軟性は最小限である」と強調している。

 

次にメイヤーは、dGRNの不変性が、新たなボディプランの起源を進化論的に説明する上で深刻な困難をもたらす理由を説明しました。

 

新しい動物のボディプランを構築するには、新しい遺伝子やタンパク質だけでなく、新しいdGRNが必要である。しかし、既存のdGRNから新しいdGRNを構築するには、既存のdGRNを変更しなければならない。これは、壊滅的な結果が起きるとデイヴィッドソンが示したまさにそのことである。このことからすると、既存のボディプランとdGRNから、新しい動物のボディプランと、それを産み出すのに必要な新しいdGRNがどのように進化できるのだろうか?デイヴィッドソン自身、実際には誰にもわからないと明言している。多くの進化論者が、初期の「変化しやすい」(柔軟性の高い) dGRNについて推測してきたが、生物学者が観察した発生途上の動物には、新しいボディプランの進化に必要とされるような弾力性を示すものはなかった。それゆえデイヴィッドソンは、これらの仮説的な変化しやすいdGRNについて議論する際に、進化生物学者は「現代のdGRNがモデルを提供しないところで」推測していることを認めている。

-(RETURN OF THE GOD HYPOTHESIS、314-315ページ)

 

メイヤーへの批判でフォークは、動物の新しいボディプランを産み出すのに必要な新しいdGRNを、進化の過程でどのように生成するのかについて、あえて説明しようとはしていませんし、説明できませんでした。なぜなら、発生遺伝子制御ネットワークについての私たちの知見が、新たなボディプランの進化的革新への大きな支障を提示していることを、デイヴィッドソンのような発生生物学の指導的専門家が認めているからです。代わりにフォークは、dGRNに関する我々の知識を、カンブリア爆発の謎が解明されたと見なす主要な理由として提示し、事実とされていることを正しく評価していないとしてメイヤーを非難しています。

深い理解

フォークはレビューの中で、メイヤーが進化生物学におけるdGRNと遺伝子重複の重要性について無知であるように描写しています。しかしこれまで見てきたように、メイヤーの著書には、dGRNと遺伝子重複のメカニズムの両方への深い理解を示しています。メイヤーはこの知識に基づいて様々な進化のメカニズムの創造力を詳細に批判してもいますが、フォークはそれを認めず、反論もしていません。

 

フォーク博士と彼のBioLogosの同僚たちが、インテリジェントデザインの支持者、特にスティーブン・メイヤーと生産的な「対話」をしたいと考えていることには感謝します。それでも、一方の当事者が他方の立場を誤って伝えたり、議論を認めなかったりする場合には、生産的な対話は起こりません。また、一方の当事者が、他方がきっぱりとかつ十分に記述し批判したアイデアや提案について無知であると主張しても、生産的な対話は起こりません。